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【第三章.わたしを呼ぶ声 】

【二十八.白鷺みそら・二】

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 六月十日。月曜日。午前十時四十一分。わたし、十六歳。

「幸い、命に別状はありませんでしたが、左足と左腕、二箇所に骨折をしています。……ご家族の方ですか? ご本人とはどういったご関係ですか」

 受付で救急外来のひとを呼んでもらい、話を聞いた。赤い縁のメガネが印象的な女医さんだ。わたしは、いとこだと嘘をついた。女医さんは腕を組んで、顎に手を置いた。

「脳震盪を起こしています。精密検査は終わりましたが、まだ意識は戻っていません。どうかご安静に」

 そう言うと、足早に去っていった。告げられた病室の棟に向かい、エレベーターに乗る。四階だ。とても清潔に保たれた廊下を歩き、左に曲がる。病室四〇一二。入口には、「白鷺みそら」の文字が書かれている。彼女の名前だ。わたしは、首を傾げる。……字で見てみると、不思議だ。初めて見るはずの名前なのに、どこか懐かしい。わたしはこの名前を知っている……理由は知らないけれど、確実にそう言えるのだ。
 わたしは、清潔感漂う木の引き戸をそうっと開けた。午前の日が柔らかく差す明るい部屋の、真っ白いベッドの上で、白鷺みそらさんはすうすうと静かに呼吸をしている。
 ここで、ある事に気がつく。床も、天井も、真っ白。無駄なものがひとつも無い、入院病室。……似ている。そう思った。南大沢にある、わたしが体を休めに帰るだけの、あの部屋に。とてもよく似ているのだ。
 彼女の頭には包帯が巻かれていた。脳震盪を起こしています。そういえばあの女医さんはそう言っていた。聞きたいことは山のようにあったけれど……声は、かけることが出来なかった。
 わたしは、そばの椅子に座って、待ってみることにした。
 十分。十五分。二十分。……だめか。
 でも……長いまつ毛。鼻筋の通った整った顔立ち。どんなに可愛く着飾っても取れない薄暗さのあるわたしとは違って、とても綺麗に見えて……
 だから、その顔に触ってみたくなった。だから、手を伸ばした。……その時。
 ぱし。
 白鷺みそらさんがわたしの伸ばした右手を掴んで、目を見開いて、口を開いた。

「先輩のせいです。全部。全部。ぜんぶ。……知っているんですよ、私」
「い、いたいっ……何なの……っ!」

 ぎりぎりぎり。
 白鷺みそらさんは、ものすごい力でわたしの右手を握り締めた。まるでそのままへし折られるんじゃないかと思うほどの力。驚いたのと痛いのとで、曖昧に聞き返すことしかできなかった。
 そんなわたしをじっと睨みつけて、彼女は言った。

「先輩が殺したんです。私の、命より大事な……かいりを」
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