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2話
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おそらく同じ場所、日本から誘拐されてきたのであろう少女が、助けを求めるような眼をした。境遇は同じであるが、年長者として希は彼女を助けてやらねばならない、と手を伸ばし、
「あ」
互いに口を開こうとしたその瞬間、希の世界は暗転した。
そして意識を取り戻した時には白装束の集団に担がれて森の中というわけだ。ことの次第が急すぎて全くついていけない。とりあえず芋虫よろしく蠢いて拘束をほどこうとするが、一向にうまくいかない。
「グォォォォ……」
「んッ!?」
ぐにゃぐにゃと体をひねって奮闘していると、明らかに人間のそれではないうめき声がどこからともなく聞こえてきて、ぴたりと動きを止めた。確か誘拐犯は「魔物の餌に――」みたいなことを言っていた。なんで生きたまま食わせようとするの。
だらだらと冷や汗を流しながら、ぎゅうっと目をつぶり必死に祈る。
どうか私ではなく、さっき私を置いて帰った白装束の軍団を襲って下さい……!
夜の森を抜ける風が木々を揺らす音、そこに交じるうめき声はだんだん大きくなっていき――
恐る恐る目を開けて、やめときゃ良かったと後悔した。
「グルルルル……」
目の前にはライオンくらいのサイズの黒い塊。夜でもわかるほどギラギラした赤い目が希を捕らえて離さない。ハッハッ、と荒い息遣いの合間にはぼたぼたとよだれが落ち、口からは鋭い犬歯が覗いていた。そして何より、強烈な腐敗臭が漂う。夏の暑い日に死体を何日も放置したかのような。
「ゔぇ」
胃の奥底から不快感がせりあがってきて、吐き出そうとするが口を覆う布にさえぎられてうまくいかない。自身の吐しゃ物の匂いも混ざって、さらにもらいゲロしそうだ。
希はボロボロと涙を流しながら自分の運命を呪った。
私が一体何をしたというの。ただ静かに生きてきただけなのに突然誘拐されてこんな目に合わされるなんて。死んだら全員末代まで呪ってやる。その時はお前らが末代になるけどな。ふざけるな。ふざけるなよ――
死ぬ瞬間って、ほんとに世界はスローモーションになるんだ。
なんて頭の片隅でのんきなことを考えながら、眼前に迫る牙を見つめる。
が、いつまでたっても覚悟した痛みはやってこない。スローモーションになったのではなく、獣の動きが止まっていた。
「……?」
視線を上へ流せば、焦点の合わない赤い瞳から光が失われていることに気が付く。そして獣の輪郭が揺らいでいることにも。黒い塊はさらさらと砂城が波にさらわれていくようにほどけて細かい粒子となり、風にさらわれて霧散する――と思いきや、明確な引力をもって希の胸元に吸い込まれていった。
「あ」
互いに口を開こうとしたその瞬間、希の世界は暗転した。
そして意識を取り戻した時には白装束の集団に担がれて森の中というわけだ。ことの次第が急すぎて全くついていけない。とりあえず芋虫よろしく蠢いて拘束をほどこうとするが、一向にうまくいかない。
「グォォォォ……」
「んッ!?」
ぐにゃぐにゃと体をひねって奮闘していると、明らかに人間のそれではないうめき声がどこからともなく聞こえてきて、ぴたりと動きを止めた。確か誘拐犯は「魔物の餌に――」みたいなことを言っていた。なんで生きたまま食わせようとするの。
だらだらと冷や汗を流しながら、ぎゅうっと目をつぶり必死に祈る。
どうか私ではなく、さっき私を置いて帰った白装束の軍団を襲って下さい……!
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恐る恐る目を開けて、やめときゃ良かったと後悔した。
「グルルルル……」
目の前にはライオンくらいのサイズの黒い塊。夜でもわかるほどギラギラした赤い目が希を捕らえて離さない。ハッハッ、と荒い息遣いの合間にはぼたぼたとよだれが落ち、口からは鋭い犬歯が覗いていた。そして何より、強烈な腐敗臭が漂う。夏の暑い日に死体を何日も放置したかのような。
「ゔぇ」
胃の奥底から不快感がせりあがってきて、吐き出そうとするが口を覆う布にさえぎられてうまくいかない。自身の吐しゃ物の匂いも混ざって、さらにもらいゲロしそうだ。
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