上 下
72 / 286
第2章 バリガンガルド編

62 リビングアーマー・バラバラ事件再び

しおりを挟む



〈う……〉

 どこだここ……。

 俺は何をしてたんだっけ?
 確か……。
 ロロコとクラクラと一緒に冒険者ギルドに入って。
 ドワーフの受付嬢に何か質問して。
 待ってるところに地震と魔響震が起きて。

 そうだ。
 そのせいで俺は頭が痛くなった。

 誰かにぶつかられて、身体がバラバラになって。
 なぜか元に戻すことができなくて。
 そのまま意識を失った――。

 今は……。

 頭は動く。
 他は……。

 他は……動かない。
 っていうか……。

 ないね!

 頭以外のパーツが見当たらない。
 バラバラになったまま、どっかに行ってしまったのか。

「リビたん?」
〈ロロコ!〉

 呼ばれて初めて、自分がロロコに持ち抱えられてることに気づいたぜ。

「大丈夫?」
〈ああ。なんとかな……どうなったんだ? クラクラはどこだ?〉
「クラクラとは逸れた」

 相変わらず冷静な口調でロロコは説明する。

「リビたんがバラバラになった後、ギルドの建物が崩れた」
〈マジか……〉

 そんな激しい地震だったのか。

「なんとか兜だけを抱えて外に出た」
〈じゃあ他のパーツは……〉
「わからない。腕はクラクラが持っててくれたけど」
〈そうか……〉

 じゃあ大半が瓦礫の下に埋もれてることになるのかな?
 まいったな……。

〈とりあえず、クラクラの場所を探ってみる〉

 クラクラが俺の腕を持ってるなら、それを探知すれば様子がわかるはずだ。

◆◇◆◇◆




 頭部以外のパーツに視覚を生み出すのは前にやったので、簡単にできた。

 両腕に視覚が生まれた。

〈う……重い〉

 全身(と言っても腕だけだが)になにかが乗っている感覚。

〈うおおおおお……!〉

 俺は両腕を宙に浮かし、それを避けた。

 ――ガラガラガラ。

 と、がれきが崩れた。
 どうやら、壊れたギルドの下敷きになってたらしい。
 え、ってことは……。

〈クラクラ!〉

 俺は慌てて周りを見回す。
 と。

「リビタン殿……」

 すぐ近くに倒れていたクラクラが答えた。

〈よかった、無事だったか〉
「ああ。だが、足が……」

 見れば、彼女の足ががれきに挟まれてしまっている。

〈待ってろ。これくらいならなんとかなる〉

 俺が両腕でがれきを持ち上げて、クラクラは這い出した。

〈怪我してるのか?〉
「いや……大したことはない。ただ、ちょっとひねったようで、歩きづらいが……」
〈まずは安全なところに移動しよう〉

 ギルドの残り部分がいつ崩壊するかもしれないしな。

 俺は両腕でクラクラの身体を支え、移動する。

「かたじけない」
〈いやいや、いいパーツを拾っておいてくれたおかげだぜ〉
「他のパーツは埋まってしまったのか……それに、ロロコ殿は!?」
〈ロロコは大丈夫。俺――の頭と一緒だ。他のパーツは……〉

 多分埋まってるんだろうけど。
 一応、探知してみるか。

 えっと――。

◆◇◆◇◆




 胴体(胸パーツと腰パーツ)は……。

 あれ、埋まってないな?

 誰かに着られてる。
 そしてその誰かが走ってるな。

〈あの……〉
「ひゃああああっだっ誰ですか!?」

 あ、この人、受付嬢のドワーフだ。

 受付嬢のドワーフ(長いので、ドワーフ嬢)は立ち止まってあたりを見回す。

 街の一角らしい。
 木々が立ち並んで、芝生が広がっている。
 公園というかあき地というか、そんな感じの場所だ。
 避難してきたらしい人も結構いる。

〈あの、ですね〉
「?………………よよよ、鎧が喋りましたぁああああ!」

 悲鳴をあげて、鎧を脱ぎ捨てようとするドワーフ嬢。
 しかしうまくいかない。

〈落ち着いて……危害は加えないから〉
「ひいいいぃごめんなさいごめんなさい」

 ドワーフ嬢はブルブル震えながらその場にしゃがみ込む。

「建物に潰されそうになってとっさに着ただけです。盗む気は全然なかったんです!」

 なるほど、そういうことか……。

 残りは、えっと、両脚パーツだな――。

◆◇◆◇◆



 ……右脚と左脚は別の場所にあるっぽいな。

 えっと、右脚は。

「ふぅ。ギルドに着いた途端、地震と魔響震とはツイてないな」

 ん、この声、どっかで聞いたことがあるな?

「って、なんだ。ベルトに鎧が引っかかってるな。どおりでなんか重いと思った」

 そう言って、彼はベルトに引っかかっていた俺を外した。

 ほおに傷跡を持ち、右目に眼帯をした、五十がらみの男。
 間違いない。

〈えっと……ラッカムさん〉
「おわっ!? 鎧が喋った――ひょっとして、あんた、リビタンか?」
〈正解です〉

◆◇◆◇◆



 そして最後に左脚だ。

 これはどこだ?

 やけに薄暗い場所。
 雰囲気的に地下っぽいな。
 冒険者ギルドの地下かな?
 その石造りの廊下を歩いている。

 誰が?
 俺を手に持った何者かが、だ。

 ……こいつもどっかで見たことがあるな。

 えーと。
 そうそう。ブロッケン・ウルフと戦ったとき、バカ領主の横にいた男だ。
 あのときと同じニコニコ顔で、いかにも商人って雰囲気を醸し出している。

「おや、気がつかれたようですね、リビングアーマーさん」
〈! あんた、俺のことがわかったのか〉

 あのときとは、全然違う鎧なんだけどな。

「ええ。魔力の色とでも言いますかね。それを見ればわかりますよ」
〈…………〉

 なんだろう。
 まるで敵意を感じない、むしろ安心感の漂う口調なのに。
 それがかえって、この男の不気味さを表しているように感じる。

「私はエド・チェインハルト。チェインハルト商会の会長をしております」

 チェインハルト商会……聞き覚えがあるな。
 確か、冒険書を作ったりしてるところだっけ。

〈じゃあ、地震の時も、冒険者ギルドにいたのか?〉
「ええ。あなたを待っていたのですよ」
〈俺を?〉

 なんのために?

「残念ながら、そちらの本来の目的の方は、一旦置いておきましょう」

 なんだよ、気になるじゃないか。

「それよりね、非常事態です。大事ですよこれは」
〈どういうことだ? さっきの地震が関係してるのか?〉
「ええ。それに魔響震もね。ちょっと想定外でした」
〈何が起きてるんだ?〉

 俺の問いに、エドは笑みを崩すことなく、その事実を告げた。

「――このままだと、バリガンガルドの街が滅びます」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

売れない薬はただのゴミ ~伯爵令嬢がつぶれかけのお店を再生します~

薄味メロン
ファンタジー
周囲は、みんな敵。 欠陥品と呼ばれた令嬢が、つぶれかけのお店を立て直す。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...