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28 姉妹
しおりを挟む「リリーシャ様、本日到着分のお手紙でございます」
「ありがとう、そこに置いておいていいわ」
女官が一礼して机の上に手紙を置いていく。
リリーシャはその手紙を確認して、振り分けていくのが毎日の仕事だ。
ふと、手を止めた。
「これは・・・」
差出人はミーナリア、義妹だ。
父親の大事な後妻が産んだ義妹は、とてもかわいらしい容姿をしていた。
小さな頃は仲良くできていたと思う。
いつからだろう、リリーシャの持ち物をうらやましがり、片端からうばっていくようになったのは。
いつ頃からだろう、派手なメイクをして、ドレスも派手な色合いのものを着るようになったのは。
あの子はいつからか、語尾を伸ばして媚びるような話し方をするようになった。
「ミーナ、お食事の時におしゃべりをしないのよ」
「お勉強の時間は先生のお話を座って聞きましょうね」
リリーシャが注意するたびに、癇癪を起して父と義母に泣きつくため、反対に義妹をいじめたと叱責されるのだった。
やがて、ミーナリアには何の教育もされず、ただ父と義母から可愛がられるだけの存在になってしまった。
学園の試験に落ちた時、父はリリーシャにギルバート殿下との婚約をミーナリアに譲るよう言われた。
「何を言ってらっしゃるのか、意味が分かりませんわ、お父様」
「何故わからないんだ、ミーナは学園にも行けず、このまま社交界には出られないのだぞ?
良い縁談は来ないだろう。
あの子の幸せのためにギルバート王子殿下と結婚させて、何不自由ない生活をさせてやらねば」
「そうよ、リリーシャさん、貴女は優秀ですし、もっと他の縁談もたくさんくるでしょう?
あの子に譲ってあげて、お願い」
父親も義母もめちゃくちゃだ。
ミーナリアの事を本当に心配しているようには見えない。
やがて、婚約者のギルバート殿下が友好国であるエシャール国に留学することになった。
連日父親がギルバート殿下のところにミーナリアを連れていき、無理やり会わせている。
ミーナリアも礼儀やマナーを知らないため、ギルバート殿下の心労は積もるばかり。
義妹を溺愛する父親は、フェイト公爵としての仕事はかなり有能で、幅広く商会を運営している。
他国との交流も積極的で、国王も無視できない力を持っているのだ。
その頃にはリリーシャの自宅での扱われ方がぞんざいになり、他の国への縁談まで口に出されるようになってきたため、王妃教育として王宮内に預かられることになっていた。
「このままでは駄目だ、公爵に押し切られてしまう」
「どうする、何か案があるのか?」
「実は、エシャール国に留学してみないか、と打診がありまして」
「あぁ、あそこの第2王子からか?」
「はい、我が国の山の資源を協力して他国に輸出できるようにしたいと。
あちらの技術力は素晴らしいですから・・・。
留学して、エシャール国の技術を生かせるわが国の資源をりようして、友好を深められるかと」
「うむ、エシャール国王からも以前そのような提案があったな。
それと今回の問題はどうかかわってくるんだ?」
「おそらく、私の留学にはミーナリア嬢を無理やりつけてくるでしょう」
「だろうな、あちらの国に連れていき、外堀から埋めようとしてるんだろう。
立太子するまで他国に婚約者を連れてはいかんからな」
「私はアレクセイ殿に協力を願い、なるべくミーナリア嬢とは距離を取ります。
その間にこちらでリリーシャの足元を万全にしてほしいのです。
あわよくば、公爵の力が少しでも削げれば・・・」
そんな密談をしての留学だった。
ギルバートからは定期的に手紙が届く。
相変わらずのミーナリア、他国でも同じようなことをして・・・、どうしたらあの子を救ってあげられるだろう・・・、なんて無力な姉だろうか・・・。
そんなころ、ギルバートからの手紙の内容が変わってきた。
・ミーナリアの周りにエシャール国の令嬢たちが一緒にいること。
・自分やアレクセイ殿下とはほとんど会うことがなくなったこと。
「どういうことなのかしら?」
ギルバートはミーナリアとかかわりを持たないようにしているため、断片的にしかわからない。
ミーナリアからの手紙はそこに届いた。
少し震える手でペパーナイフを取り、手紙を開封する。
ふわっと花の香りがした。
「香水じゃないのね」
あの子は浴びるように香水をかけていたわ・・。
少しだけつけなさい、と教えたら、クンクンしながら私のにおいをかいでいたわね。
手紙を読み終わると、リリーシャは笑顔で泣いていた。
「よかった、あの子が楽しそうで・・・」
リリーシャは侍女を呼び、手紙の返事を書いた。
「うふふ」
~ミーナリアからの手紙~
リリーシャ=フェイト公爵令嬢様
お久しぶりです。
私はミーナリアです。
今、エシャール国にいます。
こちらの学園に通っています。
セリーヌやクラスのみんなとお昼を一緒に食べました。
皆食べるのが早かったです。
マリアンヌ様、やイザベラ様達が勉強を教えてくれます。
食事もマナーを習って食べています。
肩が痛いです。
セリーヌは楽しくて、いろんな人に会わせてくれました。
マリアンヌ様、、イザベラ様は必殺技が使えます。
お姉さまもきっとできると皆いっていました。
私もできるようになりたいです。
勉強が楽しくなりました。
字が上手になったので初めて手紙を書きました。
一番にリリーシャ様に書きたかったからです。
今まで我がままばっかり言ってごめんなさい。
もし許してもらえるなら、またおねえさまって呼んでもいいですか?
良かったらお返事をもらえますか?
ミーナリアー=フェイト
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