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神子とは。

神からの寵愛を一身に受けた者である。

太陽の光の様に、輝く金を身に宿す者である。

全てに愛され、全てを癒す者である。


金は神に愛された証。
俺の通う学園にも金髪の生徒がいた。

神と神子の子孫とされる王族、俺の幼なじみであり従兄弟の第1王子アルベルト。その婚約者、神子であるエルネスト。

エルネストは伯爵家の出でありながらも王族のアルベルトよりも輝かしい金髪を持っていて、しかも瞳まで同じ金色だ。神子でも、瞳まで金色なのは珍しいという。

神からの恩恵をより多く得るため、2人は幼い頃に王命で婚約を交わした。

国から祝福された婚約は、果たして幸せなのだろうか。

俺は自分の赤髪をひと房摘んでみる。
公爵家。母が王族のため、太陽光に透かせば俺の髪もキラキラと金が混じって見える。

たかが髪色で、下らないな。

手を離して頭を振ると、例の金髪が目に付いた。神子のエルネストだ。

「よっ!エルちゃん!3年生になっても美人だね、この後進級祝いにお茶でもどう?勿論2人きりで」

「セシリオ様、巫山戯た愛称で呼ぶのはおやめ下さい。僕はアルベルト様の許嫁です。他の殿方と2人でお茶するのは外聞が悪いので、失礼致します。」

冷たい目で俺を睨みつけたエルネストは長い髪を翻し、歩き出してしまう。
慣れた塩対応に俺も駆け足で隣を歩く。

他の子だったら男女問わずお茶の誘いには目をハートにして乗ってくるのに、相変わらず身持ちが硬い。

下ネタとか言ったら飛び上がりそうだな。

ちょっとからかってやろうかと思い、耳元に口を寄せる。

「そう言わずにさ、アルベルトとも最近寝てないんだろ?俺とお茶飲むくらい、」

「な…っ!無礼な!アルベルト様はお前とは違って高貴な方なんだ!公務ならまだしも、子を成す必要が無い今はそんな低俗な事する訳無いだろう!」

「えっ!?お前らまだヤってなかったの!?大丈夫か!?」

「大丈夫です!!貴方がそういうことに奔放過ぎるだけでしょう!?」

引くわぁ。18だぞ?健全通り越して逆に不健全では。
こんな美人婚約者にしといて、まさか、王子様不能?

しかもエルネストって処、

「日のある内から君たちは。学内でそんな話をするんじゃないよ。」

淡い金髪がサラりと揺れる。

「ア、アッ、アルベルト様、し、失礼いたしました。」

靴音を鳴らしてきたのは不能疑惑王子だった。

「セシリオ、お前今失礼なことを考えただろう」

「アルベルトって不能?…いって!殴る事ないだろ!?」

パワーSのゴリラの自覚を持って欲しい。しかも人の心まで読んでくるとは。流石王子。侮れん。

俺とアルベルトは幼馴染で従兄弟なので、こんな軽口叩いても不敬罪になったりしない。

アルベルトがガチで怒れば首を跳ねられるのでギリギリを見定めているが。

「アルベルト様、今日の放課後も御公務でしょうか。」

「エルネスト、ああ。仕事は溜まってないんだが、少し調べ物をしなければいけなくてな、何かあるか?」

「…いえ。何も。」

普通の令嬢なら仕事と私どっちが大事なのよ!?そもそも仕事じゃないなら時間取りなさいよ!ってキレるとこだが、エルネストは直ぐに引き下がる。

控えめなのは美点だが、過ぎればただの惰性だ。
何も得られない。

「ばっかお前、エルちゃんがせっかく夜のお誘いしてんのに、それは無いって」

「えっ、」

アルベルトが驚いてエルネストの方を見る。エルネストは顔を真っ赤にさせて俺を睨みつけてくる。

少し涙目になってて面白い。

「馬鹿はお前だ!僕はただ、一緒に食事でもと思って!」

「デザートはエルちゃん?」

「違う!!」

ゴッと鈍い音がして、脳天になんとも言えない鈍痛が走る。

エルちゃんは非力なので、しかも身長的に俺の脳天は殴れないので、犯人はアルベルトだ。

「いい加減ししないか。…エルネスト、すまないが夜は既に会食の予定が入っているから今日は無理だ。」

「あ、いえ。いいんです。気にしないでください。」

あからさまに傷ついているエルネスト。

長い付き合いで、俺はアルベルトが嘘をついていると分かってしまった。会食なんて無いんだろう。
多分、エルネストだって。

俺は声を落としてアルベルトをたしなめようとする。

「おい、アルベルト、流石に」

「セシリオ。分かってる。卒業すれば嫌でも毎日一緒に食事するんだ。だから、」

今だけは。苦々しく言った友人を責めるなんて出来なかった。

エルネストはアルベルトが好きだ。

でも、アルベルトは違う。

王命だから。仕方なく結ばれる。

想い人が他にいる訳でも無いのが救いと言えば救いだ。

結婚したら、それなりに良い家庭を築くだろう。アルベルトは真面目だから。

けど、真面目だからこそ、好きじゃない人と結ばれることに疑念を抱いてる。もしかしたら、エルネストを愛せない自分を許せないのかもしれない。

2人のことが好きだからこそ、無理にくっつける事も離すことも出来ない。

「俺はちょっと、会っておきたい人が居るから失礼するよ」

「あ、お供しますよ~!例のあの子でしょ?」

もう話は終わりだと言わんばかりに早足で立ち去るアルベルトを追いかける。

めちゃくちゃ嫌そうな顔をされた。スピードは緩まない。

「相変わらず耳が早いな。」

「あの子とは?」

俺たちと歩幅の違うエルネストが小走りで追いかけてくると、やっとアルベルトが歩みを遅くする。

「エルちゃんのお仲間だよ」

「僕の…?」

「神子がいたんだってさ。エルちゃんの他にも。」



神子とは。

神からの寵愛を一身に受けた者である。

太陽の光の様に、輝く金を身に宿す者である。

全てに愛され、全てを癒す者である。




神子とは。

この世にただ1人の特別な存在である。

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