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第2章 バリガンガルド編

53 エルフで姫で女騎士

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〈こ、これは……〉
「これは?」
〈これは、エルフですか?〉
「? そうだよ」

 ロロコは不思議そうな顔でうなずいた。
 ちょ、そんな『なに言ってんのこの腕だけやろう』みたいな顔しないで!

 いやー、思わず英語の翻訳文みたいなセリフを口にしてしまったぜ。

 しかし予想はあってたらしい。

 俺とロロコのところに洞窟から水に流されてやってきた女の人。
 金色の髪の間から覗く長い耳!
 白くきれいな肌!

 エルフのイメージそのまんまだった。

 女の人とは言ったけど、見た目の年齢は16とか17とかそのくらいだ。
 転生前の俺と同じくらいってこと。
 もっとも、エルフは見た目よりずっと高年齢かもしれないな。

 で、そのエルフさんは、ぐったりと気絶している。
 俺やロロコとは違って、水に流されてる間に溺れてしまったんだろう。

「けほっ……けほっ」

 あ、目さましたな。
 よかった。

「ここは……む、何者っ!」

 エルフさん、とっさに飛び起きる。
 剣に手をかけ、警戒心丸出しだ。

 まあ、そりゃそうか。
 ダンジョンの中だもんな。

 ちなみにロロコの隣にいる俺はガン無視である。
 当たり前か。
 はたから見りゃ、鎧の腕パーツがあるようにしか見えないだろう。

 ん?
 でも俺、いま浮いてるよな。

 鎧のパーツが浮いてたら、さすがに犬耳少女より先にそっちを警戒しないか?

 あ。
 そうか。
 エルフさん、周りが見えてないんだ。

 よく見れば、ロロコとちょっとズレた方向に目を向けてる。

 そうだよな。
 ここ、真っ暗闇の洞窟だもんな。

 謎感覚でもの見てる俺や、犬並みに夜目のきくロロコとは違うんだ。

 ってことは、気配だけで、自分のそばになにかいることに気づいたってわけか。
 すごいな。

 ともかく、相手に俺たちが見えてないってのは好都合だ。

 いや、そう言うと、なんか悪いことしようとしてるみたいだけど。
 そういう意味じゃなくてね。

 俺の姿が見えないなら、警戒されずに会話ができそうってこと。

 よし。
 ちょっと会話してみよう。

〈あー、えっと〉
「!」
〈怪しいものじゃない。俺たちも、その、冒険者なんだ〉
「……その証拠は?」

 エルフさんはちょっとだけ警戒心を解いたみたいだ。
 けど、剣からは手を離さない。

〈あんたを襲うつもりならとっくにやってる〉

 こういうときによく使われる定番のセリフを言ってみた。

 実は俺、これあんまり信用できないと思ってるんだけどねー。
 襲うつもりはあるけど、なんかの都合で時期を待ってるとか。
 襲うのとは違う目的(ものを盗むとか)があるとか。

 いろいろパターンはあると思うのだ。

 けど、エルフさんはそうは思わなかったようで、剣から手を離した。

「…………それもそうだな」

 …………いいのかなー。

 いや、くどいようだけど、悪い事しようとしてるわけじゃないからね?
 相手の警戒心を解いて会話を成立させようとしてるだけだから。

 エルフさんは改まって言ってくる。

「自分は、クララ・クラリッサ・リーゼナッハ・フリエルノーラ」

 え、なんだって?

「フリエルノーラ国第三王女にして、同国騎士団の団長だ」

 え、なんだって!?

 待って待って。
 情報が多すぎて処理しきれない。
 名前……は覚えられなかったから置いておこう。

 で、ナントカ国の第三王女って言ったな。
 で、騎士団の団長?

 つまりこの少女は、エルフで姫で女騎士ってわけか。
 属性盛りすぎじゃないですかね。

「それで、そなたは何者だ」

〈えーと、俺はリビタン。冒険者だ〉

 ということにしておく。

「私は人犬族のロロコ」
「!?」

 とロロコが初めて声を出した。
 エルフさんはすごく驚いた様子。

「む、ふ、二人いるのか? 魔力は一人分かと思ったが……いや、確かに二人分あるな」

 魔力を感じ取ることができるのか。
 エルフの特性なのかな?

〈ああ、えーと、それはだな……〉

 多分オレの魔力が少なすぎるせいではないでしょうかね……。

「いや、言わなくてよい。人には事情があるものだからな」

 おーそうか。
 なんか勝手に納得してくれたので、よしとしよう。

「では、改めて、リビタン殿にロロコ殿。二人はこのような場所でなにを?」

 オレは簡単に説明する。
 ロロコとともに、バリガンガルドにある冒険者ギルドを目指していること。
 途中で増水に巻き込まれ、ここにきてしまったこと。

 ……ちなみに、町の名前は相変わらず間違えて、ロロコに訂正された。

「おお、それは奇遇ではないか!」

 とエルフさん。

〈どういうことだ?〉

「自分もそこを目指しているところなのだ」

 マジか!
 助かったぜ!
 まさかこんなダンジョンの奥地で道案内が得られようとは!
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