わたしの大切なおとうと

まじゅ

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【第三章.わたしを呼ぶ声 】

【二十六.白鷺みそら・一】

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 六月十日。月曜日。午前九時三十二分。わたし、十六歳。
 教室に戻る。二年C組の教室は騒然となっている。誰が落ちたのかと騒ぐ生徒。窓にいつまでも張り付いている野次馬。あちこちで、女子たちがすすり泣く声も聞かれた。
 結局、その日の学校の授業はそこで取りやめとなった。先生たちは職員室に臨時に召集がかかって、二時間目の途中で戻ってきた。生徒たちは学生カバンに教科書を詰めて、部活も中止して、クラスみんなで下校することになった。学年は違えど、同じ校舎に通う仲間。その自殺未遂に、ショックを覚えている子も多いようだった。わたしはクラスでもそんなに友達は多い方ではなかったけれど、唯一といってもいい仲の良い子……舘野紗綾に、聞いてみることにした。

「ねえ、紗綾。あの子、知ってる子なの?」
「……ぐすっ。うん。サッカー部に新しく入ったマネージャーの子なの。頭いい子で、とっても大人しい子で。なんでこんなこと……ひっく」

 可哀想に、すっかり憔悴しきってしまっている。そういえば、聞きながら思い出した。紗綾もサッカー部のマネージャーだった。

「そう……名前、わかる?」
「……ひっく。みそら……白鷺みそらちゃん」

 ごめんね。ありがとう。そう紗綾に伝えて、職員室に向かった。
 みそら……みそら。……みそら?
 なんだか聞き覚えのある名前だったから、口ずさむようにその名を唱えながら歩く。……りっくんも、白鷺みそらさんのこと、知ってるのかな。マネージャーだったら、仲良くなったりも、するのかな。……ふと、ハンバーガー店での紗綾の反応を思い出した。
 ……いけないいけない。そんなことを考えている場合じゃなかった。わたしは階段を登って、三階の正面にある職員室をノックした。

「失礼します……」

 一年生なのは分かるけれど、クラスが分からなかった。だからまず、体育担当で生活指導もしてる柴田先生のところに行った。さっき、わたしの次に白鷺みそらさんのところに駆けつけてきていた。

「あの……白鷺……みそらさんの運ばれた……病院? なんですけど……わかりますか」
「ごめんな、そういうのは教えられん決まりなんだよ」
「白鷺みそらさんは親友でした。心配だし、お見舞いに行きたいんです」
「荒浜が? 白鷺と? 意外だなあ」

 えっ。どういう意味だろう。

「えと……あの、それって……」
「……わかった。都立の多摩南部地域病院だよ。……ひとりで行けよ。間違ってもクラスのみんなでどやどや行ったりするんじゃないぞ」

 先生はそう釘を刺すと、席を立った。
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