ダイヤモンド・リリー

zzz

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「蕾、死神……もとい、影玄さんとやらとは知り合いなのか?」

出来ればこの段階で声を掛けておきたいが、警戒されては元も子もない。

「い、いえいえいえ!!俺みたいな貧民層の人間が影玄様の視界に入る事すらおこがましくっっ!」

「つまり知り合いではないのか。」

唯のファンの様だ。それにしても自虐がすごいが。

「一方的に俺が知っているだけで、影玄様は俺の事なんて……」

ほうっと息を吐きながらすれ違う影玄を見つめる蕾。
頬を赤く染め、目を潤ませている様子は、さながら恋する乙女の様だった。

「声かけたりとか?」

「影玄様のお耳を汚すわけにはっっ!!」

お耳ってなんだお耳って。

「見ているだけで十分です……。」

遠ざかる背中すらも目に焼けつけようと、蕾は影玄を見続けた。

「そういうものか。」

「そういうものです。」

恋っていいよな……。

俺も自分の失恋を思い出しつつ、何だかふわふわした気持ちになる。

幼馴染は元気だろうか。
目覚めない俺を少しでも心配してくれているのだろうか。

……ってそうじゃなくて。

「追うぞ」

「え、え?ちょっと待ってください!?」

俺は蕾を無理矢理引っ張りながらも、影玄を尾行することにした。

影玄の後を追っているうちに、だんだん人気のない場所に近づいていた。

舗装された道から外れ、小さな森に入る。

「あ、あの、ストーカー行為は良くないと思うんですが……」

ここまで来て蕾が人聞きの悪いことを言い出す。

「尾行といってくれ尾行と。」

木に隠れつつ小声で話す。

そして見えてきたのは一つの小屋だった。
影玄がこの小屋の扉をノックする。

「そもそも影玄様に何の用ですか?」


「それはこっちの台詞なんだけど?」


聞こえてきたのは中性的な高めの声。少し気の強さを滲ませたそれは、敵意剥き出しという感じだった。

声の主に視線を向ける。

蕾よりも小さいその人物は、可愛らしいという表現が似合う(おそらく)男だった。

髪の色は、木陰にいれば黒く見えたが、光の当たり方で黄色やピンクにも見える不思議な色だった。

華のある顔に意志の強そうな瞳。

「あ~……こんにちは、ちょっと道に迷いまして……?」

「影玄、変なの連れてこないでよ」

頬を膨らませて起こる様子は可愛いが、変なのって何だ。


そう言いつつ、少年は影玄の腕に自分の腕を絡ませる。  

蕾が涙目で俺に悔しさを訴えてきているからやめてあげてください。

「敵意は無かった」

「無くても!そんなんだから、この前家にファンの子が上がり込んできたんでしょ!」

「悪い」

影玄はどうでも良さげに少年から視線をそらす。
そしてたまたま影玄と目があってしまった蕾は狼狽えている。

…いや影玄さん蕾のことガン見し過ぎだから。

「ん……?いや、知り合いだ。」

「「は?」」

俺の少し低めの声と、少年の高い声で良い感じのハーモニーが生み出された瞬間だった。












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