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【第二章】
婚約破棄公爵令嬢リルオードは最後に第二王子の寵愛を受ける.05
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「キスなさい。あたくしの……靴に」
どくん。
どくん、どくん。
羞恥心で頭がどうにかなりそうです。
でも……金貨一枚あれば三ヶ月は暮らせます。
選択肢は、ありませんでした。
……ちゅ……
「あっははははは! アレン、だめよお、こんなふしだらで守銭奴なオンナに引っかかっちゃあ! きゃっははははは!」
かつん。
笑いながらわたくしの顎を軽く蹴りました。
……だれの。
だれの。
だれの、せいで?
だれのせいで、こんな思い、してると思って?
ぷつん。
わたくしは気がついたらどん、とクララを突き飛ばして、無我夢中で走り出していました。
……
どれくらい走ったでしょうか。
あまりの怒りとやるせなさで、頭がどうにかなりそうで。
気がついたら知らない街の裏路地まで来ていました。
そしてそこは、胸のはだけた婦女が来ていい場所ではありませんでした。
「おいみろよ、ウリ女が向こうからやって来てくれたぜ?」
「おうおう、嬢ちゃん、そんなに急いでどうしたよ」
「あ……ぃや」
男の手が伸びてきて、そして押し倒されました。
がんっ。
後頭部を壁にぶつけて、火花が散りました。
……
「……いじょうぶ?」
そっか。
わたくし。
「だいじょうぶ?」
盗られたんだ。
いつもクララがそうしてきたように。
「ねえ、だいじょうぶ?」
わたくしに最後に残された純潔というプライドさえも。
いま。
さっき。
……
「ねえってば」
「へ?」
わっ。
びっくりした。
「だいじょうぶ?」
目の前に、女の子がいます。
わたくし……さっきならず者に押し倒されて……
それで……
「だいじょうぶ?」
あら、どうして……?
「だいじょうぶかって、聞いてるの」
「え、ええ」
あれえ。
気がつくとわたくしはお庭、のような所に寝転がっていました。
お日様が柔らかく差し込む小さな箱庭。
さあっと風が草花が揺らします。
ちくり。
「いたっ」
頬を刺す鋭い痛みで飛び起きました。
見ると、見たことの無い紫色のお花──ちくちくした棘が覆ってる綺麗なお花──が、庭一面に咲き乱れています。
「それ、わたし」
「へ?」
「わたし、そのお花なの」
にこっ。
そう言うと、目の前の女の子は満面の笑みを浮かべました。
光が反射すると、深い紫色にも見える真っ黒いワンピース。
頭の上には、山吹色した大きなリボン。
ワンピースと同じ色の、紫に艶めくセミロングの黒髪。
金色の瞳。
「アザミよ」
「え?」
「わたしの、名前。花言葉は、復讐。ようこそ──」
女の子はわたくしを覗き込んだまま、ぐんっと口付けでもするかのように顔を近付けました。
「わたしの報復の庭へ」
ぱちぱちと、瞬きすると長いまつ毛がわたくしのまつ毛に当たります。
金色に輝く美しい瞳が印象的です。
「報復……?」
「そう」
あんまり顔が近いから、後ずさって手を後ろにつきます。
ちくっとまた花の棘が刺さりました。
どくん。
どくん、どくん。
羞恥心で頭がどうにかなりそうです。
でも……金貨一枚あれば三ヶ月は暮らせます。
選択肢は、ありませんでした。
……ちゅ……
「あっははははは! アレン、だめよお、こんなふしだらで守銭奴なオンナに引っかかっちゃあ! きゃっははははは!」
かつん。
笑いながらわたくしの顎を軽く蹴りました。
……だれの。
だれの。
だれの、せいで?
だれのせいで、こんな思い、してると思って?
ぷつん。
わたくしは気がついたらどん、とクララを突き飛ばして、無我夢中で走り出していました。
……
どれくらい走ったでしょうか。
あまりの怒りとやるせなさで、頭がどうにかなりそうで。
気がついたら知らない街の裏路地まで来ていました。
そしてそこは、胸のはだけた婦女が来ていい場所ではありませんでした。
「おいみろよ、ウリ女が向こうからやって来てくれたぜ?」
「おうおう、嬢ちゃん、そんなに急いでどうしたよ」
「あ……ぃや」
男の手が伸びてきて、そして押し倒されました。
がんっ。
後頭部を壁にぶつけて、火花が散りました。
……
「……いじょうぶ?」
そっか。
わたくし。
「だいじょうぶ?」
盗られたんだ。
いつもクララがそうしてきたように。
「ねえ、だいじょうぶ?」
わたくしに最後に残された純潔というプライドさえも。
いま。
さっき。
……
「ねえってば」
「へ?」
わっ。
びっくりした。
「だいじょうぶ?」
目の前に、女の子がいます。
わたくし……さっきならず者に押し倒されて……
それで……
「だいじょうぶ?」
あら、どうして……?
「だいじょうぶかって、聞いてるの」
「え、ええ」
あれえ。
気がつくとわたくしはお庭、のような所に寝転がっていました。
お日様が柔らかく差し込む小さな箱庭。
さあっと風が草花が揺らします。
ちくり。
「いたっ」
頬を刺す鋭い痛みで飛び起きました。
見ると、見たことの無い紫色のお花──ちくちくした棘が覆ってる綺麗なお花──が、庭一面に咲き乱れています。
「それ、わたし」
「へ?」
「わたし、そのお花なの」
にこっ。
そう言うと、目の前の女の子は満面の笑みを浮かべました。
光が反射すると、深い紫色にも見える真っ黒いワンピース。
頭の上には、山吹色した大きなリボン。
ワンピースと同じ色の、紫に艶めくセミロングの黒髪。
金色の瞳。
「アザミよ」
「え?」
「わたしの、名前。花言葉は、復讐。ようこそ──」
女の子はわたくしを覗き込んだまま、ぐんっと口付けでもするかのように顔を近付けました。
「わたしの報復の庭へ」
ぱちぱちと、瞬きすると長いまつ毛がわたくしのまつ毛に当たります。
金色に輝く美しい瞳が印象的です。
「報復……?」
「そう」
あんまり顔が近いから、後ずさって手を後ろにつきます。
ちくっとまた花の棘が刺さりました。
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