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決闘なんてしたくない!
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「覚悟は良いか、ブラドフィリア嬢」
いいえ良くないです。
「これは騎士の誇りをかけた決闘だ。たとえ命を落としても恨み言はなしだ」
いいえ恨みます末代までたたりますよ。
と、心の中では不満たらたらだけど、ジャスティン王子の言葉に頷くしかない私。
ここは学園の中庭。
私とジャスティン王子は向かい合って、互いに剣を構えている。
周りにはたくさんの生徒と、不安そうに私を見つめるルーデシア。
先生方もいるが、止めようとする者はいない。
王子であるジャスティンに意見できないのだろう。
決闘、である。
私とジャスティン王子の。
なんでこんなことになったのかというと――話は今日の昼休みに遡る。
――昼休み。
「うう、やば……血が足りない……」
私は校舎を出て、裏庭に来ていた。
ここは日当たりが悪くて、人が来ることがほとんどない。
それがわかっているので私はベンチに横になる。
実は、今日の朝は寝坊してしまい、おまけに血液スープをひっくり返してこぼしてしまったせいで、魔力不足だったのだ。
ただでさえ最近はお昼を抜いているので血液が足りてないというのに。
このままでは、また吸血衝動が起こってしまう。
教室の誰彼構わずチューチューしてしまうかもしれない。
そんなことにならないように、今日は早退した方がいいかも。
そんなことを考えていると、声をかけられた。
「シルフィラさん、大丈夫?」
ルーデシアだった。
「どうしてここに?」
「なんか、今日は顔色が悪そうだったから。お昼はいつも食堂に行くのに、違う方に向かってたし、気になって」
「そう……」
私のことよく見てるね。
「シルフィラさん、どうして言ってくれないんですか? 血が足りないんでしょ。だったら私の血を吸ってください」
ありがとう。
やっぱり優しいね、あなたは。
でもダメなの。
あなたはジャスティン王子と結ばれる運命で、私はそれを妨害してはいけない。
そうしないと私は死ぬことになる。
そういうシナリオなの。
なんて言うわけにもいかず、私は適当にごまかす。
「あなたの血が足りなくなってしまうでしょう」
そう言うと、彼女は笑って両腕でガッツポーズをする。
「大丈夫ですよ! 私、子供のころはいっつも男の子と喧嘩して、血の気が多いって言われてたんですから!」
へえ、そうなんだ。
ふふふ、それはちょっと意外。
って感心してる場合じゃないよ。
説得、失敗してるじゃない。
どうしよう、とにかくこの子から離れないと。
とウジウジ悩む私に、ルーデシアはグイッと顔を近づけてきた。
「ほら、どうぞ」
う……。
ルーデシアは制服の襟を引っ張って、自ら首筋を晒してくる。
その真っ白な肌を見ると、あの夜のことを思い出してしまう。
その柔らかな皮膚を貫く感触。
口の中に広がる甘やかな血の味。
あ、ダメ。
我慢できない。
「はむ……」
「んっ……」
気づけば私はルーデシアの肩を掴み、首筋に牙を突き立てていた。
つぷっ、と皮膚を刺し、滲み出てきた血を一口。
ああ、美味しい……。
「なにをしている!?」
そこに無粋な声が響く。
「ルーデシアから離れろ!」
現れたのはジャスティン王子だった。
王子はズカズカと私たちのところまでやってきて、私の手からルーデシアを奪い取ってしまった。
「あ……」
「油断も好きもないな、ブラドフィリア嬢。こうやってどれだけの人間を毒牙にかけるつもりだ」
いや毒とかないですし。
「やはり吸血鬼は危険な存在だ。この世界から排除せねばならない」
「待ってください、ジャスティン王子」
ルーデシアが慌てた様子で言う。
「シルフィラさんが襲ってきたわけじゃないんです。辛そうだったので、私から血をあげようと……」
「ルーデシア、君は騙されているんだ。吸血鬼の妖術に操られ、気づけば血を絞り取られて死ぬことになるぞ」
そんな妖術使えませんって!
しかしジャスティン王子は、私の話もルーデシアの話も聴く気はないようだ。
とにかく吸血鬼の私が元凶だと思いたいらしい。
「ブラドフィリア嬢。どうしてもルーデシアの血を奪いたいというなら、私と決闘したまえ。正々堂々と、正面から手に入れてみたまえ」
というわけで、決闘することになってしまったのでした。
えーやだー!
いいえ良くないです。
「これは騎士の誇りをかけた決闘だ。たとえ命を落としても恨み言はなしだ」
いいえ恨みます末代までたたりますよ。
と、心の中では不満たらたらだけど、ジャスティン王子の言葉に頷くしかない私。
ここは学園の中庭。
私とジャスティン王子は向かい合って、互いに剣を構えている。
周りにはたくさんの生徒と、不安そうに私を見つめるルーデシア。
先生方もいるが、止めようとする者はいない。
王子であるジャスティンに意見できないのだろう。
決闘、である。
私とジャスティン王子の。
なんでこんなことになったのかというと――話は今日の昼休みに遡る。
――昼休み。
「うう、やば……血が足りない……」
私は校舎を出て、裏庭に来ていた。
ここは日当たりが悪くて、人が来ることがほとんどない。
それがわかっているので私はベンチに横になる。
実は、今日の朝は寝坊してしまい、おまけに血液スープをひっくり返してこぼしてしまったせいで、魔力不足だったのだ。
ただでさえ最近はお昼を抜いているので血液が足りてないというのに。
このままでは、また吸血衝動が起こってしまう。
教室の誰彼構わずチューチューしてしまうかもしれない。
そんなことにならないように、今日は早退した方がいいかも。
そんなことを考えていると、声をかけられた。
「シルフィラさん、大丈夫?」
ルーデシアだった。
「どうしてここに?」
「なんか、今日は顔色が悪そうだったから。お昼はいつも食堂に行くのに、違う方に向かってたし、気になって」
「そう……」
私のことよく見てるね。
「シルフィラさん、どうして言ってくれないんですか? 血が足りないんでしょ。だったら私の血を吸ってください」
ありがとう。
やっぱり優しいね、あなたは。
でもダメなの。
あなたはジャスティン王子と結ばれる運命で、私はそれを妨害してはいけない。
そうしないと私は死ぬことになる。
そういうシナリオなの。
なんて言うわけにもいかず、私は適当にごまかす。
「あなたの血が足りなくなってしまうでしょう」
そう言うと、彼女は笑って両腕でガッツポーズをする。
「大丈夫ですよ! 私、子供のころはいっつも男の子と喧嘩して、血の気が多いって言われてたんですから!」
へえ、そうなんだ。
ふふふ、それはちょっと意外。
って感心してる場合じゃないよ。
説得、失敗してるじゃない。
どうしよう、とにかくこの子から離れないと。
とウジウジ悩む私に、ルーデシアはグイッと顔を近づけてきた。
「ほら、どうぞ」
う……。
ルーデシアは制服の襟を引っ張って、自ら首筋を晒してくる。
その真っ白な肌を見ると、あの夜のことを思い出してしまう。
その柔らかな皮膚を貫く感触。
口の中に広がる甘やかな血の味。
あ、ダメ。
我慢できない。
「はむ……」
「んっ……」
気づけば私はルーデシアの肩を掴み、首筋に牙を突き立てていた。
つぷっ、と皮膚を刺し、滲み出てきた血を一口。
ああ、美味しい……。
「なにをしている!?」
そこに無粋な声が響く。
「ルーデシアから離れろ!」
現れたのはジャスティン王子だった。
王子はズカズカと私たちのところまでやってきて、私の手からルーデシアを奪い取ってしまった。
「あ……」
「油断も好きもないな、ブラドフィリア嬢。こうやってどれだけの人間を毒牙にかけるつもりだ」
いや毒とかないですし。
「やはり吸血鬼は危険な存在だ。この世界から排除せねばならない」
「待ってください、ジャスティン王子」
ルーデシアが慌てた様子で言う。
「シルフィラさんが襲ってきたわけじゃないんです。辛そうだったので、私から血をあげようと……」
「ルーデシア、君は騙されているんだ。吸血鬼の妖術に操られ、気づけば血を絞り取られて死ぬことになるぞ」
そんな妖術使えませんって!
しかしジャスティン王子は、私の話もルーデシアの話も聴く気はないようだ。
とにかく吸血鬼の私が元凶だと思いたいらしい。
「ブラドフィリア嬢。どうしてもルーデシアの血を奪いたいというなら、私と決闘したまえ。正々堂々と、正面から手に入れてみたまえ」
というわけで、決闘することになってしまったのでした。
えーやだー!
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