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第4章 フィオンティアーナ編
149 オークにはオークの事情があるという
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えーと、なんでこんなことになったんだ……?
どうも、リビングアーマーの俺です。
人犬族のロロコ。
エルフのクラクラ。
ドワーフ嬢のアルメル。
忍者のヒナワ。
五人はポローナニアの代表者とオークキングの会談の場に同席していた。
ここはポローナニア郊外の古代遺跡。
市民の避難所にもなっている場所だ。
その中の、会議室のようになっている部屋に俺たちはオークキングを連れてきた。
そこではもともと、オーク大量発生への対策が話し合われていた。
そこへオークキングの出現の報がもたらされたのだ。
代表者の人たちもさぞ驚いたことだろう。
たまたま近くに居合わせた俺たちが、護衛役としてこの場にいるというわけ。
まあ俺たち冒険者資格を持ってるわけだしね。
こういう業務をしてもおかしくはない。
ただ、この場で荒事が起こる可能性は低い気がする。
なにしろオークキングは助けを求めているのだ。
「……で? どういうことなんだ、助けを乞いたいってのは? そもそも街を襲っているのはあんたたちオークで、俺たちはそれに困っているんだが」
ポローナニア商業組合の代表の一人が問いかける。
席の並びから察すると、この街は代表者数人による合議制って感じだな。
対面に座ったオークキングは頭を下げながら答える。
「それに関しては本当に申し訳ない。しかし、我らオークも望んであのようなことをしているわけではないのだ」
「食糧不足で仕方なく――とでも言うつもりか? とてもそうは見えない暴れっぷりだけどな」
「そうではない……我らは、魔法によって正気を失わされているのだ」
「正気を……?」
怪訝な顔をする相手に対して、オークキングは事情を語る。
「我ら一族は、天空塔ダンジョンの周辺に暮らしている。人と争うこともあったが、そもそも人同士も土地をめぐって争うもの。それと同じで、生きるための行為だ。それは理解していただけると思う」
「……まあいいだろう」
渋々といった感じで頷くポローナニアの人たち。
「しかしここ十年ほどの街への襲撃は我らの意思ではない。天空塔ダンジョンに設置された、おかしな装置のせいなのだ」
「おかしな装置?」
「十年ほど前、ヴォルフォニア帝国の研究者だという者たちが我らの土地を訪れた。ライレンシア博士と名乗る者に率いられたその者たちは、我らに取引を持ちかけた。我らに食料を供給する代わりに、天空塔ダンジョンの案内を頼んできたのだ」
おいおい、まーたヴォルフォニア帝国がなんか絡んでるの?
…………。
……ちょっと待て。
ライレンシア博士?
ライレンシア!?
それって、ドラゴン娘のドグラが結婚の約束をしてた人の名前じゃなかったっけ?
それが十年前、ここを訪れたって?
待て待て。
ドグラの話は何百年も前のことだろ。
ってことはさすがにたまたま同名ってことか……?
「我らはその取引に応じた。言われるままに、彼らを天空塔ダンジョンの最上階へ案内した」
天空塔ダンジョンって一番の難関とかリザルドさんが言ってなかったっけ?
そんな簡単に最上階までいけるものなのか?
そんな疑問を呟くと、ヒナワが小声で教えてくれた。
「天空塔ダンジョンは特殊な作りで、『管理者』というのが存在している。管理者に指定された者はダンジョンの中を自由に行き来できるのだ。ただし管理者や、管理者に案内されてダンジョンを行動した者は、ダンジョン内のものを持ち帰ることができない。そのような魔法が施されているのだ」
へー。
なんかすごい人工的なダンジョンなんだな。
「最上階には高純度の魔鉱石が置かれているのは知っているだろう」
とオークキング。
ああ、フィオンティアーナで話していたやつだな。
ゴブリン娘のラファを助けるために必要な最高純度の魔鉱石。
そのうちの一つは天空塔ダンジョンにあるって話だった。
ちなみにもう一つはチェインハルト商会の実験施設な。
それを譲り受けるために行動してて、俺たちは今こんなところにいるわけだ。
ずいぶん遠回りしてるけど……。
まあ、それはいい。
それよりオークキングさんの話の続きだ。
「我らと共に移動した彼らは魔鉱石を持ち帰ることはできない。しかし彼らは、魔鉱石を持ち帰るのではなく、そこに奇妙な装置を設置した」
「それはなんだったのだ?」
「わからぬ。尋ねてみたが、ライレンシア博士は観測装置だと答えた。詳しいことは話さなかったし、我らも理解できぬと思い詳しくは尋ねなかった。だが――」
オークキングは悔しげに拳を握る。
「あの装置が設置されてから、我らの同胞におかしな行動を取る者が現れたのだ。毎年、この時期になると、正気を失い、人の街へ襲撃に向かう者たちが増える。先代の王の意向で、我らは我らのみの力でなんとかしようとしてきたが、どうにもならなかった」
「管理者であるそなたたちなら、魔鉱石に取り付けられた装置とやらを外すなり破壊するなりできるのではないか?」
ヒナワが訊いたのに対して、オークキングは首を横に振った。
「それが……装置の設置とときを同じくして、天空塔ダンジョンの最上階にエンシェント・ドラゴンが住み着いてしまった。七つの都市を破壊したと言われる、伝説の厄災だ。あれはダンジョンとは関係のない存在なので、我らにはどうすることもできぬ」
……どっかで聞いたことのあるドラゴンだな。
もしかしなくてもドグラの妹のマグラじゃね、そいつ?
「先日、ドラゴンに挑んだ先代の王が敗れ、ダンジョンから身を投げて死んだ。跡を継いだ私は、オークだけで解決できる問題ではないと主張し、こうしてそなたたちを訪れたというわけだ」
なるほど……。
事情はわかってきた。
「話はわかった。つまり……その、天空塔ダンジョンにいるドラゴンをなんとかして、その装置を破壊なり取り外すなりしてほしい、とそういうわけか」
「そうだ。オークと人双方の安全のため、なんとかお願いできないだろうか」
そう言ってオークキングは深々と頭を下げた。
ポローナニアの人たちは困惑して顔を見合わせる。
そりゃそうだ。
伝説の災厄と言われたエンシェント・ドラゴン。
そんなもん誰が対処できるというのか。
…………。
「ねえ、リビたん」
ああ、わかってるロロコ。
俺も同じこと考えてた。
ひょっとしてこれ、ドグラに頼めばどうにかなるんじゃね?
どうも、リビングアーマーの俺です。
人犬族のロロコ。
エルフのクラクラ。
ドワーフ嬢のアルメル。
忍者のヒナワ。
五人はポローナニアの代表者とオークキングの会談の場に同席していた。
ここはポローナニア郊外の古代遺跡。
市民の避難所にもなっている場所だ。
その中の、会議室のようになっている部屋に俺たちはオークキングを連れてきた。
そこではもともと、オーク大量発生への対策が話し合われていた。
そこへオークキングの出現の報がもたらされたのだ。
代表者の人たちもさぞ驚いたことだろう。
たまたま近くに居合わせた俺たちが、護衛役としてこの場にいるというわけ。
まあ俺たち冒険者資格を持ってるわけだしね。
こういう業務をしてもおかしくはない。
ただ、この場で荒事が起こる可能性は低い気がする。
なにしろオークキングは助けを求めているのだ。
「……で? どういうことなんだ、助けを乞いたいってのは? そもそも街を襲っているのはあんたたちオークで、俺たちはそれに困っているんだが」
ポローナニア商業組合の代表の一人が問いかける。
席の並びから察すると、この街は代表者数人による合議制って感じだな。
対面に座ったオークキングは頭を下げながら答える。
「それに関しては本当に申し訳ない。しかし、我らオークも望んであのようなことをしているわけではないのだ」
「食糧不足で仕方なく――とでも言うつもりか? とてもそうは見えない暴れっぷりだけどな」
「そうではない……我らは、魔法によって正気を失わされているのだ」
「正気を……?」
怪訝な顔をする相手に対して、オークキングは事情を語る。
「我ら一族は、天空塔ダンジョンの周辺に暮らしている。人と争うこともあったが、そもそも人同士も土地をめぐって争うもの。それと同じで、生きるための行為だ。それは理解していただけると思う」
「……まあいいだろう」
渋々といった感じで頷くポローナニアの人たち。
「しかしここ十年ほどの街への襲撃は我らの意思ではない。天空塔ダンジョンに設置された、おかしな装置のせいなのだ」
「おかしな装置?」
「十年ほど前、ヴォルフォニア帝国の研究者だという者たちが我らの土地を訪れた。ライレンシア博士と名乗る者に率いられたその者たちは、我らに取引を持ちかけた。我らに食料を供給する代わりに、天空塔ダンジョンの案内を頼んできたのだ」
おいおい、まーたヴォルフォニア帝国がなんか絡んでるの?
…………。
……ちょっと待て。
ライレンシア博士?
ライレンシア!?
それって、ドラゴン娘のドグラが結婚の約束をしてた人の名前じゃなかったっけ?
それが十年前、ここを訪れたって?
待て待て。
ドグラの話は何百年も前のことだろ。
ってことはさすがにたまたま同名ってことか……?
「我らはその取引に応じた。言われるままに、彼らを天空塔ダンジョンの最上階へ案内した」
天空塔ダンジョンって一番の難関とかリザルドさんが言ってなかったっけ?
そんな簡単に最上階までいけるものなのか?
そんな疑問を呟くと、ヒナワが小声で教えてくれた。
「天空塔ダンジョンは特殊な作りで、『管理者』というのが存在している。管理者に指定された者はダンジョンの中を自由に行き来できるのだ。ただし管理者や、管理者に案内されてダンジョンを行動した者は、ダンジョン内のものを持ち帰ることができない。そのような魔法が施されているのだ」
へー。
なんかすごい人工的なダンジョンなんだな。
「最上階には高純度の魔鉱石が置かれているのは知っているだろう」
とオークキング。
ああ、フィオンティアーナで話していたやつだな。
ゴブリン娘のラファを助けるために必要な最高純度の魔鉱石。
そのうちの一つは天空塔ダンジョンにあるって話だった。
ちなみにもう一つはチェインハルト商会の実験施設な。
それを譲り受けるために行動してて、俺たちは今こんなところにいるわけだ。
ずいぶん遠回りしてるけど……。
まあ、それはいい。
それよりオークキングさんの話の続きだ。
「我らと共に移動した彼らは魔鉱石を持ち帰ることはできない。しかし彼らは、魔鉱石を持ち帰るのではなく、そこに奇妙な装置を設置した」
「それはなんだったのだ?」
「わからぬ。尋ねてみたが、ライレンシア博士は観測装置だと答えた。詳しいことは話さなかったし、我らも理解できぬと思い詳しくは尋ねなかった。だが――」
オークキングは悔しげに拳を握る。
「あの装置が設置されてから、我らの同胞におかしな行動を取る者が現れたのだ。毎年、この時期になると、正気を失い、人の街へ襲撃に向かう者たちが増える。先代の王の意向で、我らは我らのみの力でなんとかしようとしてきたが、どうにもならなかった」
「管理者であるそなたたちなら、魔鉱石に取り付けられた装置とやらを外すなり破壊するなりできるのではないか?」
ヒナワが訊いたのに対して、オークキングは首を横に振った。
「それが……装置の設置とときを同じくして、天空塔ダンジョンの最上階にエンシェント・ドラゴンが住み着いてしまった。七つの都市を破壊したと言われる、伝説の厄災だ。あれはダンジョンとは関係のない存在なので、我らにはどうすることもできぬ」
……どっかで聞いたことのあるドラゴンだな。
もしかしなくてもドグラの妹のマグラじゃね、そいつ?
「先日、ドラゴンに挑んだ先代の王が敗れ、ダンジョンから身を投げて死んだ。跡を継いだ私は、オークだけで解決できる問題ではないと主張し、こうしてそなたたちを訪れたというわけだ」
なるほど……。
事情はわかってきた。
「話はわかった。つまり……その、天空塔ダンジョンにいるドラゴンをなんとかして、その装置を破壊なり取り外すなりしてほしい、とそういうわけか」
「そうだ。オークと人双方の安全のため、なんとかお願いできないだろうか」
そう言ってオークキングは深々と頭を下げた。
ポローナニアの人たちは困惑して顔を見合わせる。
そりゃそうだ。
伝説の災厄と言われたエンシェント・ドラゴン。
そんなもん誰が対処できるというのか。
…………。
「ねえ、リビたん」
ああ、わかってるロロコ。
俺も同じこと考えてた。
ひょっとしてこれ、ドグラに頼めばどうにかなるんじゃね?
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