セリと王子

田中ボサ

文字の大きさ
上 下
33 / 40

32 あばずれのルーツ

しおりを挟む

  まずは彼女が何者なのか知りたい。

クロード様はさすがに知っていた。



彼女は アーニャ=ブルック伯爵令嬢。

なんでも彼女の母親が婚約者がいたにも関わらず、庭師と駆け落ちしてしまった。

当時のブルック伯爵は懸命に探したらしいが、見つからず、あきらめたそうだ。

前伯爵は婚約者だった伯爵令息に多額の慰謝料を払ったため、伯爵家はかなり傾いた。

そのため、後継ぎの現伯爵は自分勝手な妹を勘当し、今後一切の関りを拒否すると宣言した。

だが、あきらめきれなかった前伯爵が代替わり後にできた時間を使い、執念で娘を見つけ出したそうだ。

平民の暮らしに疲れ切っていた彼女は、庭師の夫に黙って娘とともに実家に戻ってきた。

もともと怠け者で、プライドも高く、自分の容姿に自信のあった彼女は、伯爵家の娘として貴族令嬢として気楽に暮らすつもりでいた。

だが、現伯爵はそれを許さず、離れに元妹とその娘、前伯爵を押し込め、決して社交界に出すことはなかった。

ところが、領地に災害が起こり、現伯爵は領地に長期間戻ることになった。

次期伯爵である嫡男はまだ学生で、自然と王都の屋敷は前伯爵が好きに支配し始めた。

現伯爵がいないのをいいことに、勝手に母屋に部屋を用意し、娘と孫にドレスや宝石を買い与え始めた。

さすがに家令や執事が苦言を呈しても、前伯爵は全く聞く耳を持たず、さらには学園に孫娘を通わせたい、と学園に多額の寄付をしたのだ。

学園長が会議のため不在にしていたことも重なり、寄付に目がくらんだ副学園長によってアーニャの編入が決まってしまった、ということらしい。



何つーか、脱力・・・。

アーニャっていうんだ、あの珍嬢。

それにしても悪めぐりあわせが積み重なってない?

現伯爵呪われてんじゃない?



でも、あの、人の話を聞かないっぷりはなんで??

男子にばかり絡みつくのはなんで??



「母上に聞いたんだが、彼女の母親もあんな感じだったそうだ」

アレクセイ殿下・・・母上って、王妃様?

ということは持って生まれたもの?

いや~、何という血統・・・。

あれ?現伯爵に早く連絡すればいいんじゃないの?

そういうと・・・

「ブルック領の災害はかなりひどくてな。

前伯爵が山を切り開いて掘った鉱山が崩落したんだ。

それに、長雨が続き、山からの土砂崩れまで重なり、王家からも支援をしてもなお、なかなか復興までが厳しいんだ。だから、帰りたくても帰れないんだ。

伯爵夫人も領地の人々の支援でかなり大変なようで、息子からの手紙を見てもなかなか解決のために戻る時間がないんだよ」



なんてこった。

どうしたらいいんだろう。

どうしたらやりたい放題爺さんをやり込めるんだ?



「あの、復興についてですけど、ウェステリアに手伝ってもらえないでしょうか?」

「どういうことだ?」

あの王子に恩を売ってやったんだから、返してもらおう作戦!

「ウェステリアはでかい川があるんですよね。

あの川は砂がたまりやすくて、氾濫しないようにする方法をよく知ってるんですよね?

だったら、土砂崩れについても何か知ってそうじゃないですか?」

クロード様もカイト様も感心したように見てくれている・・・あれ?悪魔は?

なんで悪い笑顔で見るんだよ・・・。

なんだか、イランことを言ってしまった気がする・・・。

冷汗が止まらないぞ。



「早速ギルバート殿に手紙を書こう」

頼むよ、節穴王子。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完】愛していますよ。だから幸せになってくださいね!

さこの
恋愛
「僕の事愛してる?」 「はい、愛しています」 「ごめん。僕は……婚約が決まりそうなんだ、何度も何度も説得しようと試みたけれど、本当にごめん」 「はい。その件はお聞きしました。どうかお幸せになってください」 「え……?」 「さようなら、どうかお元気で」  愛しているから身を引きます。 *全22話【執筆済み】です( .ˬ.)" ホットランキング入りありがとうございます 2021/09/12 ※頂いた感想欄にはネタバレが含まれていますので、ご覧の際にはお気をつけください! 2021/09/20  

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...