悪役令嬢(吸血鬼)に転生したけど女の子の血しか吸えないらしい

三門鉄狼

文字の大きさ
上 下
14 / 19

決闘なんてしたくない!

しおりを挟む
「覚悟は良いか、ブラドフィリア嬢」

 いいえ良くないです。

「これは騎士の誇りをかけた決闘だ。たとえ命を落としても恨み言はなしだ」

 いいえ恨みます末代までたたりますよ。

 と、心の中では不満たらたらだけど、ジャスティン王子の言葉に頷くしかない私。

 ここは学園の中庭。
 私とジャスティン王子は向かい合って、互いに剣を構えている。

 周りにはたくさんの生徒と、不安そうに私を見つめるルーデシア。
 先生方もいるが、止めようとする者はいない。
 王子であるジャスティンに意見できないのだろう。

 決闘、である。
 私とジャスティン王子の。

 なんでこんなことになったのかというと――話は今日の昼休みに遡る。


 ――昼休み。

「うう、やば……血が足りない……」

 私は校舎を出て、裏庭に来ていた。
 ここは日当たりが悪くて、人が来ることがほとんどない。

 それがわかっているので私はベンチに横になる。

 実は、今日の朝は寝坊してしまい、おまけに血液スープをひっくり返してこぼしてしまったせいで、魔力不足だったのだ。

 ただでさえ最近はお昼を抜いているので血液が足りてないというのに。

 このままでは、また吸血衝動が起こってしまう。
 教室の誰彼構わずチューチューしてしまうかもしれない。

 そんなことにならないように、今日は早退した方がいいかも。

 そんなことを考えていると、声をかけられた。

「シルフィラさん、大丈夫?」

 ルーデシアだった。

「どうしてここに?」
「なんか、今日は顔色が悪そうだったから。お昼はいつも食堂に行くのに、違う方に向かってたし、気になって」
「そう……」

 私のことよく見てるね。

「シルフィラさん、どうして言ってくれないんですか? 血が足りないんでしょ。だったら私の血を吸ってください」

 ありがとう。
 やっぱり優しいね、あなたは。

 でもダメなの。
 あなたはジャスティン王子と結ばれる運命で、私はそれを妨害してはいけない。
 そうしないと私は死ぬことになる。
 そういうシナリオなの。

 なんて言うわけにもいかず、私は適当にごまかす。

「あなたの血が足りなくなってしまうでしょう」

 そう言うと、彼女は笑って両腕でガッツポーズをする。

「大丈夫ですよ! 私、子供のころはいっつも男の子と喧嘩して、血の気が多いって言われてたんですから!」

 へえ、そうなんだ。
 ふふふ、それはちょっと意外。

 って感心してる場合じゃないよ。
 説得、失敗してるじゃない。

 どうしよう、とにかくこの子から離れないと。

 とウジウジ悩む私に、ルーデシアはグイッと顔を近づけてきた。

「ほら、どうぞ」

 う……。

 ルーデシアは制服の襟を引っ張って、自ら首筋を晒してくる。
 その真っ白な肌を見ると、あの夜のことを思い出してしまう。

 その柔らかな皮膚を貫く感触。
 口の中に広がる甘やかな血の味。

 あ、ダメ。
 我慢できない。

「はむ……」
「んっ……」

 気づけば私はルーデシアの肩を掴み、首筋に牙を突き立てていた。

 つぷっ、と皮膚を刺し、滲み出てきた血を一口。

 ああ、美味しい……。

「なにをしている!?」

 そこに無粋な声が響く。

「ルーデシアから離れろ!」

 現れたのはジャスティン王子だった。

 王子はズカズカと私たちのところまでやってきて、私の手からルーデシアを奪い取ってしまった。

「あ……」

「油断も好きもないな、ブラドフィリア嬢。こうやってどれだけの人間を毒牙にかけるつもりだ」

 いや毒とかないですし。

「やはり吸血鬼は危険な存在だ。この世界から排除せねばならない」

「待ってください、ジャスティン王子」

 ルーデシアが慌てた様子で言う。

「シルフィラさんが襲ってきたわけじゃないんです。辛そうだったので、私から血をあげようと……」

「ルーデシア、君は騙されているんだ。吸血鬼の妖術に操られ、気づけば血を絞り取られて死ぬことになるぞ」

 そんな妖術使えませんって!

 しかしジャスティン王子は、私の話もルーデシアの話も聴く気はないようだ。

 とにかく吸血鬼の私が元凶だと思いたいらしい。

「ブラドフィリア嬢。どうしてもルーデシアの血を奪いたいというなら、私と決闘したまえ。正々堂々と、正面から手に入れてみたまえ」

 というわけで、決闘することになってしまったのでした。

 えーやだー!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...