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第一部
契約
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―――どうしてこうなったのだろう。俺は今、山頂で御鈴からよく分からない契約に
ついての話をされている。
はい?をWhatではなくYesで捉えられてしまうとは思っていなかった。
せめて、はあ?と言うべきだったのかもしれない。
「・・・・・・と、いう訳じゃ!分かったかの?」
「いや、ちょっとよく分かってない・・・」
「何故じゃ!妾がこうも丁寧に説明しておるのに!!」
頬を膨らませる御鈴に、どうしたものかと考える。いきなり神だの妖だのと言われ
ても、理解する方が難しいんじゃないだろうか。
「何が分からないのじゃ、もう一度説明してやるから言うてみい」
御鈴の言葉に、俺は少し考える。お遊びにしてはあまりにも真剣だし、何か事情が
あるのかもしれないと思いつつ、疑問を口にした。
「じゃあ・・・まず、妖って何だ?神が実在するかは置いておいて、妖って妖怪の
ことだろ?あんなの物語の中でしか聞いたことがないぞ?」
「まあ、見えない人間にとってはそうかもしれんのう・・・。妖とはそもそも、
大昔の人々が不可思議な事象を誰かの所為にしたくて作り出したモノなのじゃ。
その点で言えば、物語の中の登場人物と言っても過言ではないの。・・・ただ、
あ奴らも人間と同じように生きておる。存在しないモノではないんじゃぞ」
「じゃあもし仮にそれが本当だとして、妖は何処で暮らしてるんだ?」
俺の問いに、御鈴は俺の後ろを指さす。
振り向くもそこには何もなく、俺は首を傾げた。
「妖は何処にでもおる。人間が住んでいるような所でも、この山のように誰も住んで
いないようにみえる所でも、あ奴らは普通に暮らしておるんじゃ。まあ、見えない
人間が殆どじゃがの」
「はあ・・・」
にわかには信じがたい話だが、御鈴と会話していてふと思い出した。
・・・そういえば、数少ない友達の中にも一際変なのがいたな。あの双子は突然
何もない所を見たり、小さく手を振ったり・・・変な奴らだった。御鈴の話が本当
なら、もしかしてあいつらは見える人間だったんじゃないだろうか。
「分からないのはそれだけか?」
御鈴がそう言って首を傾げる。
「ああいや、他にもある。妖が見える見えないあるってのは分かった。じゃあ神は
どうなんだ?俺、神なんて見たことないんだが」
「今!目の前に!居るじゃろう!!」
御鈴がそう言いながら俺に詰め寄る。
「神が見えるってんなら、神社に行ったとき一度でも目に映るはずだろ!」
俺がそう言うと、御鈴はああ!と何かに納得したような表情を見せる。
「神も妖も、人間に化ければ誰にでも見えるんじゃよ。ちなみに神は、妖が見え
なかろうが神の誰かしらと《縁》があれば見えるようになる」
「何だそのトンデモ設定」
「そういうものなんじゃ!妾の言うことが信じられぬなら、お主の前で空でも
飛んでみせようか?」
俺の言葉に御鈴はそう言って立ち上がり、ほれ!と言って宙に浮く。
情報量でキャパオーバーしそうになる頭をどうにか整理しながら、信じざるを
得ない状況に溜息を吐く。
「分かった、うん、分かった・・・」
「分かってくれたか!」
御鈴は嬉しそうに笑うと、俺に手を差し出しながら言った。
「蒼汰が妾の従者になるのなら、お主の望むものを与えねばな!何が欲しい?
言うてみよ!」
従者になることは確定なのかと思いつつ、夏休みの暇つぶし程度の感覚でまあ
良いかと思う。
望むものを考えていると、ふとあれが思い付いた。
「何でも良いのか?」
「ああ、何でも良いぞ!」
ニコニコと笑う御鈴に、俺は口を開く。
「 」
俺の言葉に御鈴は目を見開いた後、悲しそうな顔をして俯いた。
「・・・すまぬ。それは、妾の力では与えられぬものじゃ」
手を下ろし、申し訳なさそうな顔で御鈴は言う。
「いや別に、思い付いたから言っただけだし」
俺がそう言うと、御鈴は涙目になりながら言った。
「お主の望むものではないが・・・妾の力なら少し渡せる。それでどうじゃ?手を
打ってはくれぬか・・・?」
「力って・・・神の?」
俺の言葉に御鈴はブンブンと首を縦に振る。
じゃあそれでと言うと、御鈴は俺の胸に小さな手を押し当てて小さな声で何かを
呟いた。
その瞬間、何だか胸の辺りが温かくなる。御鈴は俺の顔を見ると、小さく笑って
言った。
「よろしくな、蒼汰」
「・・・ああ」
少し不思議な感覚を覚えつつ、俺は頷く。すると、御鈴がハッとした顔をして
言った。
「わ、妾、契約内容言ったかの・・・?」
「・・・言ってないな」
やってしもうたあああと叫びながら、御鈴は頭を抱える。
「契約内容、何だったんだ?」
俺がそう聞くと、御鈴はおずおずと顔を上げて俺を見た。
「・・・お主は、妾を敵から守る。妾は、お主に力を分け与える」
「守るって・・・」
どうやって?と御鈴に聞くと、御鈴は突如手元に180cmほどの長い棒を出現
させた。
「お主、見た感じただの人間じゃからの。これで殴るなり、突くなり・・・まあ、
どうにかなるじゃろう!」
「はあ?!」
・・・この日、俺は御鈴という神の従者になった。
神の力によるものか知らないが、この日から変なものが見えるようになった。
俺の平凡な人生は終わりを告げ、知らない世界へと足を踏み入れる。夏休みの
暇つぶしで交わしたこの契約が、俺の人生を変えることになるとは・・・この時の
俺は、思いもしなかった。
ついての話をされている。
はい?をWhatではなくYesで捉えられてしまうとは思っていなかった。
せめて、はあ?と言うべきだったのかもしれない。
「・・・・・・と、いう訳じゃ!分かったかの?」
「いや、ちょっとよく分かってない・・・」
「何故じゃ!妾がこうも丁寧に説明しておるのに!!」
頬を膨らませる御鈴に、どうしたものかと考える。いきなり神だの妖だのと言われ
ても、理解する方が難しいんじゃないだろうか。
「何が分からないのじゃ、もう一度説明してやるから言うてみい」
御鈴の言葉に、俺は少し考える。お遊びにしてはあまりにも真剣だし、何か事情が
あるのかもしれないと思いつつ、疑問を口にした。
「じゃあ・・・まず、妖って何だ?神が実在するかは置いておいて、妖って妖怪の
ことだろ?あんなの物語の中でしか聞いたことがないぞ?」
「まあ、見えない人間にとってはそうかもしれんのう・・・。妖とはそもそも、
大昔の人々が不可思議な事象を誰かの所為にしたくて作り出したモノなのじゃ。
その点で言えば、物語の中の登場人物と言っても過言ではないの。・・・ただ、
あ奴らも人間と同じように生きておる。存在しないモノではないんじゃぞ」
「じゃあもし仮にそれが本当だとして、妖は何処で暮らしてるんだ?」
俺の問いに、御鈴は俺の後ろを指さす。
振り向くもそこには何もなく、俺は首を傾げた。
「妖は何処にでもおる。人間が住んでいるような所でも、この山のように誰も住んで
いないようにみえる所でも、あ奴らは普通に暮らしておるんじゃ。まあ、見えない
人間が殆どじゃがの」
「はあ・・・」
にわかには信じがたい話だが、御鈴と会話していてふと思い出した。
・・・そういえば、数少ない友達の中にも一際変なのがいたな。あの双子は突然
何もない所を見たり、小さく手を振ったり・・・変な奴らだった。御鈴の話が本当
なら、もしかしてあいつらは見える人間だったんじゃないだろうか。
「分からないのはそれだけか?」
御鈴がそう言って首を傾げる。
「ああいや、他にもある。妖が見える見えないあるってのは分かった。じゃあ神は
どうなんだ?俺、神なんて見たことないんだが」
「今!目の前に!居るじゃろう!!」
御鈴がそう言いながら俺に詰め寄る。
「神が見えるってんなら、神社に行ったとき一度でも目に映るはずだろ!」
俺がそう言うと、御鈴はああ!と何かに納得したような表情を見せる。
「神も妖も、人間に化ければ誰にでも見えるんじゃよ。ちなみに神は、妖が見え
なかろうが神の誰かしらと《縁》があれば見えるようになる」
「何だそのトンデモ設定」
「そういうものなんじゃ!妾の言うことが信じられぬなら、お主の前で空でも
飛んでみせようか?」
俺の言葉に御鈴はそう言って立ち上がり、ほれ!と言って宙に浮く。
情報量でキャパオーバーしそうになる頭をどうにか整理しながら、信じざるを
得ない状況に溜息を吐く。
「分かった、うん、分かった・・・」
「分かってくれたか!」
御鈴は嬉しそうに笑うと、俺に手を差し出しながら言った。
「蒼汰が妾の従者になるのなら、お主の望むものを与えねばな!何が欲しい?
言うてみよ!」
従者になることは確定なのかと思いつつ、夏休みの暇つぶし程度の感覚でまあ
良いかと思う。
望むものを考えていると、ふとあれが思い付いた。
「何でも良いのか?」
「ああ、何でも良いぞ!」
ニコニコと笑う御鈴に、俺は口を開く。
「 」
俺の言葉に御鈴は目を見開いた後、悲しそうな顔をして俯いた。
「・・・すまぬ。それは、妾の力では与えられぬものじゃ」
手を下ろし、申し訳なさそうな顔で御鈴は言う。
「いや別に、思い付いたから言っただけだし」
俺がそう言うと、御鈴は涙目になりながら言った。
「お主の望むものではないが・・・妾の力なら少し渡せる。それでどうじゃ?手を
打ってはくれぬか・・・?」
「力って・・・神の?」
俺の言葉に御鈴はブンブンと首を縦に振る。
じゃあそれでと言うと、御鈴は俺の胸に小さな手を押し当てて小さな声で何かを
呟いた。
その瞬間、何だか胸の辺りが温かくなる。御鈴は俺の顔を見ると、小さく笑って
言った。
「よろしくな、蒼汰」
「・・・ああ」
少し不思議な感覚を覚えつつ、俺は頷く。すると、御鈴がハッとした顔をして
言った。
「わ、妾、契約内容言ったかの・・・?」
「・・・言ってないな」
やってしもうたあああと叫びながら、御鈴は頭を抱える。
「契約内容、何だったんだ?」
俺がそう聞くと、御鈴はおずおずと顔を上げて俺を見た。
「・・・お主は、妾を敵から守る。妾は、お主に力を分け与える」
「守るって・・・」
どうやって?と御鈴に聞くと、御鈴は突如手元に180cmほどの長い棒を出現
させた。
「お主、見た感じただの人間じゃからの。これで殴るなり、突くなり・・・まあ、
どうにかなるじゃろう!」
「はあ?!」
・・・この日、俺は御鈴という神の従者になった。
神の力によるものか知らないが、この日から変なものが見えるようになった。
俺の平凡な人生は終わりを告げ、知らない世界へと足を踏み入れる。夏休みの
暇つぶしで交わしたこの契約が、俺の人生を変えることになるとは・・・この時の
俺は、思いもしなかった。
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