上 下
237 / 639

フランス軍といろはの「み」その1

しおりを挟む
道にただ 身をば捨てんと 思いとれ かならず天の 助けあるべし



現代語訳

人として正しいと思う道には、ただひたすら、一身を投げ出す気持ちで真剣に取りかかることです。

そうすれば、たとえ最初は辛いことがあっても、必ずや天の助けがあるはずです。

間違いありません。



第一次世界大戦のフランスでのお話です。

「エラン・ヴィタール」という概念が当時のフランス陸軍の精神的支柱となっていました。



難しい話なので私なりに解釈すると、人間は全力で戦えば超人的な力を手に入れ戦いで必ず勝てる、そんな感じです。



より正確な表現は下記に記しますが、おフランスの哲学的思考なので私には詳しいことはわかりません。(笑)

「生物を飛躍的に進化せしめる単純不可分な内的衝動」と解釈される。



さてこの思想ですが、第一次大戦前のフランス陸軍の知的指導者たちは、このエラン・ヴィタールの概念を兵士が突撃するときの高揚と結び付け、突撃や攻撃と言った戦闘行為を哲学的に合理化したそうです。



実はこの戦法についてとある批判があります。

まずそれを紹介してから、さらに説明を加えたいと思います。

この戦法はかつて日本人が日露戦争時の乃木希典指揮下での旅順攻略戦と同じく、ただひたすら考えもなく突撃をし、多くの死者をだした、そのことが批判されます。※



確かに苛烈な戦法であり、多くの犠牲者が出ましたのでその批判はある面では正論といえるでしょう。

ただ、別の視点もあります。



戦略的に見た場合、もしここで被害を最小限にしていても、その後に敵が先手を取って要衝を奪われた場合さらに多くの犠牲が出る、なので無理やりにでも攻撃を継続したという見方です。



事実、当時のフランス軍は装備、戦術、兵の練度などで勝っていたドイツに対して優位となる点が少なかったのです。

一言でいえば「戦況不利」です。



しかも、戦術的後退に後退を重ねた結果、戦場のすぐ近くに首都のパリがある位置までドイツ軍はせまっていました。

もう引くに引けなくなったフランス軍が最後に頼ったのが「エラン・ヴィタール」による粘りでした。



しかし、この粘りが戦局の大逆転を起こします。

一つはドイツ軍が兵糧弾薬の不足や疫病によって攻勢限界に近づいていたこと、そしてもう一つがアメリカ軍の参戦です。



細かい戦術論はここでは論じませんが一つ分かっているのは、フランス軍のエラン・ヴィタールがあったために首の皮一枚で敗戦を免れたという「歴史的事実」です。

こうしてフランスは終始軍事的にドイツに押されていたにも関わらず、第一次大戦の

勝者となりました。



しかし、この勝利はフランスにとってとても苦い物でした。

この戦争は終始フランス国内で行われたため、国土は崩壊、いまだに弾薬が発見されるニュースがある位です。



軍人、民間の戦死者数は合わせて約170万人、国民全体当たりの死亡者の割合は約4%、この数字は太平洋戦争の日本の戦死者数約300万人、割合が約4%だったことも考えるととても重い数字だというのが分かります。



さらにとどめとして、当時スペイン風邪がフランスでも猛威を振るっていました。

具体的な数字は分かりませんが、死者数から推測すると戦争に匹敵するかそれ以上の人的、経済的損失になったと思われます。



さて、島津いろは歌の「み」とフランス軍の「エラン・ヴィタール」はある意味よく似ていました。

そしてフランスの歴史を見て、読者の皆様の中にはこれは失敗例だと思った方も多分いらっしゃるかと思います。



次の章では「エラン・ヴィタール」から事実上の方向転換をしたフランスがどのような歴史をたどったのかを調べたいと思います。

もしかしたら、このいろは歌は間違っていると結論づけるのは早いかもしれません。



※ 乃木希典の旅順での用兵に関しては、与えられた状況下で最善を尽くしたという見方もあり、とりわけヨーロッパでは要塞や塹壕攻略の手本としてこの戦いを研究した事例もあることを追記しておきます。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

黒田官兵衛初采配、姫路青山の合戦

桜小径
エッセイ・ノンフィクション
秀吉の軍師として知られてる黒田官兵衛が初采配をとった大戦の紹介

アルファポリスで小説を読まれるようになるには? お気に入り・ポイント・解説などなど

王一歩
エッセイ・ノンフィクション
とある小説投稿サイトで日間ランキング3位になったことがある私の体験談から、『どうすれば自分の投稿した小説が伸びるのか?』を考察・解説する小説になります。 投稿に関する裏技・小ネタなどを紹介できればなと思っております。 ※実際にアルファポリスにて別の作品が13位になっています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...