上 下
30 / 85
【第四章.赤いメガネの少女】

【三十.カウンセリング・三】

しおりを挟む
 今令和何年? 何月何日? 何曜日? 今何時? わたし何歳だっけ?
 真っ白。真っ白な部屋。天井から床まで、全部真っ白。カウンセラーの先生の白衣も真っ白。
 全てが明るいこの部屋で、わたしはせっせと忙しい。

「こんにちは。ご機嫌はいかがですか」

 いつもの赤い縁のメガネのカウンセラーさんが、いつものように聞く。

「また来たの。わたし、今いそがしいんだけど」

 かたかたかたかた。

「……何にって? 見てわかんない? 今ね、かいちゃんの、ちっちゃなお洋服作ってるの。最近編み物にはまっててさ。もうすぐ帰ってきてくれるから。もうすっかり寒いでしょ? セーターでも作ってあげようかなって」

 かたかたかたかた。

「どんな、セーターでしょう」
「ピンクのね、くまの柄のセーター。昔からね、かいちゃんのトレードマークなんだ。……けっこう、難しいんだよ? このくまちゃんのね、なんとも言えない表情を作るのが……ほら、見て! 割とうまくいったと思わない? ……ねえ。ねえったら」

 かたかたかたかた。
 ふう。先生が息を吐く。そして、笑顔で聞いてきた。

「どこから、帰ってくるのでしょう」
「どこからって……そりゃあ……」

 かたかたかたかた。

「どこでしょう?」
「なんだっけ。ほら、あそこよ、あそこ。……なんだっけ」

 かたかたかたかた。

「それがどこだか、答えることができますか」
「あー、ほら、あそこだよ、あそこ。えーと、んーと……」

 かたかたかたかた。

「荒浜さん」
「あーっ! うっさい! うっさい! うっさいんだよ!」

 がんっ、がんっ。

「乱暴はいけません」
「うるせえ、あそこっつったら、あそこなんだよっ! あたしのかいちゃんは、あそこからもどってくるんだよっ」

 どがんっ。がんっ。

「どこだか、わかりますか」
「しつけえんだよっ、かいちゃんが驚くだろ、静かにしろよっ」
「どうして、驚くのでしょう」
「そりゃあ、だって、ここに……わたしのここに……」
「もう一度ききます。どこにいるのでしょう」
「……かいちゃん……? かいちゃんっ? ねえ、かいちゃん、どこへ行っちゃったんだっけ。ここに、あたしのここに居たはずなんだけど! ねえ、そこの赤いメガネのあなた。かいちゃん、どこへ行ったかしりませんか。……ねえ、聞いてんの? ねえ。ねえったらぁーっ!」

 どがん。からんからん。

 かたかたかたかた。

 ……

「……落ち着かれましたか」

 ……

「ねえ、返してよう。わたしのかいちゃん、返してよう。ひっく……ぐすっ……ねえ、返してよう……ねえ……」
「今日はここまでにしましょう」
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

世界一可愛い私、夫と娘に逃げられちゃった!

月見里ゆずる(やまなしゆずる)
ライト文芸
私、依田結花! 37歳! みんな、ゆいちゃんって呼んでね! 大学卒業してから1回も働いたことないの! 23で娘が生まれて、中学生の親にしてはかなり若い方よ。 夫は自営業。でも最近忙しくって、友達やお母さんと遊んで散財しているの。 娘は反抗期で仲が悪いし。 そんな中、夫が仕事中に倒れてしまった。 夫が働けなくなったら、ゆいちゃんどうしたらいいの?! 退院そいてもうちに戻ってこないし! そしたらしばらく距離置こうって! 娘もお母さんと一緒にいたくないって。 しかもあれもこれも、今までのことぜーんぶバレちゃった! もしかして夫と娘に逃げられちゃうの?! 離婚されちゃう?! 世界一可愛いゆいちゃんが、働くのも離婚も別居なんてあり得ない! 結婚時の約束はどうなるの?! 不履行よ! 自分大好き!  周りからチヤホヤされるのが当たり前!  長年わがまま放題の(精神が)成長しない系ヒロインの末路。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ミスコン三連覇猛者が俺に構いすぎるせいで、学園ラブコメを満足に体験できないんだが。  

れれくん。
恋愛
可もなく不可もなく平凡に暮らす高校一年生の優。 そんな優の日常は突然崩れ去る。 最愛の父と母を事故で失い孤独になってしまう。 そんな優を引き取ってくれたのは昔から本当の姉のように慕ってきた大学生の咲夜だった。 2人の共同生活が始まり、新しい学校で出来た友人達と楽しい日々を過ごしていく。 だが優は知らない。咲夜が優に好意を抱いている事を。 照れ隠しでついつい子供扱いしてしまう事を。 果たして咲夜の想いは優に届くのか。 ぶっきらぼうで平凡な高校生の優とお節介なミスコン三連覇猛者の咲夜。個性豊かな優の悪友?が送るリア充側のラブコメここに爆誕。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...