セリと王子

田中ボサ

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  「リリーシャ様、本日到着分のお手紙でございます」

「ありがとう、そこに置いておいていいわ」

女官が一礼して机の上に手紙を置いていく。

リリーシャはその手紙を確認して、振り分けていくのが毎日の仕事だ。



ふと、手を止めた。

「これは・・・」

差出人はミーナリア、義妹だ。

父親の大事な後妻が産んだ義妹は、とてもかわいらしい容姿をしていた。

小さな頃は仲良くできていたと思う。

いつからだろう、リリーシャの持ち物をうらやましがり、片端からうばっていくようになったのは。

いつ頃からだろう、派手なメイクをして、ドレスも派手な色合いのものを着るようになったのは。

あの子はいつからか、語尾を伸ばして媚びるような話し方をするようになった。



「ミーナ、お食事の時におしゃべりをしないのよ」

「お勉強の時間は先生のお話を座って聞きましょうね」

リリーシャが注意するたびに、癇癪を起して父と義母に泣きつくため、反対に義妹をいじめたと叱責されるのだった。

やがて、ミーナリアには何の教育もされず、ただ父と義母から可愛がられるだけの存在になってしまった。



学園の試験に落ちた時、父はリリーシャにギルバート殿下との婚約をミーナリアに譲るよう言われた。

「何を言ってらっしゃるのか、意味が分かりませんわ、お父様」

「何故わからないんだ、ミーナは学園にも行けず、このまま社交界には出られないのだぞ?

良い縁談は来ないだろう。

あの子の幸せのためにギルバート王子殿下と結婚させて、何不自由ない生活をさせてやらねば」

「そうよ、リリーシャさん、貴女は優秀ですし、もっと他の縁談もたくさんくるでしょう?

あの子に譲ってあげて、お願い」

父親も義母もめちゃくちゃだ。

ミーナリアの事を本当に心配しているようには見えない。



やがて、婚約者のギルバート殿下が友好国であるエシャール国に留学することになった。



連日父親がギルバート殿下のところにミーナリアを連れていき、無理やり会わせている。

ミーナリアも礼儀やマナーを知らないため、ギルバート殿下の心労は積もるばかり。

義妹を溺愛する父親は、フェイト公爵としての仕事はかなり有能で、幅広く商会を運営している。

他国との交流も積極的で、国王も無視できない力を持っているのだ。



その頃にはリリーシャの自宅での扱われ方がぞんざいになり、他の国への縁談まで口に出されるようになってきたため、王妃教育として王宮内に預かられることになっていた。



「このままでは駄目だ、公爵に押し切られてしまう」

「どうする、何か案があるのか?」

「実は、エシャール国に留学してみないか、と打診がありまして」

「あぁ、あそこの第2王子からか?」

「はい、我が国の山の資源を協力して他国に輸出できるようにしたいと。

あちらの技術力は素晴らしいですから・・・。

留学して、エシャール国の技術を生かせるわが国の資源をりようして、友好を深められるかと」

「うむ、エシャール国王からも以前そのような提案があったな。

それと今回の問題はどうかかわってくるんだ?」

「おそらく、私の留学にはミーナリア嬢を無理やりつけてくるでしょう」

「だろうな、あちらの国に連れていき、外堀から埋めようとしてるんだろう。

立太子するまで他国に婚約者を連れてはいかんからな」

「私はアレクセイ殿に協力を願い、なるべくミーナリア嬢とは距離を取ります。

その間にこちらでリリーシャの足元を万全にしてほしいのです。

あわよくば、公爵の力が少しでも削げれば・・・」



そんな密談をしての留学だった。

ギルバートからは定期的に手紙が届く。

相変わらずのミーナリア、他国でも同じようなことをして・・・、どうしたらあの子を救ってあげられるだろう・・・、なんて無力な姉だろうか・・・。



そんなころ、ギルバートからの手紙の内容が変わってきた。

・ミーナリアの周りにエシャール国の令嬢たちが一緒にいること。

・自分やアレクセイ殿下とはほとんど会うことがなくなったこと。

「どういうことなのかしら?」

ギルバートはミーナリアとかかわりを持たないようにしているため、断片的にしかわからない。



ミーナリアからの手紙はそこに届いた。

少し震える手でペパーナイフを取り、手紙を開封する。

ふわっと花の香りがした。

「香水じゃないのね」

あの子は浴びるように香水をかけていたわ・・。

少しだけつけなさい、と教えたら、クンクンしながら私のにおいをかいでいたわね。



手紙を読み終わると、リリーシャは笑顔で泣いていた。

「よかった、あの子が楽しそうで・・・」



リリーシャは侍女を呼び、手紙の返事を書いた。

「うふふ」





~ミーナリアからの手紙~

 リリーシャ=フェイト公爵令嬢様



お久しぶりです。

私はミーナリアです。

今、エシャール国にいます。

こちらの学園に通っています。

セリーヌやクラスのみんなとお昼を一緒に食べました。

皆食べるのが早かったです。

マリアンヌ様、やイザベラ様達が勉強を教えてくれます。

食事もマナーを習って食べています。

肩が痛いです。

セリーヌは楽しくて、いろんな人に会わせてくれました。

マリアンヌ様、、イザベラ様は必殺技が使えます。

お姉さまもきっとできると皆いっていました。

私もできるようになりたいです。

勉強が楽しくなりました。

字が上手になったので初めて手紙を書きました。

一番にリリーシャ様に書きたかったからです。

今まで我がままばっかり言ってごめんなさい。

もし許してもらえるなら、またおねえさまって呼んでもいいですか?

良かったらお返事をもらえますか?



ミーナリアー=フェイト





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