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第3章 絶海の孤島ダンジョン編

88 鋼のゴブリン娘

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 俺たちを助けてくれたゴブリン娘のラファ。
 彼女は左腕の付け根から義手を装着していた。

 金属のようにも見えるし、石のようにも見える不思議な材質だ。
 サイズは俺の――つまり鎧の腕より少し大きいくらい。
 彼女の生身の腕と比べると二倍以上のサイズだ。

 すごく不釣り合い。
 どう考えても、彼女のために作られたものじゃないだろう。

「それはなに?」

 ロロコの問いに、ラファはその巨大な腕を持ち上げて答える。

「よくわかんない。昔拾った」

 いやいやいやいや!
 義手ってそういうもんじゃないでしょ?

「ダイヤモンド・ワームに腕を食われちゃったことがあってさ。そのとき偶然見つけたこれが、なんか肩にくっついたんだよね。それ以来ずっと、役に立ってくれてるんだ」

 謎すぎる……。
 あと、さらっと腕食われたとか言ってるのすげえな。

「ラファはずっと洞窟で暮らしてるの?」

 とロロコ。

「うん。あたしらゴブリンはだいたいこの辺で暮らしてる」
〈ほかのゴブリンと一緒に暮らしはしないのか?〉
「んー、あたし、人間の血が混じってるからね。それにあいつら、悪いやつじゃないんだけど、乱暴だし、あたしのこと襲ってくるからさ」

 それは悪い奴なのでは……?

「ゴブリンはメス――失礼。女性に比べて男性の比率がかなり高い種族なんです。だから機会を逃さず交尾――性行為を行おうとするし、他種族を襲ったりもします」

 とアルメル。

 なるほど。
 ロロコやアルメルに対する態度もそれが理由か。

「まーでもこの腕があれば困んないからさ」

〈そうだ。さっきの攻撃は、この腕から出てきたのか?〉

「うん、そうだよー。こうやってね」

 とラファは義手を構える。
 見ていると、ガション、と音がして腕の真ん中あたりで折れ曲がった。
 その中には、大砲みたいな形の武器がある。

 なんだそれ、すげえ!
 かっけえ!

 ……っと、いけねいけね。
 テンション上げすぎるのはよくないな。
 ここはダンジョンの中だ。
 いつ危険に襲われるともわからないし――

「うおおおおおおおお! すごおおおおい! ちょ、ちょちょ、ちょっと見せてもらっていいですかね!」

 あのー、アルメルさん……?

「うわーすごい! オリハルコン製? この耐久度は現代でも再現できないレベル……軽っ! なんでこの軽さでこの構造を維持できるの? 接合部は……なにこれどういう仕組み? うわー! うわー! うわー!」

「ちょ、ちょっとくすぐったいよ」

 さすがにラファが逃げた。
 服を剥いで全身まさぐり回しそうな勢いだもんな。

「あ、ご、ごめんなさい」

 アルメルさん、真っ赤になって反省である。
 ついでになぜかその場に正座してかしこまる。

「でも本当にすごいものですよ、それ」

〈けっきょくなんなんだ?〉

「ゴーレムのパーツなんじゃないでしょうか」

 ゴーレム!
 そういうのもあるのか!

「ゴーレム?」
「なにそれ?」

 ロロコとラファは知らないらしく首を傾げる。
 アルメルが説明する。

「ゴーレムとは、土や石や金属などで作った人形に魔力を付与することで動かす人工生命体です。現代でも作ることは可能ですが、役に立つサイズで、ある程度の時間身体を維持させる技術がなく、ほぼ使われていません。魔法使いが小さな人形を偵察用に使ったりする程度ですね」

 なるほど。
 ただ石や土でそれっぽい形のものを作ってもダメなんだな。
 重いものを持てるとか、敵と戦えるとか、そういうことはできないというわけだ。

「ラファさんの腕についているようなものは伝説級の存在です。崩れることなく、人と同じように滑らかに動き、人以上の力を発揮する魔人。ヘルメスのゴーレムと呼ばれます」

 ヘルメス……。
 えーと、知ってるよ!
 あの、あれだ。

 ダンジョンの入り口にある館を作った人。

 原初の魔法使いとか呼ばれてる。

 ヘルメスさんすごいな。
 なんでも作ってるんだな。

 ……いや、これちょっと嘘くさいよな。

 大昔にいたすごい魔法使いで名前が残ってるのがヘルメス一人ってだけなんじゃない?
 だから過去の失われた技術が全部彼の手柄ってことにされてるだけなんじゃ……?

 まあ別にいいけど。

「へー、これそんなすごいものなんだ」

 で、そんなロストテクノロジーの装着者のラファはあっさりしたもんだ。

 まあ、ずっと当たり前のように使ってきた道具なんだもんな。

「よくわかんないけど、あたしにとっては獲物を狩るのにとっても便利な道具だよ」

 と、そこでロロコのお腹が「くううう」と鳴いた。
 獲物って言葉に反応した?

 そういやさっきは魔法を連発してたしなぁ。

 ラファは笑って言った。

「ちょうどいい。さっきのやつらで食事にしよう。あたしも腹が減ってたんだ」
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