58 / 85
【第六章.迷子のいのち】
【五十八.お母さん・四】
しおりを挟む
今令和何年? 何月何日? 何曜日? 今何時? わたし何歳だっけ?
わいわいがやがや。ひとが行き来してる。ここはどこ?
ぴんぽーん。残高不足です。改札の音?
……そっか、わたし今、どこかの駅に居るんだ。吐き気と目眩がして、ベンチに座ったんだ。でも、どうしてここにいるんだっけ……
とんとん。
ん? どなた?
「お母さんのとこ、いくんでしょ、お姉ちゃん」
そうだ、ありがとうかいちゃん。やっぱり頼るべきはおとうとねえ。頼りになるね。さすがわたしのおとうと。お姉ちゃんは嬉しいよ。ついでにさ、ここがどこか、教えてよ。
……。
……だめか。
「まもなく、四番線に、京葉線直通、海浜幕張行きが参ります」
「おまたせいたしました、西国分寺、西国分寺です。中央線はお乗り換えです」
西国分寺……?
そか、お母さんの入院している病院に行くんだった。
あの病院……えーと……あれ、なんだっけ……何病院だっけ……えーと、えーと……
あれ……思い出せない。なんて名前だっけ。どんな見た目だっけ。どうやって行くんだっけ。
……
西国分寺の四番線ホーム。中央線との乗り換え客がすごくたくさんいて、行ったり来たり。そのベンチに、もう誰が見てもお腹が大きい、学生服を着たわたしが、座っている。大きなお腹をさすりながらひとりで話したり、けらけら笑ったり。
家路を急ぐサラリーマン。学生。同い年くらいの女子高生。みんな好奇の目で、わたしを見てくる。でももう、ここがどこで、どうしてここにいるのか、じぶんが誰なのか。なにも分からなくなっていたわたしには、なにも。なにひとつとして響かなかった。
そんな時。
「なぎさ?」
聞き覚えのある声に目を上げると、お母さんが立っていた。
「あんた、なぎさなの?」
「お母さん? どうして? 病院は?」
わたしはぼんやり聞いた。
「病院? 何のこと?」
「病院は病院だよ……入院、してたでしょ……ほら、あの、なんとか病院に……」
お母さんは、わたしの要領を得ない質問に、ただ困惑しているみたいだ。
「私が? ……入院なんてしてないわよ……そんなことより……」
お母さんの視線がおりる。娘の異変に気がついた。
「そのお腹……まさかあんた……」
「ああ、これ?」
わたしは満面の笑みを作って、歯を見せた。
「聞いて、お母さん。かいちゃんがね、帰ってきてくれたの。……ほら、みて?」
制服のシャツをがばっとたくしあげる。お腹は大きく出ていて、おへそもでちゃってる。
ホームを歩いているひとが、ぎょっとした視線を送ってくる。
「かいちゃん。私の中に……いるの……ねえ。かいちゃんが……」
そういうとわたしは、服をめくったまま、気を失った。
わいわいがやがや。ひとが行き来してる。ここはどこ?
ぴんぽーん。残高不足です。改札の音?
……そっか、わたし今、どこかの駅に居るんだ。吐き気と目眩がして、ベンチに座ったんだ。でも、どうしてここにいるんだっけ……
とんとん。
ん? どなた?
「お母さんのとこ、いくんでしょ、お姉ちゃん」
そうだ、ありがとうかいちゃん。やっぱり頼るべきはおとうとねえ。頼りになるね。さすがわたしのおとうと。お姉ちゃんは嬉しいよ。ついでにさ、ここがどこか、教えてよ。
……。
……だめか。
「まもなく、四番線に、京葉線直通、海浜幕張行きが参ります」
「おまたせいたしました、西国分寺、西国分寺です。中央線はお乗り換えです」
西国分寺……?
そか、お母さんの入院している病院に行くんだった。
あの病院……えーと……あれ、なんだっけ……何病院だっけ……えーと、えーと……
あれ……思い出せない。なんて名前だっけ。どんな見た目だっけ。どうやって行くんだっけ。
……
西国分寺の四番線ホーム。中央線との乗り換え客がすごくたくさんいて、行ったり来たり。そのベンチに、もう誰が見てもお腹が大きい、学生服を着たわたしが、座っている。大きなお腹をさすりながらひとりで話したり、けらけら笑ったり。
家路を急ぐサラリーマン。学生。同い年くらいの女子高生。みんな好奇の目で、わたしを見てくる。でももう、ここがどこで、どうしてここにいるのか、じぶんが誰なのか。なにも分からなくなっていたわたしには、なにも。なにひとつとして響かなかった。
そんな時。
「なぎさ?」
聞き覚えのある声に目を上げると、お母さんが立っていた。
「あんた、なぎさなの?」
「お母さん? どうして? 病院は?」
わたしはぼんやり聞いた。
「病院? 何のこと?」
「病院は病院だよ……入院、してたでしょ……ほら、あの、なんとか病院に……」
お母さんは、わたしの要領を得ない質問に、ただ困惑しているみたいだ。
「私が? ……入院なんてしてないわよ……そんなことより……」
お母さんの視線がおりる。娘の異変に気がついた。
「そのお腹……まさかあんた……」
「ああ、これ?」
わたしは満面の笑みを作って、歯を見せた。
「聞いて、お母さん。かいちゃんがね、帰ってきてくれたの。……ほら、みて?」
制服のシャツをがばっとたくしあげる。お腹は大きく出ていて、おへそもでちゃってる。
ホームを歩いているひとが、ぎょっとした視線を送ってくる。
「かいちゃん。私の中に……いるの……ねえ。かいちゃんが……」
そういうとわたしは、服をめくったまま、気を失った。
11
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness
碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞>
住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。
看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。
最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。
どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……?
神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――?
定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。
過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
古屋さんバイト辞めるって
四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。
読んでくださりありがとうございました。
「古屋さんバイト辞めるって」
おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。
学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。
バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……
こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか?
表紙の画像はフリー素材サイトの
https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。
初愛シュークリーム
吉沢 月見
ライト文芸
WEBデザイナーの利紗子とパティシエールの郁実は女同士で付き合っている。二人は田舎に移住し、郁実はシュークリーム店をオープンさせる。付き合っていることを周囲に話したりはしないが、互いを大事に想っていることには変わりない。同棲を開始し、ますます相手を好きになったり、自分を不甲斐ないと感じたり。それでもお互いが大事な二人の物語。
第6回ライト文芸大賞奨励賞いただきました。ありがとうございます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる