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朝のひととき
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窓から差し込む日の光が眩しい。
私は眠い目を擦って身を起こす。
床の上にだらしなく眠る私。
その隣ではルーデシアが静かに寝息を立てていた。
「…………」
今思い出しても顔が熱くなる。
私は、一晩中ルーデシアの血を吸った。
と言っても、本当にひたすら吸ってたらルーデシアが干物になっちゃう。
だから、ほとんどの時間は形だけ。
血を吸うフリをして、首筋の傷を舐めたり、しゃぶったりしてた。
そうでもしないと治らなかったのだ。
あのひどい吸血衝動。
血を飲みたいっていう心の底からの欲望。
いいかげん私も気がついた。
なんで私がこれまで血を飲めなかったのか。
なんで人から直接血を吸おうとしたら吐き気を催したのか。
前世が普通の人間だったから、というのは関係なかった。
そうじゃなくて……。
私は――女の子の血しか吸えないのだ。
…………うーん。
おっかしいなぁ。
べつに私レズじゃないんだけど……。
普通に男の人が好きなんだけど。
ルーデシアは確かに可愛いと思うけど、べつに恋愛的にどうこうとか、そういう気持ちにはならないし。
でも、あれか。
恋愛的な性別と、吸血のための性別は関係ないのかな。
私の気持ちは男が好きだけど。
私の身体は女の血を求めてる。
うわ、なんかエロいな……。
そして厄介だ。
お父様は、十七歳の誕生日までに血を吸う相手を見つけろと言っていた。
多くの場合、その相手は私の結婚相手にもなる。
でもこの世界は――特に貴族の社会は、結婚といえば家同士の関係を強め、子孫を残すためのものだ。
女同士なんて絶対に認められないだろう。
なので私の場合、血を吸う相手と、結婚相手はべつに見つけなきゃいけないのかな?
うーん、ややこしいことになりそう。
そもそも、なんでそんなことになってるわけ?
『ロマファン』の悪役令嬢であるシルフィラには、女の子の血しか吸えないなんて設定はなかった。
普通に男の血を求めてて、だからこそジャスティン王子を狙って、邪魔者のルーデシアを殺そうとしていたのだ。
なのにシルフィラのはずの私はこんな体質。
わけがわからんよ……。
「ん……」
と、ルーデシアが小さく声を上げて目を覚ました。
「あ、おはよう」
「おはようございます……」
私の挨拶にまだ寝ぼけた口調で答えながら、目をくしくしと擦るルーデシア。
なんか、妙に色っぽい。
頬にかかる数束の金色の髪なんか、たまらないエロス。
あれ、おかしいな?
私、昨日までそこまでルーデシアのこと見てドキドキしたりしなかったんだけど。
なにこの感覚?
「……あれ、私なんでこんなところに……シルフィラさん? どうして…………っ!」
呟いている途中で昨夜のことを思い出したらしく、ルーデシアは顔を真っ赤に染めた。
「わ、きゃ、あの、私昨日……」
「うん。ありがとう。おかげで助かった。首は大丈夫? 痛くない?」
私はお礼を言って、それから彼女の首筋に手を伸ばす。
乱れた制服。
そこから覗く白い首筋には、もう傷跡が残っていなかった。
あれ、なんで?
……そうだ。
吸血鬼の牙からは微弱な治癒魔力が分泌されていて、噛まれた傷はすぐに治るんだったっけ。
便利だな。
すっ、とルーデシアの肌に触れ、そっと撫でる。
そこは、本当になにもなかったみたいに、なだらかだ。
安心したような、ちょっと寂しいような……。
「わ、私、戻りますね!」
ばっ! と逃げるように立ち上がるルーデシア。
スカートの裾を踏んづけて転びそうになりながら、部屋を出て行こうとする。
「あ……」
思わずそれに手を伸ばしてしまう私。
彼女は、その思いが通じたかのように扉の手前で立ち止まると、少しだけ顔を振り向けて言ってきた。
「ま、また血が必要になったら言ってくださいね……いつでも、大丈夫ですから」
そして、ルーデシアはあっという間に去っていった。
どうしてだろう。
なんだかすごく、胸がいっぱいで。
涙が溢れて止まらない。
私は眠い目を擦って身を起こす。
床の上にだらしなく眠る私。
その隣ではルーデシアが静かに寝息を立てていた。
「…………」
今思い出しても顔が熱くなる。
私は、一晩中ルーデシアの血を吸った。
と言っても、本当にひたすら吸ってたらルーデシアが干物になっちゃう。
だから、ほとんどの時間は形だけ。
血を吸うフリをして、首筋の傷を舐めたり、しゃぶったりしてた。
そうでもしないと治らなかったのだ。
あのひどい吸血衝動。
血を飲みたいっていう心の底からの欲望。
いいかげん私も気がついた。
なんで私がこれまで血を飲めなかったのか。
なんで人から直接血を吸おうとしたら吐き気を催したのか。
前世が普通の人間だったから、というのは関係なかった。
そうじゃなくて……。
私は――女の子の血しか吸えないのだ。
…………うーん。
おっかしいなぁ。
べつに私レズじゃないんだけど……。
普通に男の人が好きなんだけど。
ルーデシアは確かに可愛いと思うけど、べつに恋愛的にどうこうとか、そういう気持ちにはならないし。
でも、あれか。
恋愛的な性別と、吸血のための性別は関係ないのかな。
私の気持ちは男が好きだけど。
私の身体は女の血を求めてる。
うわ、なんかエロいな……。
そして厄介だ。
お父様は、十七歳の誕生日までに血を吸う相手を見つけろと言っていた。
多くの場合、その相手は私の結婚相手にもなる。
でもこの世界は――特に貴族の社会は、結婚といえば家同士の関係を強め、子孫を残すためのものだ。
女同士なんて絶対に認められないだろう。
なので私の場合、血を吸う相手と、結婚相手はべつに見つけなきゃいけないのかな?
うーん、ややこしいことになりそう。
そもそも、なんでそんなことになってるわけ?
『ロマファン』の悪役令嬢であるシルフィラには、女の子の血しか吸えないなんて設定はなかった。
普通に男の血を求めてて、だからこそジャスティン王子を狙って、邪魔者のルーデシアを殺そうとしていたのだ。
なのにシルフィラのはずの私はこんな体質。
わけがわからんよ……。
「ん……」
と、ルーデシアが小さく声を上げて目を覚ました。
「あ、おはよう」
「おはようございます……」
私の挨拶にまだ寝ぼけた口調で答えながら、目をくしくしと擦るルーデシア。
なんか、妙に色っぽい。
頬にかかる数束の金色の髪なんか、たまらないエロス。
あれ、おかしいな?
私、昨日までそこまでルーデシアのこと見てドキドキしたりしなかったんだけど。
なにこの感覚?
「……あれ、私なんでこんなところに……シルフィラさん? どうして…………っ!」
呟いている途中で昨夜のことを思い出したらしく、ルーデシアは顔を真っ赤に染めた。
「わ、きゃ、あの、私昨日……」
「うん。ありがとう。おかげで助かった。首は大丈夫? 痛くない?」
私はお礼を言って、それから彼女の首筋に手を伸ばす。
乱れた制服。
そこから覗く白い首筋には、もう傷跡が残っていなかった。
あれ、なんで?
……そうだ。
吸血鬼の牙からは微弱な治癒魔力が分泌されていて、噛まれた傷はすぐに治るんだったっけ。
便利だな。
すっ、とルーデシアの肌に触れ、そっと撫でる。
そこは、本当になにもなかったみたいに、なだらかだ。
安心したような、ちょっと寂しいような……。
「わ、私、戻りますね!」
ばっ! と逃げるように立ち上がるルーデシア。
スカートの裾を踏んづけて転びそうになりながら、部屋を出て行こうとする。
「あ……」
思わずそれに手を伸ばしてしまう私。
彼女は、その思いが通じたかのように扉の手前で立ち止まると、少しだけ顔を振り向けて言ってきた。
「ま、また血が必要になったら言ってくださいね……いつでも、大丈夫ですから」
そして、ルーデシアはあっという間に去っていった。
どうしてだろう。
なんだかすごく、胸がいっぱいで。
涙が溢れて止まらない。
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