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アルベルトと一緒に医務室に入れば、特有の薬の匂いと、優しげな保健医の先生。しかし結構体格の良い男だ。もう少し小柄で細身なら…いや、顔は綺麗だから行けるな。
「ベル、大丈夫か!?」
「アル、来てくれたの?」
「当然だろう、怪我は?痛むか?」
ベッドに横たえられたベネデッタの左足には痛々しく包帯が巻かれている。
手を握り合う2人から距離をとり、さり気なく先生の隣を陣取る。あ、良い香りが。
見た目より細い腰に手を這わせてみると、そっと外された。ダメだそうです。現場からは以上です。
先生曰く、骨に以上はないそうで、2週間安静にしていれば治るそうだ。
「突き落とされたって聞いたけど、一体誰に?」
目撃者はいなかったらしく、彼女の悲鳴で駆けつけた生徒が保健室まで運び込んだらしい。
そして彼女も犯人の顔は見ていないと。
「けど、声を聞いたような…」
「声?」
「気が動転してて、正しいか分からないんですけど、」
「何でも良い、誰の声か分かるか?」
ベネデッタは少し悩んだ末にある生徒の名前を口にする。
俺は先生に投げキッスを送った後、アルベルトと共にその人物の元に向かうことにした。
-----------------------------------------------------
長い金髪を腰まで伸ばした人物は直ぐに見つかった。
ベネデッタが言った声の主は、エルネストだったのだ。
「エルネスト、少し良いか」
「あ、アルベルト様!?…はい、勿論です。どうかなさいましたか?」
久々に話しかけられて嬉しかったのか、エルネストはパッと顔を明るくするも、アルベルトの剣呑な雰囲気に、その喜びは直ぐに萎んでいく。
「ベネデッタを階段から突き落としたのはお前か?」
「…え?」
人気が無いとはいえ、まさか廊下でこんな尋問めいたことを始めるとは思わず、俺は慌てて空き教室に2人を連れていく。
「アルベルト、いくら人がいないからって迂闊だよ?もし誰かの耳に入ったらエルちゃんの立場だって危うくなるのに」
それでなくても最近は2人の仲を邪魔するエルネストに対して、一部生徒からの視線が冷たいのに。
「ああ…。けど、お前がやったんだろ?」
「彼女が僕に押されたって言ったんですか?あの時確かに近くに居ましたけど、そんな事してません!そもそも彼女は1人で勝手に階段を踏み外しただけです!何でそんな嘘を、」
「黙れ!ベルは平気で人に嘘をついたりしない!…嘘をついてるのはお前の方なんじゃないのか?」
「僕より彼女を信じるんですか?」
「当然だ。」
エルネストは何か言おうと口をぱくぱくさせていたが、上手く言葉にできなかった様で俯いてしまう。
「くだらない嫉妬で他人を害す者の血を王家に入れるわけにはいかない。この事は国王に相談する。婚約破棄になるだろうからそのつもりで。」
「ちょ、アルベルト!まだエルちゃんが、」
犯人だって決まってない。そう言おうとしたが、エルネストに袖を掴まれて言葉は途切れた。
「…いいです。もう、いいですから」
「エルちゃん、」
「はぁ…。俺はベルのところに戻る。誰かさんのせいで怪我をして不安になっているだろうからな」
しっかりエルネストを睨みつけるのも忘れずに、アルベルトは教室を後にした。
静かになった教室には、エルネストが鼻を啜る音だけが響く。
「エルちゃん、泣かないで?可愛い顔が台無しだよ?今晩アルベルトと話してくるから、ね?」
震える肩を抱き寄せると抵抗なく腕の中に収まった。
いつもは触れられることすら嫌がるが、相当参っている様だ。
そして力無く首を横に振られる。
「もういいんです。放っておいてください。」
「放って置けないよ。このままだとエルちゃんの立場が悪くなる。学園でも、学園外でも。」
彼女が階段から落ちたことは事実で、婚約破棄されてしまったらその犯人がエルネストではないかと噂が広まるだろう。
そうしたら今後社交界での立場が危うい。
「どうでも良いです。もう、疲れた。」
「…そっか」
今までエルネストが弱っていく様子を間近で見てて、今回の件でもう駄目になってしまったんだろう。弁明はしておくべきだが、無理にとは言えなかった。エルネストが壊れてしまう気がしたから。
「じゃあ、エルちゃん俺と婚約しちゃう?」
エルネストはきょとんと目を瞬かせ、柔らかく笑った。
「…ふふっ、しません」
今まで向けられた事の無い嬉しそうな笑顔にドキドキしながら、振られてしまったことにちょっとだけショックを受ける。
「ええ~!?ここは頷くとこでしょ!?」
「嫌ですよ、絶対浮気するじゃ無いですか」
「いやいやこう見えて一途だから!一生大事にするし!」
「過去を振り返ってから言ってください。まあ、貴方のその優しいところは美点だとは思いますけど。」
エルネストに褒められて心を躍らせる。なんだかんだで満更でもなさそうに頬を染めているから、父に頼んで家からエルネストの家に打診して貰えばいける気がする。
なんなら浮気しない誓約書だって書くし。
「エルちゃんが良いよって言ってくれるまで口説くし、老後になって本当に浮気しなかったねぇとか笑い合える様にするから!」
「…信頼できる様になったら考えます」
「まじで!?やったぁ!!エルちゃん大好き!」
「考えるだけですってば!」
前まで可能性が0だったのが、今は1になった。大きな進歩だ。
帰り道にエルネストに沢山の愛を伝えて、恥ずかしそうにしながらもちゃんと聞いてくれるエルネストに胸を高鳴らせながら家に帰る。
最悪な1日だけど、最高な1日だった。
まあ、取り敢えずエルネストは犯人じゃ無いことはアルベルトに理解してもらわなければいけないので執事に頼んで王宮へとアポを取る。
だらけた顔を外行きの顔に整えて、制服から着替える。
鏡の前で最終チェックをしていると、何時もよりやや雑にノックされる。あの礼儀に厳しすぎるウチの執事にしては珍しいというか有り得ないというか。
「何だ?まさかアルベルト俺と話す気無いとか?」
「いえ、あの、御学友の、エルネストさまが」
「ん?」
「亡くなったそうです」
「ベル、大丈夫か!?」
「アル、来てくれたの?」
「当然だろう、怪我は?痛むか?」
ベッドに横たえられたベネデッタの左足には痛々しく包帯が巻かれている。
手を握り合う2人から距離をとり、さり気なく先生の隣を陣取る。あ、良い香りが。
見た目より細い腰に手を這わせてみると、そっと外された。ダメだそうです。現場からは以上です。
先生曰く、骨に以上はないそうで、2週間安静にしていれば治るそうだ。
「突き落とされたって聞いたけど、一体誰に?」
目撃者はいなかったらしく、彼女の悲鳴で駆けつけた生徒が保健室まで運び込んだらしい。
そして彼女も犯人の顔は見ていないと。
「けど、声を聞いたような…」
「声?」
「気が動転してて、正しいか分からないんですけど、」
「何でも良い、誰の声か分かるか?」
ベネデッタは少し悩んだ末にある生徒の名前を口にする。
俺は先生に投げキッスを送った後、アルベルトと共にその人物の元に向かうことにした。
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長い金髪を腰まで伸ばした人物は直ぐに見つかった。
ベネデッタが言った声の主は、エルネストだったのだ。
「エルネスト、少し良いか」
「あ、アルベルト様!?…はい、勿論です。どうかなさいましたか?」
久々に話しかけられて嬉しかったのか、エルネストはパッと顔を明るくするも、アルベルトの剣呑な雰囲気に、その喜びは直ぐに萎んでいく。
「ベネデッタを階段から突き落としたのはお前か?」
「…え?」
人気が無いとはいえ、まさか廊下でこんな尋問めいたことを始めるとは思わず、俺は慌てて空き教室に2人を連れていく。
「アルベルト、いくら人がいないからって迂闊だよ?もし誰かの耳に入ったらエルちゃんの立場だって危うくなるのに」
それでなくても最近は2人の仲を邪魔するエルネストに対して、一部生徒からの視線が冷たいのに。
「ああ…。けど、お前がやったんだろ?」
「彼女が僕に押されたって言ったんですか?あの時確かに近くに居ましたけど、そんな事してません!そもそも彼女は1人で勝手に階段を踏み外しただけです!何でそんな嘘を、」
「黙れ!ベルは平気で人に嘘をついたりしない!…嘘をついてるのはお前の方なんじゃないのか?」
「僕より彼女を信じるんですか?」
「当然だ。」
エルネストは何か言おうと口をぱくぱくさせていたが、上手く言葉にできなかった様で俯いてしまう。
「くだらない嫉妬で他人を害す者の血を王家に入れるわけにはいかない。この事は国王に相談する。婚約破棄になるだろうからそのつもりで。」
「ちょ、アルベルト!まだエルちゃんが、」
犯人だって決まってない。そう言おうとしたが、エルネストに袖を掴まれて言葉は途切れた。
「…いいです。もう、いいですから」
「エルちゃん、」
「はぁ…。俺はベルのところに戻る。誰かさんのせいで怪我をして不安になっているだろうからな」
しっかりエルネストを睨みつけるのも忘れずに、アルベルトは教室を後にした。
静かになった教室には、エルネストが鼻を啜る音だけが響く。
「エルちゃん、泣かないで?可愛い顔が台無しだよ?今晩アルベルトと話してくるから、ね?」
震える肩を抱き寄せると抵抗なく腕の中に収まった。
いつもは触れられることすら嫌がるが、相当参っている様だ。
そして力無く首を横に振られる。
「もういいんです。放っておいてください。」
「放って置けないよ。このままだとエルちゃんの立場が悪くなる。学園でも、学園外でも。」
彼女が階段から落ちたことは事実で、婚約破棄されてしまったらその犯人がエルネストではないかと噂が広まるだろう。
そうしたら今後社交界での立場が危うい。
「どうでも良いです。もう、疲れた。」
「…そっか」
今までエルネストが弱っていく様子を間近で見てて、今回の件でもう駄目になってしまったんだろう。弁明はしておくべきだが、無理にとは言えなかった。エルネストが壊れてしまう気がしたから。
「じゃあ、エルちゃん俺と婚約しちゃう?」
エルネストはきょとんと目を瞬かせ、柔らかく笑った。
「…ふふっ、しません」
今まで向けられた事の無い嬉しそうな笑顔にドキドキしながら、振られてしまったことにちょっとだけショックを受ける。
「ええ~!?ここは頷くとこでしょ!?」
「嫌ですよ、絶対浮気するじゃ無いですか」
「いやいやこう見えて一途だから!一生大事にするし!」
「過去を振り返ってから言ってください。まあ、貴方のその優しいところは美点だとは思いますけど。」
エルネストに褒められて心を躍らせる。なんだかんだで満更でもなさそうに頬を染めているから、父に頼んで家からエルネストの家に打診して貰えばいける気がする。
なんなら浮気しない誓約書だって書くし。
「エルちゃんが良いよって言ってくれるまで口説くし、老後になって本当に浮気しなかったねぇとか笑い合える様にするから!」
「…信頼できる様になったら考えます」
「まじで!?やったぁ!!エルちゃん大好き!」
「考えるだけですってば!」
前まで可能性が0だったのが、今は1になった。大きな進歩だ。
帰り道にエルネストに沢山の愛を伝えて、恥ずかしそうにしながらもちゃんと聞いてくれるエルネストに胸を高鳴らせながら家に帰る。
最悪な1日だけど、最高な1日だった。
まあ、取り敢えずエルネストは犯人じゃ無いことはアルベルトに理解してもらわなければいけないので執事に頼んで王宮へとアポを取る。
だらけた顔を外行きの顔に整えて、制服から着替える。
鏡の前で最終チェックをしていると、何時もよりやや雑にノックされる。あの礼儀に厳しすぎるウチの執事にしては珍しいというか有り得ないというか。
「何だ?まさかアルベルト俺と話す気無いとか?」
「いえ、あの、御学友の、エルネストさまが」
「ん?」
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