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6話
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聖女が召喚されたことを知っているか、と問うた希に、目の前のイケメンは一瞬笑顔を消したが、すぐに元の表情に戻った。
「――聖女、ですか」
「はい。ここ数日の話です。異世界から聖女が召喚されました」
ダメ押し的にもう一度繰り返す。森をさまよっていたので詳細な日数は分からないのですが、と続けると、男は微かに眉をあげ、驚いた表情を見せる。希が知っていることに驚いたのか、それとも聖女が召喚されたという事実に驚いたのか、分からないけれど。希は畳み掛けるように続ける。
「私はその聖女と一緒に召喚されてこの世界に来ました。ですが、聖女でない私は要らないと、森に捨てられました。私は、どうにか生きのびて森を散策していました。――死にたくないだけなんです。どうか、見逃してくれませんか」
瘴気を吸い取る力があることは一応黙っておく。あの白い光の精霊の口ぶりからするに、空気清浄機的な人間は希少だろうと予想できたからだ。というか精霊たちは本当にどこに行ったのだ。
ともかく、それ以外で口に出したことは全て事実だ。男は、希の話を黙って聞いたあと、
「にわかには信じられませんが、貴女が聖女召喚の儀が行われたことを知りうる立場の人だと言うことは信じましょう」
といった。
「じゃあ、見逃してくれるんですか!」
「禁域に無断で侵入したことを咎めない訳にはいきません。記録にも残りますので、すぐにバレますよ」
「え。私魔物に食われて死んだことになっていると思うので、奴らにバレたら殺されるかもしれないんですけど」
もしくはもう1回森に転がされる。
男は、ジリジリと後退する希ににっこりと笑顔を向けた。その笑顔に騙される人も多いんだろうが私は騙されない。黒髪イケメンで話し方が丁寧でよく笑う男は腹黒かサイコパスと相場が決まっているのだ。心のシャッターを完全に閉じた希へ、柔らかい声音で男はなおも告げる。
「今すぐここで死ぬか、私に大人しく着いてくるか、どちらがいいですか?」
ほらやっぱりサイコパスじゃん……。
希は泣きながら、両手を上げて降参の意を示した。
「着いていくので殺さないで下さい……」
「よろしい」
では、と。話しながらも再びジリジリと取っていた距離を一息に詰められ、降参のポーズをしていた左手の手首を捕まれた。端正な顔が近づき、彼のショートボブがさらりと揺れる。自分とお揃いの黒目があった瞬間、心臓がどきんと変な弾み方をした。とんでもない吊り橋効果だ、とのんきなことを考えられたのも一瞬。男が何事かを呟くと同時にぐにゃりと世界の輪郭が滲むようなとんでもない目眩に襲われて意識を吹っ飛ばした。
「――聖女、ですか」
「はい。ここ数日の話です。異世界から聖女が召喚されました」
ダメ押し的にもう一度繰り返す。森をさまよっていたので詳細な日数は分からないのですが、と続けると、男は微かに眉をあげ、驚いた表情を見せる。希が知っていることに驚いたのか、それとも聖女が召喚されたという事実に驚いたのか、分からないけれど。希は畳み掛けるように続ける。
「私はその聖女と一緒に召喚されてこの世界に来ました。ですが、聖女でない私は要らないと、森に捨てられました。私は、どうにか生きのびて森を散策していました。――死にたくないだけなんです。どうか、見逃してくれませんか」
瘴気を吸い取る力があることは一応黙っておく。あの白い光の精霊の口ぶりからするに、空気清浄機的な人間は希少だろうと予想できたからだ。というか精霊たちは本当にどこに行ったのだ。
ともかく、それ以外で口に出したことは全て事実だ。男は、希の話を黙って聞いたあと、
「にわかには信じられませんが、貴女が聖女召喚の儀が行われたことを知りうる立場の人だと言うことは信じましょう」
といった。
「じゃあ、見逃してくれるんですか!」
「禁域に無断で侵入したことを咎めない訳にはいきません。記録にも残りますので、すぐにバレますよ」
「え。私魔物に食われて死んだことになっていると思うので、奴らにバレたら殺されるかもしれないんですけど」
もしくはもう1回森に転がされる。
男は、ジリジリと後退する希ににっこりと笑顔を向けた。その笑顔に騙される人も多いんだろうが私は騙されない。黒髪イケメンで話し方が丁寧でよく笑う男は腹黒かサイコパスと相場が決まっているのだ。心のシャッターを完全に閉じた希へ、柔らかい声音で男はなおも告げる。
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