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誰かが不幸に落ち込んでも、誰かが幸せに笑っても、時計の針は一定の速度で回っていく。
機械を弄るのは誰にでもできるが、実際の時間の針を戻すことも、進める事も唯の人間には出来ない。
1度間違えてしまえば元には戻れず。間違えたまま針は進むしかないのだ。
「おはようベルちゃん、今日も桜の様な君の優しい香りに誘われて来ちゃった☆いや、向日葵の様に明るく優しい光に誘われて、かな?」
柔らかく、肩口で切りそろえられた金髪をするりと撫でると、恥じらいの乙女は困ったような顔で隣の男に助けを求める。
「おいセシリオ、来るな。愛称で呼ぶな。気安く髪に触れるな」
そしてその男は容赦なく俺の手を叩き落とす。
「え~、エルちゃんの事は触っても怒らない癖に?」
エルネストの名前を出せば、苦虫を噛み潰したように顔を歪める。
まだ先日の一件は許せてない様だ。
そしてベネデッタも、当然エルネストに苦手意識を持っている。
不安げに揺れた彼女の瞳を憂いたのか、彼女を友人の元へ送り、セシリオをテラスに連れて行く。
「アルベルトはエルちゃんの事許せないって思ってるだろうけど、俺的にはお前の方がどうかと思うよ?」
「俺だってわかってる。あと数ヶ月だけ。」
「その数ヶ月の為に、これから永遠を誓うエルちゃんを傷つけるの?」
2人の間の溝はもう修復不能な所まで深くなってしまっていると分かっているけど、これ以上は止めなければ。
壊れてしまう気がして。
「お前は前々からやけにエルネストの肩を持つよな」
「そ?まあ俺は美人と可愛い女の子の味方なんで。いくらアルベルトでも、泣かせたら許さないぞ?…最近話してないでしょ?」
「…ああ。」
アルベルトは真面目だ。そして優しい。
婚約者を傷つけたままなのは、本人も気にしているんだろう。
「今日は久しぶりに、夕食に誘ってみる。」
「その後のお誘いも忘れるなよ?」
男のクセに『本気で分かりません』とでも言いたげな顔に哀れみの目を向けつつ答えを教えてやる。
「だから、夜のお誘い♡」
「婚前にするわけないだろう!!」
早く2人が仲直りすれば良い。そうすれば前の日常が戻ってくる。
エルちゃんをからかって、それをアルベルトが庇って。
恋人の様に愛し合える事は無いかも知れないけど、家族愛ならきっと築けるはずだ。
2人が結婚したら俺は用もなく王宮に入り浸って2人をからかって。そして。
エルちゃんが幸せに笑ってくれれば良い。
ベネデッタが誰かに階段から突き落とされたと騒ぎがあったのは、これのすぐ後だった。
機械を弄るのは誰にでもできるが、実際の時間の針を戻すことも、進める事も唯の人間には出来ない。
1度間違えてしまえば元には戻れず。間違えたまま針は進むしかないのだ。
「おはようベルちゃん、今日も桜の様な君の優しい香りに誘われて来ちゃった☆いや、向日葵の様に明るく優しい光に誘われて、かな?」
柔らかく、肩口で切りそろえられた金髪をするりと撫でると、恥じらいの乙女は困ったような顔で隣の男に助けを求める。
「おいセシリオ、来るな。愛称で呼ぶな。気安く髪に触れるな」
そしてその男は容赦なく俺の手を叩き落とす。
「え~、エルちゃんの事は触っても怒らない癖に?」
エルネストの名前を出せば、苦虫を噛み潰したように顔を歪める。
まだ先日の一件は許せてない様だ。
そしてベネデッタも、当然エルネストに苦手意識を持っている。
不安げに揺れた彼女の瞳を憂いたのか、彼女を友人の元へ送り、セシリオをテラスに連れて行く。
「アルベルトはエルちゃんの事許せないって思ってるだろうけど、俺的にはお前の方がどうかと思うよ?」
「俺だってわかってる。あと数ヶ月だけ。」
「その数ヶ月の為に、これから永遠を誓うエルちゃんを傷つけるの?」
2人の間の溝はもう修復不能な所まで深くなってしまっていると分かっているけど、これ以上は止めなければ。
壊れてしまう気がして。
「お前は前々からやけにエルネストの肩を持つよな」
「そ?まあ俺は美人と可愛い女の子の味方なんで。いくらアルベルトでも、泣かせたら許さないぞ?…最近話してないでしょ?」
「…ああ。」
アルベルトは真面目だ。そして優しい。
婚約者を傷つけたままなのは、本人も気にしているんだろう。
「今日は久しぶりに、夕食に誘ってみる。」
「その後のお誘いも忘れるなよ?」
男のクセに『本気で分かりません』とでも言いたげな顔に哀れみの目を向けつつ答えを教えてやる。
「だから、夜のお誘い♡」
「婚前にするわけないだろう!!」
早く2人が仲直りすれば良い。そうすれば前の日常が戻ってくる。
エルちゃんをからかって、それをアルベルトが庇って。
恋人の様に愛し合える事は無いかも知れないけど、家族愛ならきっと築けるはずだ。
2人が結婚したら俺は用もなく王宮に入り浸って2人をからかって。そして。
エルちゃんが幸せに笑ってくれれば良い。
ベネデッタが誰かに階段から突き落とされたと騒ぎがあったのは、これのすぐ後だった。
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