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8話

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 あの森で何かしましたか、なんて抽象的な質問、こちらに思うことがあればあるほど効果的だ。希は極力余計なことを言わないように意識して問い返した。

「何か、とはなんでしょうか。申し訳ないですが質問の意図が分かりかねます」
 
 意識しすぎて上司と会話するときみたいになってしまったが、まあ良いだろう。彼は何故かちょっと嬉しそうにして言い直す。
 
「私はこの森の結界を管理すると共に、魔物の動向、生態系の調査も行っています。1週間ほど前に森に来たときと比べて、魔物の数が明らかに減っているので、なにか心当たりはないかと」 
「さぁ……? 私の元いた世界では、魔物は存在していませんでした。この世界に来てから出会った生き物はみんな、みたことのない形をしていて、魔物と普通の生き物の区別もつきません。怖そうな生き物に出会ったときはひたすら逃げていました」
 
 やはり魔物関係か。希が言ったことは嘘ではないが、正直心当たりはある。
 出会った魔物の瘴気を吸い付くしまくっているということだ。光の精霊によると、瘴気を吸われた魔物は精霊に戻るとのことだったし、実際魔物だったものからふわふわと精霊のような光が飛び出していくのを毎回確認していた。そりゃあ魔物の数が有意に減っていてもおかしくはない。増えることはないのかという疑問は一旦置いておいて。
 でも、これが懸念通りに異世界人オリジナルで、かつ【聖女の出涸らし】が持つ力なのだとしたら、この力を知られた時点で人生終了の可能性がある。この人は権力も持っていそうな雰囲気を出しているし、この力の事はバレたくない。
 あくまでも、巻き込まれ召喚された、何の力も持たない異世界人という立場でいたい。
 それに――あの時みたいに、人じゃない、穢れたナニカをみる目を向けられるのも、怖い思いをするのももう嫌だ。
 ぐぐぐ、と彼とにらめっこをしていると、向こうが根負けしたように「はぁー」とため息を付いた。
 
「なにか色々と隠されているような気がしますが、取りあえずはいいでしょう」
「……へ?」

 思わず間抜けな声を出すと、彼はふ、と笑った。今までのにこーっとした笑顔ではなく、思わず零れてしまった、と言うような笑み。
 
「初対面の人間を信用して全てを話せと言う方が無理なお願いでした。まずは名乗らせてください」

 彼はす、と自身の胸に手を当てて礼をとる。その惚れ惚れするほど美しく滑らかな所作に見とれていると、彼はとうとう自分の立場を明らかにした。
 
 「私はフロウ。ここ、シトリン王国所属の魔法使いです。……貴女の、お名前は?」
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