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「あ、エルちゃんおはよう。今日も綺麗だね、朝日に照らされたエルちゃんは何時にもましてキラキラしてて、このまま見ていたらきっと俺は、」
「不潔です。」
「ありゃ?」
朝から、と言うより最近エルネストの機嫌が悪い。氷点下だ。口説き文句を最後まで言わせて貰えない時は相当だ。
「未婚の男女が、しかも婚約者が居るのにあんなふうにべたべたと触るなんて何を考えてるんだ。」
「ええ~?俺婚約者がいる子には手を出した事ないよ?俺も婚約者いないし」
一昨日の茶会後の事か、それとも昨日の逢い引きの事か、はたまた今朝の通学中の、
「貴方の事ではありません!いえ、貴方の貞操観念にも思うところがありますが、今は学園の風紀の問題です!」
エルネストが視線を横にずらしたので、追ってみれば、仲睦まじく寄り添うアルベルトと、もう1人の神子・ベネデッタだった。
アルベルトの腕に自分の腕を絡ませ、更にその柔らかそうな金髪をアルベルトの肩に乗せている。
人目に付きやすい中庭のベンチ。始業前の時間とはいえ、例え第1王子のアルベルトが居たとしても人通りはそれなりにある筈が、今や2人きりの空間が出来上がっていた。
何も知らない人ならば思わず筆を取りたくなるような幸せに溢れた光景だが、事実取り巻くのは気まずさと遠慮。
アルベルトは産まれてこの方女遊びの経験が皆無だ。公務の時は別の顔があるようだが、根は真面目で正直者、そして素直だ。
初めて溢れてしまった好意を持て余している。初恋相手に可愛く寄り添われて拒否するなんて頭に無いんだろう。
彼女の事で頭が一杯になり周りが見えていない。
ベネデッタを刺す様な無数の視線も、放置されたエルネストの気持ちも。
「まあ、こんなの今のうちだけだしね、卒業すればアルベルトはエルちゃんと結婚するんだし、在学中くらいは多めに…あれ、エルちゃんがいない。」
見えたのはツカツカと靴を鳴らして2人に近づくエルネストの背中だった。
「おはようございますアルベルト様。」
「ああ、エルネストか。おはよう。どうかしたか?」
悪びれる様子もなくのたまうアルベルトに若干の殺意が芽生えそうになるも、俺が行ってもなと思いこのまま様子を見ることにした。
「恐れながらアルベルト様。朝からその様に風紀を乱すのはどうかと思います。他の生徒の目もあるのですから、控えてください。」
他にも覗き見している生徒は多く、アルベルトに対しハッキリと物を言うエルネストに感心している。
「風紀を…?ごめんなさい、そんなつもりないのですけど」
可愛らしい小さな唇を震わせ、庇護欲をそそる潤んだピンクの瞳で見つめられて落ちない男なんて居るだろうか?
少し離れた距離にいる男生徒達ですら顔を赤らめ見入っているのに。
「貴女に話しかけてはいません。アルベルト様との会話に入って来るなんて、失礼ですよ。」
居ましたねここに。知ってた。
「えっと、ごめんなさい、私まだ礼儀とかよく分からなくて…」
「そうですか。でも、礼儀が分からない平民でも、婚約者のいる男性に不躾に触るのがはしたない事だとわからないんですか?何よりアルベルト様は第1王子で、本来なら貴女のような人が同じ空間に居れる事さえ出来ない人なんですよ?」
「え…あ、ごめんなさい」
不機嫌さを隠しもしない異性からの苦言に怯える少女。
違う世界に足を踏み入れたばかりで右も左も分からぬまま、何が正しいのかも分からない。優しくしてくれた王子に懐けば風当たりは強い。
悲しさと怯えで肩を震わせながら、言われた通りにアルベルトから身を離す。謝る事しかできなくて。溜まった涙はこぼれ落ちそうで。
アルベルトがその目尻を指で撫でる。
「エルネスト、女性に対して物言いがキツすぎだ。学園内で身分は関係ないだろう。ベル、良い。俺が良いと言ったんだから。」
「でも、アル様、」
これは、不味い。
「お前、アルベルト様の事を愛称で呼ぶなんて、」
「はいはい、そこまで!始業のチャイムがもうすぐで鳴るよ?」
俺が言うのが早いか、周囲がざわめくのが早いか。
騒音をかき消す様にチャイムが鳴った。
「不潔です。」
「ありゃ?」
朝から、と言うより最近エルネストの機嫌が悪い。氷点下だ。口説き文句を最後まで言わせて貰えない時は相当だ。
「未婚の男女が、しかも婚約者が居るのにあんなふうにべたべたと触るなんて何を考えてるんだ。」
「ええ~?俺婚約者がいる子には手を出した事ないよ?俺も婚約者いないし」
一昨日の茶会後の事か、それとも昨日の逢い引きの事か、はたまた今朝の通学中の、
「貴方の事ではありません!いえ、貴方の貞操観念にも思うところがありますが、今は学園の風紀の問題です!」
エルネストが視線を横にずらしたので、追ってみれば、仲睦まじく寄り添うアルベルトと、もう1人の神子・ベネデッタだった。
アルベルトの腕に自分の腕を絡ませ、更にその柔らかそうな金髪をアルベルトの肩に乗せている。
人目に付きやすい中庭のベンチ。始業前の時間とはいえ、例え第1王子のアルベルトが居たとしても人通りはそれなりにある筈が、今や2人きりの空間が出来上がっていた。
何も知らない人ならば思わず筆を取りたくなるような幸せに溢れた光景だが、事実取り巻くのは気まずさと遠慮。
アルベルトは産まれてこの方女遊びの経験が皆無だ。公務の時は別の顔があるようだが、根は真面目で正直者、そして素直だ。
初めて溢れてしまった好意を持て余している。初恋相手に可愛く寄り添われて拒否するなんて頭に無いんだろう。
彼女の事で頭が一杯になり周りが見えていない。
ベネデッタを刺す様な無数の視線も、放置されたエルネストの気持ちも。
「まあ、こんなの今のうちだけだしね、卒業すればアルベルトはエルちゃんと結婚するんだし、在学中くらいは多めに…あれ、エルちゃんがいない。」
見えたのはツカツカと靴を鳴らして2人に近づくエルネストの背中だった。
「おはようございますアルベルト様。」
「ああ、エルネストか。おはよう。どうかしたか?」
悪びれる様子もなくのたまうアルベルトに若干の殺意が芽生えそうになるも、俺が行ってもなと思いこのまま様子を見ることにした。
「恐れながらアルベルト様。朝からその様に風紀を乱すのはどうかと思います。他の生徒の目もあるのですから、控えてください。」
他にも覗き見している生徒は多く、アルベルトに対しハッキリと物を言うエルネストに感心している。
「風紀を…?ごめんなさい、そんなつもりないのですけど」
可愛らしい小さな唇を震わせ、庇護欲をそそる潤んだピンクの瞳で見つめられて落ちない男なんて居るだろうか?
少し離れた距離にいる男生徒達ですら顔を赤らめ見入っているのに。
「貴女に話しかけてはいません。アルベルト様との会話に入って来るなんて、失礼ですよ。」
居ましたねここに。知ってた。
「えっと、ごめんなさい、私まだ礼儀とかよく分からなくて…」
「そうですか。でも、礼儀が分からない平民でも、婚約者のいる男性に不躾に触るのがはしたない事だとわからないんですか?何よりアルベルト様は第1王子で、本来なら貴女のような人が同じ空間に居れる事さえ出来ない人なんですよ?」
「え…あ、ごめんなさい」
不機嫌さを隠しもしない異性からの苦言に怯える少女。
違う世界に足を踏み入れたばかりで右も左も分からぬまま、何が正しいのかも分からない。優しくしてくれた王子に懐けば風当たりは強い。
悲しさと怯えで肩を震わせながら、言われた通りにアルベルトから身を離す。謝る事しかできなくて。溜まった涙はこぼれ落ちそうで。
アルベルトがその目尻を指で撫でる。
「エルネスト、女性に対して物言いがキツすぎだ。学園内で身分は関係ないだろう。ベル、良い。俺が良いと言ったんだから。」
「でも、アル様、」
これは、不味い。
「お前、アルベルト様の事を愛称で呼ぶなんて、」
「はいはい、そこまで!始業のチャイムがもうすぐで鳴るよ?」
俺が言うのが早いか、周囲がざわめくのが早いか。
騒音をかき消す様にチャイムが鳴った。
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