わたしの大切なおとうと

杏樹まじゅ

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【第四章.赤いメガネの少女】

【四十一.違和感】

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 令和六年七月二十二日。月曜日。午前八時十分。わたし、十六歳。

「うわあっ!」

 自分の叫び声でびっくりして、自分の叫び声で目が覚める。どっどっ。心臓が張り裂けそうなほどの勢いでわたしのアバラを叩く。

 いやああ──!

 夢の中のかいちゃんの叫び声が、鼓膜を突き破って、今も頭の中で乱反射して響いている。こんなにも胸がざわざわするのに、あの日向けられた白鷺みそらさんのあの冷たい声は、今も鮮明に再生される。

「先輩は会ってたんですよ、その日」
「一年と二十八日前。令和五年の六月八日。森田りくと。ふたりで」
「……はあ。……それ、どんなマンガの影響ですか」
「告白されたから付き合ったんじゃない。ある日を境になし崩し的に関係を持っていただけ」
「かいりの命日、いつだって言ってました?……それ、本気でそう信じてるんですか」

 ……。
 ……そんなわけない。りっくんとわたしは、付き合っている。急に後ろから告白されて、先月六日に付き合うことになった。急だったからびっくりはしたけれど、夢じゃない。朝に何度も目が覚めては、学校で毎日会った。
 なし崩し的にって……なに? なにそれ? どういう意味かもわからない。

 ……けれどなんでだろう。ぜったいに違うはずなのに、なぜか、全否定できない。頭のどこかに残る違和感が、否定することを拒んでいる。

 わたしが、りっくんと去年からもう既に会ってた?
 去年から、付き合ってた?
 それよりなにより……

 ……かいちゃんは、去年の六月八日に亡くなってなかった?

 そんなわけない。有り得ない。
 だいいち去年はおとうとを亡くしてつらくて死にそうで、それどころではなかった。亡くなった日なんて、それこそ間違えようがない。
 ……それなのに。
 それなのに、白鷺さんは断言する。
 違う。先輩は嘘をついている、と。

 とん。

 ん?

 今、お腹の辺りを何かが叩いた。なに? 今の……
 その時。

「……お姉ちゃん、うちのこと、好き?」

 かいちゃんの声がした。もちろんだよ。お姉ちゃんはかいちゃんが世界でいちばん大切で、愛してるんだよ。

「嘘はいけないよ、お姉ちゃん。お姉ちゃんの……嘘つき」

 ……

「なぎちゃーん、朝ごはんよー」

 はっ。
 なに、今の声は……たしかに。たしかにかいちゃんだった……
 お腹をさする。もう、あの声がすることはなかった。

 リビングからの、何も知らない呑気なおばさんの声がしたので、わたしは自室のドアを開けた。

 ちゅっちゅ。この歳になってもわたしは指しゃぶりが治らない。
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