上 下
181 / 286
第4章 フィオンティアーナ編

EX25 少年と商人とゴーレムの話

しおりを挟む
「せっかくお越しいただいたのに、主が不在で申し訳ございません」

 メイドのカタリナは商人のエド・チェインハルトに深々と頭を下げた。

 エドはにこやかにそれに答える。

「いえいえ、事前にお知らせもせず、突然まいりましたこちらが悪いのです。でも、せっかくですからね。我々の新製品を置いていきますよ」

「あら、なんでございましょう」

「きっと、あなたや、使用人のベルさんのお役に立つでしょう」

 その言葉にカタリナは無言で頷く。
 そして部屋を出ていった。

 ここはバリガンガルドにあるガレンシア公の居城である。

 ガレンシア公爵は不在だった。
 ヴォルフォニア帝国の軍務大臣カッセルに呼ばれ、兵を連れていった。
 保護国(実質植民地)で独立を主張するエルフの国・フリエルノーラ国が目的地だ。

 帝国がエルフ狩りを行なっているらしい。
 ガレンシア公爵も、その手伝いに付き合わされているのだろう。

 エドはその情報はすでに耳にしていた。
 だが、手を出す気はない。

(どう転んでも、こちらの益になりますからね)

 紅茶を飲んでいると、カタリナがベルを連れて戻ってきた。

 ベルは、部屋に入るまでとぼけたような表情をしていた。
 が、カタリナが扉を閉じるなり、凛々しい表情になる。

「相変わらず、素晴らしい変わり身ですね」

「もう長年のことだからね」

 ベルは肩を竦める。

「それより、例のものは?」

「こちらです」

 エドは席を立つと、部屋の壁に立てかけておいた、大きな箱を示す。

 棺のようだが、普通の棺より一回りほど大きい。

「カタリナ、カーテンを」

「かしこまりました」

 ベルに言われ、カタリナがカーテンを閉める。

 薄暗い部屋の中で、エドは怪しく笑みを浮かべる。

「では」

 そう言って、彼は棺の蓋を開いた。

「おお……」

「これは……」

 ベルとカタリナは息を呑む。

 箱の中には、一体のゴーレムが収まっていた。
 フルアーマーのような外見。
 しかし明らかに製法も、材質も、普通の鎧とは別物。

 ベルは知らないことだが。
 それは絶海の孤島ダンジョンに大量に埋まっているのと同種のものだった。

「動くのか?」

「どうぞ、命令してみてください」

「……前へ出ろ」

 エドに言われ、ベルはゴーレムに命じる。

 ゴーレムは静かに前進した。

「部屋を一周しろ」

 ベルがさらに指示すると、ゴーレムは言われた通りに動く。

「……すごいな」

「はい。実際に確かめていただければ分かりますが、力仕事は得意です。四頭建ての馬車を引き、城壁を拳で破壊することが可能です。防御力も高く、矢、銃、大砲、通常のエルフレベルの魔法など、大抵の攻撃は防げます」

「これをいくつ貸してもらえる?」

「すぐになら百体。必要に応じて順次、五百体といったところです」

 ベルは笑い声をあげた。

「それはありがたい。これがあれば、恐れるものはない! 僕はこの城を取り戻すことができる!」

「ありがとうございます、エド様」

 カタリナは深々と頭を下げた。

 エドは軽く笑みを浮かべる。

「とんでもありません。このバリガンガルドは冒険者のための自由な都市であって欲しいのです。そのためには、ヴォルフォニア帝国と、現在のガレンシア公の管理は好ましくない。ぜひとも、本来の、活気あるバリガンガルドを、そしてあなたの領地であるガレンシア公国を、取り戻すための手助けをさせてください」

「ああ、感謝するよ、エド。領地を取り戻した暁には、冒険者ギルドを望みの数だけ建てて、手厚く保護することを改めて約束する」

 ベルは、エドが手助けの見返りとして以前要求したことを、改めて口にする。

 少年は、それが商人の目的のすべてだと思っている。

 ゴーレムを自分に貸し与えることで彼がなにを起こそうとしているのか、知らない。

「ところでエド。このゴーレムは、どういう原理で制御しているんだ? ゴーレムはヘルメスの秘術が生み出したもので、その制御方法はまだ解明できていなかったはずだ」

「ふふ……」

 エドはにこやかに笑みを浮かべると、こう答えた。

「それはご勘弁ください。企業秘密というやつですので」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...