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第1章 大洞窟ダンジョン編

EX2 ある領主の屋敷での話

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「ヴェルターネックの森にリビングアーマーねえ」

 領主のバルザックは、くちゃくちゃと食べ物をかみながらそう言った。

 カラフルな服を身にまとった、太った中年男。
 その格好は最高に趣味が悪かった。

「あのさな、ねえ、ラッサム」
「ラッカムです」

 街の自警団長であるラッカムは、もう何度目になるかわからない訂正をする。
 どうせ今日も覚えられないのだろうが。

 バルザックはぶるんと腹の肉を揺らしながら言う。

「そんな問題さ、そっちで解決してほしいわけ。私は忙しいんだから」
「ですが、モンスターの出現は領民の安全を脅かします。領主さまには正確なご報告をしたほうがよいかと判断しました」
「だぁかぁらぁ」

 と、間延びした声をあげながら、バルザックは食事の手を止めない。

「そんなの、事後報告で充分なんだって。未確定の情報はいらないの」
「しかし……」
「だから、そのリビングアーマー? 倒して、現物持って報告に来てよ、アッサム」
「……ラッカムです」

 ラッカムは呆れのため息をなんとか堪える。
 しかし横に立つ部下は、彼ほどこらえ性がなかったようだ。

「あんたは! そうやって厄介ごとを人に押しつけて……」
「よせ、オード」
「けど、団長……!」

 バルザックは、二人がもめていることなどまるで気にせず、同席している男に言う。

「いやぁ、すみませんな騒がしくて」
「いえ。それより、よろしいのですか? 僕のことはおかまいなく」
「いやいやいや! とんでもございません!」

 バルザックと会食をしている相手は、ずいぶんと若い男だった。
 目に優しくない領主の服とは対照的に、趣味のいい落ち着いた色合いの服。
 格好から察するに、上級の商人のようだった。

「領主さま、こちらは?」

 問いかけるラッカムに、バルザックは目を吊り上げる。

「こら! お前らが気軽に接するような方じゃないぞ!」
「いえいえ、かまいませんよ」

 男は立ち上がると、ラッカムたちの眼の前まで歩いてきた。

「チェインハルト商会の会長をしているエド・チェインハルトと申します」
「チェインハルトって……冒険者ギルドを牛耳って――いや、支配してるっていう……」

 オードは慌てて言い換えたが、あまり意味はなかった。
 領主のバルザックが顔を真っ赤にして怒鳴る。

「貴様! なにを失礼なことを……! も、申し訳ありませんな、こいつらは礼儀を知らないもので――!」
「いえ、お気になさらず。そう思われているのは承知の上での活動ですので」
「へえ……」

 エドのその言葉に、ラッカムは思わずつぶやきを漏らす。
 エドは、笑みを浮かべてラッカムに向き直った。

「我々商会の目的はただ一つ、冒険者の皆様の支援です。未開拓地域を探索し、未知のモンスターを発見する。あるいは、人々の居住地を襲うモンスターを討伐する。冒険者の皆様の活動は、この大陸のすべての人間の生活の安全や安定、発展に貢献します。そんな素晴らしい冒険者の皆様をお手伝いすることが、我々の使命と考えております」

「……そのわりにゃ、あんたら商会が提供するサービスや商品は、ちょいと高価すぎやしないかね?」

 ラッカムの言葉に、領主のバルザックはますます顔を赤くする。
 が、エドのほうはその笑みを崩さない。

「なにごとにも資金は必要です。質の高いサービスを提供するためにやむをえないことなのです。今後、商会の規模を拡大できれば、廉価での冒険用装備の貸し出しといったようなことも可能になります。長い目で見ていただきたい。私も、そのためにこうして、各地の冒険者の現状を見て回っているのですよ」

「ふぅん……」

 ラッカムはひとまず言葉を止める。
 たぶんこの男は、資金集めにきたのだろう。
 バルザックはどうしようもないバカ領主だが、親から受け継いだ財産だけは多い。

 ――と。

「た、大変です、バルザックさま!」

 バルザックの部下の兵が飛び込んできた。
 バルザックの趣味で、かなり時代遅れの作りの鱗状鎧を身につけている。

「こんどはなんだ、騒々しい」

 大商人であるエドとの会食を邪魔されどおしで、バルザックは不機嫌そうに言う。
 部下は、大声でまくしたてた。

「人犬族のやつらが……いっせいに脱走を! やつらの村はもぬけのからです!」
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