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あれから何年経っただろう。
エルネストの死は事故で片付けられ、色々な憶測が飛び交ったが、暫くすると皆忘れた様に日常に戻った。
戻れなかったのは俺とベネデッタだ。
俺は喪失感と不甲斐なさで家から出れなくなった。あの日最後にエルネストに会っていたのは俺だった。
これから口説き落とすぞなんてアホみたいに上機嫌だったかつての自分を殴りたい。
何で1人にした?大丈夫なわけ無いだろ。
悔やんでも悔やみきれなくて何度も後を追おうとしたのに、優秀すぎる執事に阻止され続けている。
そしてベネデッタはエルネストの死に責任を感じて身体を悪くしているらしい。
学園を卒業してアルベルトと婚約が発表された後、何年か経ったが、式を挙げていない。
アルベルトだけがエルネストを思い出すことなく、ひたすらベネデッタの心配をしていた。
近々腕利の魔術師を雇って、ベネデッタの記憶からエルネストの記憶を消すらしいと執事から聞いて、俺は久しぶりに家を出た。
王宮に行くわけでは無い。
アルベルトだけを責められなかったから。
アルベルトがエルネストを愛せていたら。ベネデッタに一目惚れしなかったら。エルネストがもう少し嫉妬心を隠し、理性的に振る舞えていたら。ベネデッタがアルベルトと仲良くならなかったら。2人が出会っていなかったら。
俺が女遊びせず、エルネストだけを愛していたら。
過ぎたことをいくら悔やんでも、あの子はもう何処にもいなかった。
ギィッと少し軋む教会のドアを開けた。
清廉な空気、ステンドグラスに光が反射してずいぶん幻想的だが、俺は隠すことなく舌打ちをする。
「お前の愛した子は死んだぞ!何が愛されし子だ!お前が与えたのは愛じゃない、呪いだ!!」
エルネストの死後、執事に調べてもらった。
エルネストは家庭環境がよろしく無く、愛に飢えた子だった。全ての始まりは金髪のせいだったと。
そして婚約者が決まって、やっと愛を知れる所でそれは取り上げられた。
なんでエルネストを神子にした?なんでエルネストを周りから愛される環境に置かなかった?なんで神子を2人も誕生させた?
苦しい。
あの子を失って、あの子の涙を拭えなくて。
けど、一番苦しいのは、あの子の笑った顔が思い出せなくなったからだ。
泣いてる顔だけはこんなに鮮明に思い出せるのに。
「神なんて信じてないけど、もしいるなら俺はお前を殺してやる!!」
神殿の中に自分の声だけが反響する。
こんな事するなんて、引きこもり過ぎておかしくなったか、なんて思っていると、神殿内が淡く輝く。
あまりの眩しさにぎゅっと目を瞑る。
光が落ち着き、目を開けると赤髪の、髪の長い中性的な人が立っていた。
その人はそっと涙を流す。
「すまない。私の力不足だ。後に厄災が訪れる。それに対抗するのに、神子1人では足りず、2人に増やした。こんな事は未だかつてない事で、十分に愛を注げなかったのだ。」
「は…?やく、さい…?」
急に現れた人…神なんだろうか。情報量が多過ぎて処理できない。
「魔王の封印が解ける。神子が1人死んだこと、そしてもう1人も弱っている事で、その紐はもう既に解けているだろう。」
神が言った途端、突き上げるような地鳴りと、悲鳴。ガラス越しの外は赤く染まっていた。
「なんだ、これは、」
「ああ、もう、復活してしまったか。」
世界が崩れていく音がする。
どうにか、ならないのか。神なら。
「言っただろう。私の力は、神子を2人生み出した事で殆ど残っていない。ああ、でも、」
人の声は、いつの間にか聞こえなくなった。ただ燃え盛る炎の音だけが耳をつく。
「1人だけ、戻すくらいなら」
神がそっと俺に触れる。
「戻すって、」
「私の愛せなかった子を、愛してくれ」
またあの光に包まれて、俺は強く目を閉じた。
エルネストの死は事故で片付けられ、色々な憶測が飛び交ったが、暫くすると皆忘れた様に日常に戻った。
戻れなかったのは俺とベネデッタだ。
俺は喪失感と不甲斐なさで家から出れなくなった。あの日最後にエルネストに会っていたのは俺だった。
これから口説き落とすぞなんてアホみたいに上機嫌だったかつての自分を殴りたい。
何で1人にした?大丈夫なわけ無いだろ。
悔やんでも悔やみきれなくて何度も後を追おうとしたのに、優秀すぎる執事に阻止され続けている。
そしてベネデッタはエルネストの死に責任を感じて身体を悪くしているらしい。
学園を卒業してアルベルトと婚約が発表された後、何年か経ったが、式を挙げていない。
アルベルトだけがエルネストを思い出すことなく、ひたすらベネデッタの心配をしていた。
近々腕利の魔術師を雇って、ベネデッタの記憶からエルネストの記憶を消すらしいと執事から聞いて、俺は久しぶりに家を出た。
王宮に行くわけでは無い。
アルベルトだけを責められなかったから。
アルベルトがエルネストを愛せていたら。ベネデッタに一目惚れしなかったら。エルネストがもう少し嫉妬心を隠し、理性的に振る舞えていたら。ベネデッタがアルベルトと仲良くならなかったら。2人が出会っていなかったら。
俺が女遊びせず、エルネストだけを愛していたら。
過ぎたことをいくら悔やんでも、あの子はもう何処にもいなかった。
ギィッと少し軋む教会のドアを開けた。
清廉な空気、ステンドグラスに光が反射してずいぶん幻想的だが、俺は隠すことなく舌打ちをする。
「お前の愛した子は死んだぞ!何が愛されし子だ!お前が与えたのは愛じゃない、呪いだ!!」
エルネストの死後、執事に調べてもらった。
エルネストは家庭環境がよろしく無く、愛に飢えた子だった。全ての始まりは金髪のせいだったと。
そして婚約者が決まって、やっと愛を知れる所でそれは取り上げられた。
なんでエルネストを神子にした?なんでエルネストを周りから愛される環境に置かなかった?なんで神子を2人も誕生させた?
苦しい。
あの子を失って、あの子の涙を拭えなくて。
けど、一番苦しいのは、あの子の笑った顔が思い出せなくなったからだ。
泣いてる顔だけはこんなに鮮明に思い出せるのに。
「神なんて信じてないけど、もしいるなら俺はお前を殺してやる!!」
神殿の中に自分の声だけが反響する。
こんな事するなんて、引きこもり過ぎておかしくなったか、なんて思っていると、神殿内が淡く輝く。
あまりの眩しさにぎゅっと目を瞑る。
光が落ち着き、目を開けると赤髪の、髪の長い中性的な人が立っていた。
その人はそっと涙を流す。
「すまない。私の力不足だ。後に厄災が訪れる。それに対抗するのに、神子1人では足りず、2人に増やした。こんな事は未だかつてない事で、十分に愛を注げなかったのだ。」
「は…?やく、さい…?」
急に現れた人…神なんだろうか。情報量が多過ぎて処理できない。
「魔王の封印が解ける。神子が1人死んだこと、そしてもう1人も弱っている事で、その紐はもう既に解けているだろう。」
神が言った途端、突き上げるような地鳴りと、悲鳴。ガラス越しの外は赤く染まっていた。
「なんだ、これは、」
「ああ、もう、復活してしまったか。」
世界が崩れていく音がする。
どうにか、ならないのか。神なら。
「言っただろう。私の力は、神子を2人生み出した事で殆ど残っていない。ああ、でも、」
人の声は、いつの間にか聞こえなくなった。ただ燃え盛る炎の音だけが耳をつく。
「1人だけ、戻すくらいなら」
神がそっと俺に触れる。
「戻すって、」
「私の愛せなかった子を、愛してくれ」
またあの光に包まれて、俺は強く目を閉じた。
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