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第5章 天空塔ダンジョン編
EX35 皇帝と博士の話・Ⅱ
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ヴォルフォニア帝国の帝都。
大陸の北端にあるこの大都市にも、地震が発生していた。
「陛下、お怪我は!?」
「問題ない」
駆け寄ってきた家臣に向け、そう答える。
そう大きな揺れではなかった。
彼には、護衛の兵士がすぐさま駆けつけ、崩落物を警戒してくれた。
怪我などしようもない。
それよりも。
「帝都に被害は出ていないか? 宮殿内は?」
「はっ。これから調査をいたしますが、大きな被害は発生していない模様です」
「そうか……」
ならばいい、と息をついたそのときだ。
――ドゴオオオオオン!
と大砲でも撃ち込まれたかのような大音声が響き渡る。
宮殿の奥にある離れの方角だ。
「ライレンシア!」
皇帝――フィルシオール十七世は慌てふためいて玉座の間を飛び出す。
追いかける家臣を無視して、回廊を抜け、離れへ。
広大な内庭に建てられた、石造の離れ。
ライレンシア博士の研究室となっているその建物が崩壊していた。
上半分が吹き飛んで、周囲に瓦礫となっていた。
下半分が残った建物からは煙が立ち昇っている。
「ライレンシア! 無事か!」
普段の泰然自若とした態度からは想像もつかない取り乱しぶりで駆け寄る。
自ら瓦礫を避けようと手を伸ばす。
「危険です、陛下! ここは我らが!」
兵士たちが急いで皇帝の前に立ち、撤去作業を始める。
「うう……」
と、建物の壁の向こうから声が聞こえた。
「ライレンシア!」
「陛下……逃げて、ください……」
「馬鹿を言うな! 今助ける!」
「いえ……私は平気ですから……それよりも、このままでは――がぁあ!」
「ライレンシア! どうした!?」
苦しげな声に、フィルシオールはますます平生を失う。
「早くしろ! 彼女を――」
だが、彼が最後まで言い切るより早く。
――ドガアアアアアアアアアン!
建物の残り下半分が突然吹き飛んだ。
「陛下!」
兵士がフィルシオールを庇う。
その一人が石塊をまともに受け、吹っ飛んでいった。
「なっ……!」
内庭の地面に倒れたフィルシオールは愕然としてその姿を目にした。
全壊した研究室の建物の上空に、ライレンシアが浮いていた。
否――それがライレンシアだと、彼はすぐには気づけなかった。
元の彼女は典型的なエルフの外見だった。
白い透き通るような肌に、絹のような金色の髪。
両眼は澄んだ空のような青色。
しかし今や彼女はその全てを失い、代わりにまるで違う姿を獲得していた。
あらゆる光を飲み込むような闇色の肌。
大量の血を吸ったかのような赤色の髪。
人の欲を掻き立てるような黄金色の両眼。
そんな姿の存在をこれまで見たこともないはずなのに。
フィルシオールは、自然とその言葉を口にしていた。
「……魔族?」
大陸の北端にあるこの大都市にも、地震が発生していた。
「陛下、お怪我は!?」
「問題ない」
駆け寄ってきた家臣に向け、そう答える。
そう大きな揺れではなかった。
彼には、護衛の兵士がすぐさま駆けつけ、崩落物を警戒してくれた。
怪我などしようもない。
それよりも。
「帝都に被害は出ていないか? 宮殿内は?」
「はっ。これから調査をいたしますが、大きな被害は発生していない模様です」
「そうか……」
ならばいい、と息をついたそのときだ。
――ドゴオオオオオン!
と大砲でも撃ち込まれたかのような大音声が響き渡る。
宮殿の奥にある離れの方角だ。
「ライレンシア!」
皇帝――フィルシオール十七世は慌てふためいて玉座の間を飛び出す。
追いかける家臣を無視して、回廊を抜け、離れへ。
広大な内庭に建てられた、石造の離れ。
ライレンシア博士の研究室となっているその建物が崩壊していた。
上半分が吹き飛んで、周囲に瓦礫となっていた。
下半分が残った建物からは煙が立ち昇っている。
「ライレンシア! 無事か!」
普段の泰然自若とした態度からは想像もつかない取り乱しぶりで駆け寄る。
自ら瓦礫を避けようと手を伸ばす。
「危険です、陛下! ここは我らが!」
兵士たちが急いで皇帝の前に立ち、撤去作業を始める。
「うう……」
と、建物の壁の向こうから声が聞こえた。
「ライレンシア!」
「陛下……逃げて、ください……」
「馬鹿を言うな! 今助ける!」
「いえ……私は平気ですから……それよりも、このままでは――がぁあ!」
「ライレンシア! どうした!?」
苦しげな声に、フィルシオールはますます平生を失う。
「早くしろ! 彼女を――」
だが、彼が最後まで言い切るより早く。
――ドガアアアアアアアアアン!
建物の残り下半分が突然吹き飛んだ。
「陛下!」
兵士がフィルシオールを庇う。
その一人が石塊をまともに受け、吹っ飛んでいった。
「なっ……!」
内庭の地面に倒れたフィルシオールは愕然としてその姿を目にした。
全壊した研究室の建物の上空に、ライレンシアが浮いていた。
否――それがライレンシアだと、彼はすぐには気づけなかった。
元の彼女は典型的なエルフの外見だった。
白い透き通るような肌に、絹のような金色の髪。
両眼は澄んだ空のような青色。
しかし今や彼女はその全てを失い、代わりにまるで違う姿を獲得していた。
あらゆる光を飲み込むような闇色の肌。
大量の血を吸ったかのような赤色の髪。
人の欲を掻き立てるような黄金色の両眼。
そんな姿の存在をこれまで見たこともないはずなのに。
フィルシオールは、自然とその言葉を口にしていた。
「……魔族?」
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