悪役令嬢(吸血鬼)に転生したけど女の子の血しか吸えないらしい

三門鉄狼

文字の大きさ
上 下
1 / 19

悪役令嬢(吸血鬼)に転生した

しおりを挟む
 ここはどこだろう。
 見慣れない天井の模様を眺めながら私は思う。

 確か、修学旅行中に乗っていたバスが事故を起こしたんだ。
 ひどい揺れで座席から投げ出されて、どこかに強く頭を打ってそのまま気を失った。

 じゃあここは病院?
 と思ったけど、どうも違うみたいだ。
 こんな石造りの豪華な……まるで異世界ファンタジーの建物みたいな病院なんてないだろう。

 それに。

(なんだろう。身体が動かせない)

 拘束されているとか、大怪我をしているとか、そういう感じじゃない。
 まるで身体がイメージより小さすぎて、その違和感に慣れてないせいで動けない感じ。

(うーん、これはまさか)

 信じられないけど、一つの可能性に私は思い至る。
 だってほら、言葉を話せないのも、なんだかそれっぽい。

 さっきから私の口からは、

「だうあうあう~」

 と意味をなさない幼児語――喃語ってやつだ――しか出てこないし。

 そう。
 私は異世界転生した――っていう可能性。

「君に似て美しい顔立ちだ」

 ん?
 日本語?

 赤ん坊であるらしい私の顔を覗き込んだ髭のおじ様が、普通に日本語を喋っておる。

「いやですわ、あなたったら。生まれたばかりでまだどんな顔かなんてわからないじゃありませんか」

 私の隣から綺麗な女性の声がする。
 やっぱり日本語だね。

 どうもこの二人は私の両親らしいな。

 おじ様改めお父様の見た目からして、そこそこ裕福な家に生まれたらしい。
 それはラッキーだけど、二人が日本語を使っているのが気になる。

 ここ、異世界じゃないの?

「名前はどうしますの、あなた」
「ああ、すでに決めてある」

 と私の疑問をよそに両親は幸せそうな会話を続けている。

「女の子ならシルフィラだ」
「シルフィラ……いい名前ですわ」

 シルフィラ!?
 その名前に私は驚く。
 なぜなら、その名前を私はよく知っているからだ。

「ああ。きっとこの子は、ブラドフィリア家を継ぐ素敵な娘に育つに違いない」

 ブラドフィリア家!

 間違いなかった。
 シルフィラ・ブラドフィリア。
 それは、私が修学旅行前にプレイしていたゲームの登場キャラクターの名前だ。

 大人気の女性向け恋愛シミュレーションゲーム『ロマンス・オブ』シリーズ。
 その第一作である『ロマンス・オブ・ファンタジア』にシルフィラは登場する。

 といっても主人公ではない。
 主人公の女の子と王子役の仲を裂こうとするライバルお嬢様キャラ。
 いわゆる悪役令嬢ポジション。

 なるほど。
 ゲーム世界への悪役令嬢転生。
 だったら両親の使用言語が日本語なのも頷ける。

 そして私は少しホッとする。
 ロマファンの世界はわりと平和で穏やかで、主な舞台は魔法学園だ。
 つまり転生したらめっちゃ過酷な世界でした、というオチは待っていない。

 しかもブラドフィリア家はお貴族様。
 確か公爵だったかな……。
 なので、生活の心配も当面なし。

 え? これってもしかして、私超勝ち組じゃない?
 悪役令嬢転生ガチャSSRじゃない?

 うーん、でもなんだろうな。
 なにか忘れてるような気がする。

 実際シルフィラはエピソードの一つにちょっと登場するだけのキャラ。
 出番が少ないまま退場しちゃったので、あまり印象に残ってない。

「そろそろ食事を差し上げませんと」

 そんな声が聞こえてくる。
 乳母かな。

 えーと、食事ってやっぱり母乳かな。
 ちょっときついものがあるんだけど……身体が赤ん坊だから仕方ないか……。

 と思ったら、乳母はなんか壺みたいなものを持ち出して、私の口にあてがってくる。

 この世界では母乳を直接与えない習慣なのかな?
 まあ、私としてはそのほうがありがたいけど。
 普通の赤ん坊はそれ、飲みにくくない?

 そんなことを思いながら、壺から流れ込んでくる液体を飲む私。
 ん? なにこれ?
 乳じゃないね。
 なにかのスープというわけでもない。
 どろっとしてて、鉄錆みたいな変な味……。

「たくさん血を飲んで、大きくなるのですよ」

 とお母さま。

 血ーーーーーー!
 ああ、そうですね。
 この味はカッターで指を切ったときに味わった、あの血と同じだ。

 そして私はいっぺんに思い出した。

 シルフィラ・ブラドフィリア。

 彼女は――というか私は、悪役令嬢にして、吸血鬼だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...