転生したら鎧だった〜リビングアーマーになったけど弱すぎるので、ダンジョンをさまよってパーツを集め最強を目指します

三門鉄狼

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第1章 大洞窟ダンジョン編

EX6 領主と商人の話

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「うおお……痛いぞ」

 バルザックは腰をさすりながら森の中をさまよっていた。

 人犬族を狩るために連れてきたブロッケンウルフ。
 そいつが暴れまわり、尻尾で吹っ飛ばされてしまった。

「あのクソ狼。助けてやった恩を忘れおって」

 バルザックは憎らしげに呻く。

「部下どもも役に立たん。なぜ私の代わりに飛ばされないんだ」

 そういうときのために雇っているというのに。

「――くそ犬どもも気に入らん。さっさと狼に食われれば面白かったのに」

「――あのエドとかいう若造もだ。商会の会長だからと偉そうにしおって」

「――気に入らん! どいつもこいつも!」

 ぶつぶつと文句を呟きながら、バルザックは森の中を進んでいく。

 ふと、服が木の枝に引っかかった。

「ええい! なんだというのだ! このっ、このっ!」

「おやバルザックさん。こんなところにいらっしゃいましたか」

 そう言って姿を現したのは、笑みを浮かべた青年。
 チェインハルト商会の会長であるエドだった。

「こ、これはエドさま! こ、この度はとんだお見苦しいところを……」

 ついさっき若造と罵った相手に、バルザックはへこへこと頭を下げる。
 対するエドは、笑みを崩さぬまま彼のところへ近づいていく。

「なに、構いませんよ。ことは予定どおり進められそうですので」
「予定、とは?」

 不思議そうな顔をするバルザック。
 エドはその問いには直接答えず、言葉を続ける。

「想定外の事態はいくつかありました。そのうち、我々にとって幸運だったのは、あのリビングアーマーの存在。不幸だったのは、あなたが想像以上のバカだったことだ」

「なっ……」

 突然の暴言に、言葉を失い口をパクパクさせるバルザック。
 エドは構わず続ける。

「まさかブロッケンウルフを生かして捕らえているなんてね。あの誇り高い魔物が、人間に飼い慣らされるわけがないでしょう」

「な、う、うるさいうるさい! 私の領地でなにをしようと私の勝手だ!」

 真っ赤になって叫ぶバルザック。
 エドはため息を吐く。

「冗談ではありません。あなたのような人間が領主では、せっかくの土地も、魔鉱石の鉱山も、宝の持ち腐れだ。だから――譲っていただきますよ」

「はっ、なにを――おぐっ!?」

 エドは手袋をはめた左手でバルザックの首をつかんだ。
 そして、いつの間にか手袋を脱いだ右手のひらを、バルザックの眼前に掲げた。

 その手のひらの『なにか』を見て、バルザックの顔が恐怖に引きつった。

「な、ななななな、なんだそれは!? お前は――何者だ!」

 その問いを、やはり無視してエドは告げる。

「人犬族の皆さんには正当な対価を支払って集落に留まってもらうことにしましょう。魔鉱石の採掘に投入する資金も増やします。搾取すればいいというものではないんですよ。カビの生えた制度の上にあぐらをかいている領主さまは、商売というものをわかっていなくて困ります」

 エドが話す間も、バルザックの顔は恐怖に歪み続ける。
 相手の言葉を理解する余裕など到底なかっただろう。

「おぐぐ……ぐおおおお……おあああああああああああっ――」

 バルザックは絶叫し、そのまま白目をむいて絶命した。

 エドは彼の骸を手放すと、すぐに右手に手袋をはめ直した。

 そして、振り返ることなくその場を立ち去る。

「さて」

 エドは、変わらぬ笑みを浮かべたまま、独りごちる。

「あのリビングアーマーは興味深いですね。もしかしたら――」

◆◇◆◇◆

「――魔王復活の鍵となるかもしれません」
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