悪役令嬢(吸血鬼)に転生したけど女の子の血しか吸えないらしい

三門鉄狼

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悪役令嬢(吸血鬼)の本気

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 日が昇る。

 この世界の吸血鬼は火の光に弱いなんてことはない。
 一度死んで蘇った私は、私を蘇らせてくれたルーデシアと一緒に、学園校舎の地下室を出た。

 そしてそのまま校舎の玄関まで行き、そこに立つ。

 もちろんあの男を待つためだ。

 やがて登校時間が来て、生徒たちが姿を見せる。

 登校してきた生徒たちは、私を見てギョッとする。
 そりゃそうか。
 昨日思い切り剣で斬られ死んだはずの人間が、平気な顔して立ってるんだから。

 いや、人間じゃなくて吸血鬼だけどね。

 あ、ちなみに制服は、校舎の服飾室から予備を勝手にいただいて着替えた。
 あのままだと血塗れだったし、胸が丸見えになっちゃうからね。

 先生方も登校してきて、私の姿に目を丸くした。

 なにがあったのかと訊いてくる先生もいたが、私はただ一言、

「ジャスティン王子ともう一度決闘します」

 とだけ答えた。

 やがて生徒から話を聞きつけたのか、少し急ぎ足でジャスティン王子が現れた。

 相変わらず麗しい、惚れ惚れするような外見。

 でも、今の私にはもう、あなたがルーデシアとお似合いだとはとても思えない。

「化け物か……!」

 ジャスティン王子は私の姿を見るなりそう呟いた。
 いまさら腹も立ちませんね。

「ええ、そう。あなたから見ればそうね」

「ルーデシアを離せ」

「べつに拘束なんかしていない。ルーは自分の意思で私と一緒にいるの」

「黙れ! どうせくだらない妖術で彼女を操っているんだろう? そうでなければ、ルーデシアが薄汚い吸血鬼に味方するはずがない!」

 妖術って……。
 そんな便利な能力があったら、血を吸うのにあんなに苦労しなかったっての。

「そんなに吸血鬼のこと貶していいのかなぁ?」

 私はにっこりと笑みを浮かべながら言う。

「……どういう意味だ?」

「ルー」

 私の言葉にルーデシアは頷くと、一歩前に出てジャスティン王子に頭を下げた。

「ごめんなさい、殿下。私はあなたと一緒にはなれません」

「ルーデシア、落ち着くんだ。君は騙されている。その化け物に騙されているんだ。さあこっちにおいで。私を信じて」

 やれやれだ。
 一見優しげだけど、自分の考えを一方的に言うだけで、ルーデシアの話を聞こうともしていない。
 王族はそんなもんだと言ってしまえばそうなのかもしれないけど、でもやっぱり――この男がルーデシアと結ばれるなんて許せない。

「ごめんなさい」

 再度首を振って、ジャスティン王子を拒絶するルーデシア。

「どうしてだ!」

 声を荒らげる王子。
 あらあら、みっともない。

 私は種明かしをしてあげる。

「どうしてか教えてあげる。ルーはもう吸血鬼なの。私の眷属になったの。だから、吸血鬼を薄汚いなんて言っちゃうあなたとは、ルーは一緒になれないのよ!」

「…………なんだと」

 驚愕に目を見開くジャスティン王子。

 続いて目線を向けられたルーデシアは、照れ臭そうに頷くと、私の腕に両腕を絡めて抱きついてきた。
 えっへっへ、照れますね……。

「ふざけるなふざけるなふざけるな!」

 そんな私たちの様子を見たジャスティン王子がついにキレた。
 その場で剣を抜き放つと、問答無用で私たちに襲いかかってきた。

 私はその剣を、素手で受け止める。

 難しいことじゃない。
 手のひらに魔力を集中させて防壁にしたのだ。

「ねえ、今の、下手したらルーも斬れてたけど」

「だからどうした! 吸血鬼化した売女なんかいるか!」

 はっはっは、すごい暴言ですね、王子様。
 みんな見てるけどいいのかなぁ。

 けどジャスティン王子は頭に血が上っていて、そんなこと気にしてらんないようだ。

 ちょっと身を引くと、すぐに剣を横に振って攻撃してくる。
 私はそれをまた受け止めて、今度は握り締めてやる。

 そのまま腕に魔力を込めて、剣を押し返す。

「なっ……ぐっ……なんだその力」

 前の決闘のときとはまるで違う私に、ジャスティン王子は驚いている。
 
 そう、これが吸血鬼としての私の本当の力なのだ。
 これまでは血から得る魔力が少なすぎて実力が発揮できていなかった。

 ルーデシアと契約して、彼女からたっぷりと血をもらった。
 その結果がこれだ。
 まるで覚醒した気分。

 私はジャスティン王子を力任せにぶん投げる。

「がはっ!」

 抵抗する余裕もなく石畳にひっくり返る王子。
 握っていた剣の刃が衝撃でぼきんと折れてしまった。

「ひっ、な、なんなんだ、お前!」

 怯えた声を上げるジャスティン王子。
 私はそんな彼の頭を掴み、地面に押さえつける。

「吸血鬼だよ。あなたが蔑んでいる、醜くてみすぼらしくて薄汚い、血を吸う鬼だよ」

 にっこりと微笑んでやる。
 三日月みたいに開いた口の端に、鋭い牙が覗いたことだろう。
 それを見て、ジャスティン王子は顔を引きつらせる。

「あなたも吸血鬼にしてあげましょうか?」

 そう言って、私は空いている方の手で彼の肩を押さえつけ、首筋に顔を寄せる。

 がっと口を大きく開いて、歯を全部剥き出して見せてやる。

「ひー! やめ、やめてくれ! いやだ、いやだいやだいやだ!」

 じだばたどたばた暴れる王子は、最終的に泡を吹いて気絶してしまった。

 私は小さく鼻を鳴らして立ち上がる。

 ばーか。
 あなたなんか眷属にしたくないっての。

「シルフィラ!」

 ルーデシアが駆け寄ってきた。

「よかった。今度は怪我してない?」

 そう言って抱きついてくる。
 あーもう、可愛いなぁ!

 私はルーデシアを片手で支えると、もう片方の手を掲げると、その場にいた生徒たちに向けて言う。

「見てのとおり、ジャスティン王子との決闘は私の勝ち。ルーデシアはこのシルフィラ・ブラドフィリアのもの。文句がある者はかかってきなさい。吸血鬼の全力で迎えうってあげるから」

 歓声もなにも上りはしない。
 誰も彼も、怯えた様子で私たちを見ていた。

 べつに構わない。
 私は悪役令嬢。
 嫌われて当然の存在なんだから。

 けど、だからって運命を素直に受け入れると思ったら大間違い。

 私はルーデシアと一緒にいたいと思った。
 彼女がジャスティン王子と結ばれるなんて嫌だと思った。
 それは私のわがまま。
 でも、だからって遠慮する必要なんてないよね。
 わがまま放題好き放題やってこその悪役令嬢じゃない?

 だから、元のゲームのシナリオなんて知ったことか。
 ヒロインと王子役のハッピーエンドがぶち壊し?
 悪役令嬢の死亡ルートはどうしたって?

 そんなもんは知らない。
 私は私のわがままで、やりたいようにやらせてもらうからね。
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