9 / 9
9
しおりを挟む
あれから何年経っただろう。
エルネストの死は事故で片付けられ、色々な憶測が飛び交ったが、暫くすると皆忘れた様に日常に戻った。
戻れなかったのは俺とベネデッタだ。
俺は喪失感と不甲斐なさで家から出れなくなった。あの日最後にエルネストに会っていたのは俺だった。
これから口説き落とすぞなんてアホみたいに上機嫌だったかつての自分を殴りたい。
何で1人にした?大丈夫なわけ無いだろ。
悔やんでも悔やみきれなくて何度も後を追おうとしたのに、優秀すぎる執事に阻止され続けている。
そしてベネデッタはエルネストの死に責任を感じて身体を悪くしているらしい。
学園を卒業してアルベルトと婚約が発表された後、何年か経ったが、式を挙げていない。
アルベルトだけがエルネストを思い出すことなく、ひたすらベネデッタの心配をしていた。
近々腕利の魔術師を雇って、ベネデッタの記憶からエルネストの記憶を消すらしいと執事から聞いて、俺は久しぶりに家を出た。
王宮に行くわけでは無い。
アルベルトだけを責められなかったから。
アルベルトがエルネストを愛せていたら。ベネデッタに一目惚れしなかったら。エルネストがもう少し嫉妬心を隠し、理性的に振る舞えていたら。ベネデッタがアルベルトと仲良くならなかったら。2人が出会っていなかったら。
俺が女遊びせず、エルネストだけを愛していたら。
過ぎたことをいくら悔やんでも、あの子はもう何処にもいなかった。
ギィッと少し軋む教会のドアを開けた。
清廉な空気、ステンドグラスに光が反射してずいぶん幻想的だが、俺は隠すことなく舌打ちをする。
「お前の愛した子は死んだぞ!何が愛されし子だ!お前が与えたのは愛じゃない、呪いだ!!」
エルネストの死後、執事に調べてもらった。
エルネストは家庭環境がよろしく無く、愛に飢えた子だった。全ての始まりは金髪のせいだったと。
そして婚約者が決まって、やっと愛を知れる所でそれは取り上げられた。
なんでエルネストを神子にした?なんでエルネストを周りから愛される環境に置かなかった?なんで神子を2人も誕生させた?
苦しい。
あの子を失って、あの子の涙を拭えなくて。
けど、一番苦しいのは、あの子の笑った顔が思い出せなくなったからだ。
泣いてる顔だけはこんなに鮮明に思い出せるのに。
「神なんて信じてないけど、もしいるなら俺はお前を殺してやる!!」
神殿の中に自分の声だけが反響する。
こんな事するなんて、引きこもり過ぎておかしくなったか、なんて思っていると、神殿内が淡く輝く。
あまりの眩しさにぎゅっと目を瞑る。
光が落ち着き、目を開けると赤髪の、髪の長い中性的な人が立っていた。
その人はそっと涙を流す。
「すまない。私の力不足だ。後に厄災が訪れる。それに対抗するのに、神子1人では足りず、2人に増やした。こんな事は未だかつてない事で、十分に愛を注げなかったのだ。」
「は…?やく、さい…?」
急に現れた人…神なんだろうか。情報量が多過ぎて処理できない。
「魔王の封印が解ける。神子が1人死んだこと、そしてもう1人も弱っている事で、その紐はもう既に解けているだろう。」
神が言った途端、突き上げるような地鳴りと、悲鳴。ガラス越しの外は赤く染まっていた。
「なんだ、これは、」
「ああ、もう、復活してしまったか。」
世界が崩れていく音がする。
どうにか、ならないのか。神なら。
「言っただろう。私の力は、神子を2人生み出した事で殆ど残っていない。ああ、でも、」
人の声は、いつの間にか聞こえなくなった。ただ燃え盛る炎の音だけが耳をつく。
「1人だけ、戻すくらいなら」
神がそっと俺に触れる。
「戻すって、」
「私の愛せなかった子を、愛してくれ」
またあの光に包まれて、俺は強く目を閉じた。
エルネストの死は事故で片付けられ、色々な憶測が飛び交ったが、暫くすると皆忘れた様に日常に戻った。
戻れなかったのは俺とベネデッタだ。
俺は喪失感と不甲斐なさで家から出れなくなった。あの日最後にエルネストに会っていたのは俺だった。
これから口説き落とすぞなんてアホみたいに上機嫌だったかつての自分を殴りたい。
何で1人にした?大丈夫なわけ無いだろ。
悔やんでも悔やみきれなくて何度も後を追おうとしたのに、優秀すぎる執事に阻止され続けている。
そしてベネデッタはエルネストの死に責任を感じて身体を悪くしているらしい。
学園を卒業してアルベルトと婚約が発表された後、何年か経ったが、式を挙げていない。
アルベルトだけがエルネストを思い出すことなく、ひたすらベネデッタの心配をしていた。
近々腕利の魔術師を雇って、ベネデッタの記憶からエルネストの記憶を消すらしいと執事から聞いて、俺は久しぶりに家を出た。
王宮に行くわけでは無い。
アルベルトだけを責められなかったから。
アルベルトがエルネストを愛せていたら。ベネデッタに一目惚れしなかったら。エルネストがもう少し嫉妬心を隠し、理性的に振る舞えていたら。ベネデッタがアルベルトと仲良くならなかったら。2人が出会っていなかったら。
俺が女遊びせず、エルネストだけを愛していたら。
過ぎたことをいくら悔やんでも、あの子はもう何処にもいなかった。
ギィッと少し軋む教会のドアを開けた。
清廉な空気、ステンドグラスに光が反射してずいぶん幻想的だが、俺は隠すことなく舌打ちをする。
「お前の愛した子は死んだぞ!何が愛されし子だ!お前が与えたのは愛じゃない、呪いだ!!」
エルネストの死後、執事に調べてもらった。
エルネストは家庭環境がよろしく無く、愛に飢えた子だった。全ての始まりは金髪のせいだったと。
そして婚約者が決まって、やっと愛を知れる所でそれは取り上げられた。
なんでエルネストを神子にした?なんでエルネストを周りから愛される環境に置かなかった?なんで神子を2人も誕生させた?
苦しい。
あの子を失って、あの子の涙を拭えなくて。
けど、一番苦しいのは、あの子の笑った顔が思い出せなくなったからだ。
泣いてる顔だけはこんなに鮮明に思い出せるのに。
「神なんて信じてないけど、もしいるなら俺はお前を殺してやる!!」
神殿の中に自分の声だけが反響する。
こんな事するなんて、引きこもり過ぎておかしくなったか、なんて思っていると、神殿内が淡く輝く。
あまりの眩しさにぎゅっと目を瞑る。
光が落ち着き、目を開けると赤髪の、髪の長い中性的な人が立っていた。
その人はそっと涙を流す。
「すまない。私の力不足だ。後に厄災が訪れる。それに対抗するのに、神子1人では足りず、2人に増やした。こんな事は未だかつてない事で、十分に愛を注げなかったのだ。」
「は…?やく、さい…?」
急に現れた人…神なんだろうか。情報量が多過ぎて処理できない。
「魔王の封印が解ける。神子が1人死んだこと、そしてもう1人も弱っている事で、その紐はもう既に解けているだろう。」
神が言った途端、突き上げるような地鳴りと、悲鳴。ガラス越しの外は赤く染まっていた。
「なんだ、これは、」
「ああ、もう、復活してしまったか。」
世界が崩れていく音がする。
どうにか、ならないのか。神なら。
「言っただろう。私の力は、神子を2人生み出した事で殆ど残っていない。ああ、でも、」
人の声は、いつの間にか聞こえなくなった。ただ燃え盛る炎の音だけが耳をつく。
「1人だけ、戻すくらいなら」
神がそっと俺に触れる。
「戻すって、」
「私の愛せなかった子を、愛してくれ」
またあの光に包まれて、俺は強く目を閉じた。
103
お気に入りに追加
75
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(3件)
あなたにおすすめの小説
臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話
八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。
古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。
掃除中に、公爵様に襲われました。
天災
BL
掃除中の出来事。執事の僕は、いつものように庭の掃除をしていた。
すると、誰かが庭に隠れていることに気が付く。
泥棒かと思い、探していると急に何者かに飛び付かれ、足をかけられて倒れる。
すると、その「何者か」は公爵であったのだ。
腐男子ですが、お気に入りのBL小説に転移してしまいました
くるむ
BL
芹沢真紀(せりざわまさき)は、大の読書好き(ただし読むのはBLのみ)。
特にお気に入りなのは、『男なのに彼氏が出来ました』だ。
毎日毎日それを舐めるように読み、そして必ず寝る前には自分もその小説の中に入り込み妄想を繰り広げるのが日課だった。
そんなある日、朝目覚めたら世界は一変していて……。
無自覚な腐男子が、小説内一番のイケてる男子に溺愛されるお話し♡
みなしご白虎が獣人異世界でしあわせになるまで
キザキ ケイ
BL
親を亡くしたアルビノの小さなトラは、異世界へ渡った────……
気がつくと知らない場所にいた真っ白な子トラのタビトは、子ライオンのレグルスと出会い、彼が「獣人」であることを知る。
獣人はケモノとヒト両方の姿を持っていて、でも獣人は恐ろしい人間とは違うらしい。
故郷に帰りたいけれど、方法が分からず途方に暮れるタビトは、レグルスとふれあい、傷ついた心を癒やされながら共に成長していく。
しかし、珍しい見た目のタビトを狙うものが現れて────?
婚約破棄?いいえ、それは監禁して愛でたいだけ
ミクリ21
BL
婚約破棄をしたいと言われたリズ。
何故かを聞いたら、王太子は言った。
「君が本当のにゃんこだって知ったんだ。だから、婚約は辞めて今すぐ飼う」
………はい?
【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。
天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。
成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。
まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。
黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
更新ありがとうございます〜!!!!
いよいよ動き出すんですね!!楽しみです。
更新ありがとうございます!!!
エルネストぉぉぉぉ、、切ない。
これから幸せになってくれるのも首を長くして待ってます!
セシリオ!頑張れ!
エルネスト切ない、、、
セシリオ!エルネストを幸せにしてあげて!!!
主人公が可哀想なほど幸せになった瞬間が楽しみです!!!
更新待ってます!