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第6章 ガルアシラ・ヴォルフォンシアガルド編
229 フィルシオールの話
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「ライレンシアっ!?」
ガタッと立ち上がるドグラ。
お前のライレンシアのことじゃねえ座ってろ。
皇帝陛下の言うライレンシアってのは当然ライレンシア博士のことだろう。
皇帝の側近のような立場の科学者。
ヴォルフォニア帝国の先進的な兵器のほぼ全てを開発した人物。
魔族として最初に覚醒した人物。
そして大変動を引き起こして大陸を真っ二つにした人物でもある。
今は廃都ダンジョンのどこかにいるはずだ。
「どうして今更そんなことを? 陛下は彼女と一緒に魔族による国家を樹立するのが目的なのでは?」
と問うのはラッカムさんだ。
このメンツの中では一番大人だししっかりと受け答えできるはずだ。
いや、ドグラやマグラ、クラクラのほうが歳上だとは思うけどね。
皇帝陛下はラッカムさんの言葉に頷く。
「ああ、そのつもりだった。しかしライレンシアはそうではなかったらしい」
そして陛下は語り出す。
「どうやらライレンシアは、自分が魔族の血を引いていることを以前から知っていたようだ。そして万が一覚醒が起こったときのために密かに準備を進めていた」
なんだって……?
彼女の魔族の覚醒は俺が天空塔ダンジョンと接続したことがきっかけだ。
それを想定していたってのか?
それはつまり彼女がヘルメスの意思を知っていたということになる。
そんなことが可能なのか?
〈じゃあ、ライレンシア博士はこの世界に起こることを事前に把握していたってことですか?〉
俺が問うと皇帝陛下は慌てて首を振った。
「いや、違う。彼女もそこまでわかっていたわけではない。ただ、大陸の魔力の流れを研究することで、魔王という存在が実在したこと、それがまだ完全には滅んでいないことや復活する可能性があること、そうなれば各地で魔族の覚醒が起こることなどを予測していたにすぎない」
なるほど……。
しかし『すぎない』というわりにはその予測はとんでもないものだ。
なにしろほぼ正解を言い当ててるんだから。
「じゃああの大変動は?」
「あれもライレンシアの意思ではない。あのときの彼女はまだ精神を魔力に支配されていた」
ラッカムさんの問いにそう答える皇帝陛下。
「あのとき……ということは、今はそうではないということでしょうか?」
「その通りだ。今の彼女にはライレンシアとしての意識が復活している。そうなるように自分の体内に術式を仕込んでおいたらしい。ただ――」
〈ただ、なんです?〉
言い淀む皇帝陛下に俺は続きを促す。
陛下はそれでも少し迷っていたが、やがて口を開いた。
「ただ――想定外の事態が起こった。彼女の魔力が廃都ダンジョンと結びついてしまったのだ」
ガタッと立ち上がるドグラ。
お前のライレンシアのことじゃねえ座ってろ。
皇帝陛下の言うライレンシアってのは当然ライレンシア博士のことだろう。
皇帝の側近のような立場の科学者。
ヴォルフォニア帝国の先進的な兵器のほぼ全てを開発した人物。
魔族として最初に覚醒した人物。
そして大変動を引き起こして大陸を真っ二つにした人物でもある。
今は廃都ダンジョンのどこかにいるはずだ。
「どうして今更そんなことを? 陛下は彼女と一緒に魔族による国家を樹立するのが目的なのでは?」
と問うのはラッカムさんだ。
このメンツの中では一番大人だししっかりと受け答えできるはずだ。
いや、ドグラやマグラ、クラクラのほうが歳上だとは思うけどね。
皇帝陛下はラッカムさんの言葉に頷く。
「ああ、そのつもりだった。しかしライレンシアはそうではなかったらしい」
そして陛下は語り出す。
「どうやらライレンシアは、自分が魔族の血を引いていることを以前から知っていたようだ。そして万が一覚醒が起こったときのために密かに準備を進めていた」
なんだって……?
彼女の魔族の覚醒は俺が天空塔ダンジョンと接続したことがきっかけだ。
それを想定していたってのか?
それはつまり彼女がヘルメスの意思を知っていたということになる。
そんなことが可能なのか?
〈じゃあ、ライレンシア博士はこの世界に起こることを事前に把握していたってことですか?〉
俺が問うと皇帝陛下は慌てて首を振った。
「いや、違う。彼女もそこまでわかっていたわけではない。ただ、大陸の魔力の流れを研究することで、魔王という存在が実在したこと、それがまだ完全には滅んでいないことや復活する可能性があること、そうなれば各地で魔族の覚醒が起こることなどを予測していたにすぎない」
なるほど……。
しかし『すぎない』というわりにはその予測はとんでもないものだ。
なにしろほぼ正解を言い当ててるんだから。
「じゃああの大変動は?」
「あれもライレンシアの意思ではない。あのときの彼女はまだ精神を魔力に支配されていた」
ラッカムさんの問いにそう答える皇帝陛下。
「あのとき……ということは、今はそうではないということでしょうか?」
「その通りだ。今の彼女にはライレンシアとしての意識が復活している。そうなるように自分の体内に術式を仕込んでおいたらしい。ただ――」
〈ただ、なんです?〉
言い淀む皇帝陛下に俺は続きを促す。
陛下はそれでも少し迷っていたが、やがて口を開いた。
「ただ――想定外の事態が起こった。彼女の魔力が廃都ダンジョンと結びついてしまったのだ」
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