68 / 286
第2章 バリガンガルド編
EX8 盗賊とエルフの国の話
しおりを挟む
「兄貴、やっぱ戻りましょうよぅ」
ヴェルターネックの森のなか。
あたりを不安げに見回しながらさまよい歩く男たちがいた。
人数は四人。
一人がリーダー格らしく、ちょっと立派な服装だ。
と言っても、似たり寄ったりのボロ布ではあったが。
リーダー格らしい男は、兄貴と呼んできた相手にぶっきらぼうに返す。
「戻ってどうするんだよ」
「そりゃあ、謝れば、許してくれますって」
「空き巣に入った上、牢を脱走したことをか?」
実質なにも盗る前に捕まってしまったし、脱走の際に誰かを傷つけたわけでもない。
それでも刑罰が厳しい土地なら、死罪もありうる。
「やっぱ盗賊なんて無茶だったんだよ……」
別の男がぼやく。
それに同意するように、最後の一人が頷いた。
「魔力がなくて冒険者になれないからってなぁ」
「こうやってさまよってるんじゃ冒険者と変わらないもんなぁ」
「だいたい、あの変な建物に入ったのがまずかった」
「ああ。喋るリビングアーマーなんてのがいて」
「やっぱ町のほうが安全だって話になって」
「空き巣に入った街の自警団の団長が、あのラッカムだもんな」
「たまったもんじゃねえよ」
「……言っとくがな」
と、二人の部下の会話に、リーダーが青筋を浮かべて呻く。
「あの建物でリビングアーマーなんて見つけたのはおめえらだからな!」
そう言われた部下の二人は顔を見合わせながら、
「だってあん時は兄貴が」
「そうだぜ、なんとしても金目のものを見つけてこいって言うから」
「あーうるせえうるせえ! おい」
とリーダーはもう一人の部下に言う。
「街道はどっちなんだ」
「そんなのわかりませんよぅ」
「なんでわかんねえんだっ。お前マッパーだろ」
「マッパーだからって、来たことない場所で、どこに何があるかわかるわけないじゃないですかぁ」
「くそっ」
リーダーは腹立ち紛れに足元の石を蹴飛ばした。
――ゲコゲコ。
「ん?」
石が飛んでいった草むらが揺れて、のそりと。
巨大なカエルが姿を現した。
「ぎゃあああ!」
「魔物だあああああ!」
「なななななんでダンジョンでもないのに!」
「おおお落ち着けお前ら! たかがカエルぐらい同時にかかればなんとか――」
――べしゃ!
じゅうううううううう……。
とカエルが吐いた毒液が足元の草を溶かしていく。
それを見て、盗賊たちは一斉に青ざめる。
「逃げろおおおお!」
「待ってくれ兄貴いいいいい!」
「置いてかないでくれええ!」
「うわあああああ!」
情けない悲鳴をあげながら、盗賊たちはひたすら走り続ける。
◆◇◆◇◆
そうしてひたすら森をさまよい歩き、数日が経った。
時には動物を狩り。
時には木の実をかじり。
時には魔物に襲われて。
「お、俺はもうだめだよぅ」
「バカ言え! 諦めるんじゃねえ!」
「俺ももう限界だ……」
「くそっ、冗談じゃねえぞ」
「俺もダメだ。集落の幻が見えてきた……」
「しっかりしろ! 集落なんかどこにも――ん?」
と、リーダーは顔を上げる。
「む、村だ……」
幻ではなかった。
森が途切れた先に、それなりの規模の集落があった。
「おいお前ら、ここで休んでろ。いま水と食料を分けてもらってきてやる」
一番体力の残っているリーダーは、単身村へと向かって歩いていく。
よそ者に快く分けてもらえるとは限らない。
だが、仲間のためなら、たとえ奪ってでも手に入れる。
その決意を固めて、彼は懐のナイフを握りしめた。
――もう二度と、あんな目に遭うのはごめんだからな。
一瞬だけよぎる過去。
飢えて死んでいく家族の顔を思い出し、すぐにそれを振り払う。
そして彼は村に踏み込んだ。
井戸の近くに村人が数人いた。
彼は、まずは穏やかに声をかけようとして――。
「きゃっ!?」
彼を見て、村人が悲鳴を上げた。
――エルフだと!?
その尖った耳や特徴的な顔立ちから、すぐにそう分かった。
――マズい。エルフは排他的だし、人間を嫌ってる。食料なんか分けてもらえるはずがねえ。
彼はとっさに判断して、手近にいる女エルフを人質にしようと決める。
懐からナイフを抜き放ち、反対の手で女を捕まえようと――
「しまっ……」
足元の石に躓いてバランスを崩した。
空腹でなければ避けられただろうミス。
態勢を立て直そうとした時には手遅れだった。
彼はそのまま地面に倒れ伏す。
そして。
「なんだ!」
「何事だ!」
さっきの悲鳴を聞きつけたのだろう。
村の奥から男エルフたちが駆けつけてきた。
――くそ、まずったな……。
彼は歯噛みする。
部下たちが見つからなければいいが……と願いながら。
最後の緊張の糸が切れ、彼は意識を失った。
ヴェルターネックの森のなか。
あたりを不安げに見回しながらさまよい歩く男たちがいた。
人数は四人。
一人がリーダー格らしく、ちょっと立派な服装だ。
と言っても、似たり寄ったりのボロ布ではあったが。
リーダー格らしい男は、兄貴と呼んできた相手にぶっきらぼうに返す。
「戻ってどうするんだよ」
「そりゃあ、謝れば、許してくれますって」
「空き巣に入った上、牢を脱走したことをか?」
実質なにも盗る前に捕まってしまったし、脱走の際に誰かを傷つけたわけでもない。
それでも刑罰が厳しい土地なら、死罪もありうる。
「やっぱ盗賊なんて無茶だったんだよ……」
別の男がぼやく。
それに同意するように、最後の一人が頷いた。
「魔力がなくて冒険者になれないからってなぁ」
「こうやってさまよってるんじゃ冒険者と変わらないもんなぁ」
「だいたい、あの変な建物に入ったのがまずかった」
「ああ。喋るリビングアーマーなんてのがいて」
「やっぱ町のほうが安全だって話になって」
「空き巣に入った街の自警団の団長が、あのラッカムだもんな」
「たまったもんじゃねえよ」
「……言っとくがな」
と、二人の部下の会話に、リーダーが青筋を浮かべて呻く。
「あの建物でリビングアーマーなんて見つけたのはおめえらだからな!」
そう言われた部下の二人は顔を見合わせながら、
「だってあん時は兄貴が」
「そうだぜ、なんとしても金目のものを見つけてこいって言うから」
「あーうるせえうるせえ! おい」
とリーダーはもう一人の部下に言う。
「街道はどっちなんだ」
「そんなのわかりませんよぅ」
「なんでわかんねえんだっ。お前マッパーだろ」
「マッパーだからって、来たことない場所で、どこに何があるかわかるわけないじゃないですかぁ」
「くそっ」
リーダーは腹立ち紛れに足元の石を蹴飛ばした。
――ゲコゲコ。
「ん?」
石が飛んでいった草むらが揺れて、のそりと。
巨大なカエルが姿を現した。
「ぎゃあああ!」
「魔物だあああああ!」
「なななななんでダンジョンでもないのに!」
「おおお落ち着けお前ら! たかがカエルぐらい同時にかかればなんとか――」
――べしゃ!
じゅうううううううう……。
とカエルが吐いた毒液が足元の草を溶かしていく。
それを見て、盗賊たちは一斉に青ざめる。
「逃げろおおおお!」
「待ってくれ兄貴いいいいい!」
「置いてかないでくれええ!」
「うわあああああ!」
情けない悲鳴をあげながら、盗賊たちはひたすら走り続ける。
◆◇◆◇◆
そうしてひたすら森をさまよい歩き、数日が経った。
時には動物を狩り。
時には木の実をかじり。
時には魔物に襲われて。
「お、俺はもうだめだよぅ」
「バカ言え! 諦めるんじゃねえ!」
「俺ももう限界だ……」
「くそっ、冗談じゃねえぞ」
「俺もダメだ。集落の幻が見えてきた……」
「しっかりしろ! 集落なんかどこにも――ん?」
と、リーダーは顔を上げる。
「む、村だ……」
幻ではなかった。
森が途切れた先に、それなりの規模の集落があった。
「おいお前ら、ここで休んでろ。いま水と食料を分けてもらってきてやる」
一番体力の残っているリーダーは、単身村へと向かって歩いていく。
よそ者に快く分けてもらえるとは限らない。
だが、仲間のためなら、たとえ奪ってでも手に入れる。
その決意を固めて、彼は懐のナイフを握りしめた。
――もう二度と、あんな目に遭うのはごめんだからな。
一瞬だけよぎる過去。
飢えて死んでいく家族の顔を思い出し、すぐにそれを振り払う。
そして彼は村に踏み込んだ。
井戸の近くに村人が数人いた。
彼は、まずは穏やかに声をかけようとして――。
「きゃっ!?」
彼を見て、村人が悲鳴を上げた。
――エルフだと!?
その尖った耳や特徴的な顔立ちから、すぐにそう分かった。
――マズい。エルフは排他的だし、人間を嫌ってる。食料なんか分けてもらえるはずがねえ。
彼はとっさに判断して、手近にいる女エルフを人質にしようと決める。
懐からナイフを抜き放ち、反対の手で女を捕まえようと――
「しまっ……」
足元の石に躓いてバランスを崩した。
空腹でなければ避けられただろうミス。
態勢を立て直そうとした時には手遅れだった。
彼はそのまま地面に倒れ伏す。
そして。
「なんだ!」
「何事だ!」
さっきの悲鳴を聞きつけたのだろう。
村の奥から男エルフたちが駆けつけてきた。
――くそ、まずったな……。
彼は歯噛みする。
部下たちが見つからなければいいが……と願いながら。
最後の緊張の糸が切れ、彼は意識を失った。
0
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?
mio
ファンタジー
特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。
神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。
そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。
日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。
神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?
他サイトでも投稿しております。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
全裸追放から始まる成り上がり生活!〜育ててくれた貴族パーティーから追放されたので、前世の記憶を使ってイージーモードの生活を送ります〜
仁徳
ファンタジー
テオ・ローゼは、捨て子だった。しかし、イルムガルト率いる貴族パーティーが彼を拾い、大事に育ててくれた。
テオが十七歳になったその日、彼は鑑定士からユニークスキルが【前世の記憶】と言われ、それがどんな効果を齎すのかが分からなかったイルムガルトは、テオをパーティーから追放すると宣言する。
イルムガルトが捨て子のテオをここまで育てた理由、それは占い師の予言でテオは優秀な人間となるからと言われたからだ。
イルムガルトはテオのユニークスキルを無能だと烙印を押した。しかし、これまでの彼のユニークスキルは、助言と言う形で常に発動していたのだ。
それに気付かないイルムガルトは、テオの身包みを剥いで素っ裸で外に放り出す。
何も身に付けていないテオは町にいられないと思い、町を出て暗闇の中を彷徨う。そんな時、モンスターに襲われてテオは見知らぬ女性に助けられた。
捨てる神あれば拾う神あり。テオは助けてくれた女性、ルナとパーティーを組み、新たな人生を歩む。
一方、貴族パーティーはこれまであったテオの助言を失ったことで、効率良く動くことができずに失敗を繰り返し、没落の道を辿って行く。
これは、ユニークスキルが無能だと判断されたテオが新たな人生を歩み、前世の記憶を生かして幸せになって行く物語。
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる