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【第二章.灰色の命日】

【十六.カウンセリング・一】

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 今令和何年? 何月何日? 何曜日? 今何時? わたし何歳だっけ?
 真っ白。真っ白な部屋。天井から床まで、全部真っ白。カウンセラーの先生の白衣も真っ白。不思議なことに、全部が真っ白で目を開けてられないくらい眩しいのに、照明がどこにあるのかわからない。
 全てが明るいこの部屋で、わたしは薄ぼんやりと笑っている。

「大丈夫だよ、お母さん。わたしはどこにも行けないし、どこにも行かない。わたしはお母さんとかいちゃんの味方。お母さんとかいちゃんを追い出したお父さんなんかとは違う。あの嘘つきだらけのおばさんなんかとは違う。世界でいちばんたいせつな、お母さんとおとうとなんだから。だから、ね? 泣かないで。お母さん」
「お墓参りはいかがでした?」

 カウンセラーの先生が聞く。この部屋で白くないのは、このおんなのひとの赤い縁のメガネと、理知的なおかっぱの黒髪だけ。

「……はあ。だからぁ。お墓参りはいけなかったって、なんども言ってるじゃない。お母さんの具合が良くなくて」
「具合が悪かったのはお母さんでしょうか?」
「……? そうだよ? わたしは、こう見えて、元気なんだよ。わかる? おとうとが居なくなって、壊れちゃったお母さんを、一生支えるって、そう決めたの」

 かたかたかたかた。
 先生がパソコンのキーボードをタッチタイピングする音が真っ白な部屋に響く。

「壊れてしまったのは、だれですか」
「だから、お母さんだってば」
「おとうとさんを愛してらっしゃったのは、だれですか」
「それは、わたし。わたしだけだよ、おとうとを愛してたのは」
「おとうとは、荒浜さん以外に愛されなかった?」
「うん。そう。無理やり引き離されて。可哀想でしょう。それに、わたしが守らないといけないの」

 かたかたかたかた。

「それは、どうしてでしょう」
「どうしてって……それは……それは……」

 かたかたかたかた。

「……大丈夫ですか?」
「……」
「荒浜さん……?」
「……気持ち悪い。吐きそう」

 赤いメガネの奥で、カウンセラーの先生の目が光った。お部屋は真っ白なのに、なぜだかそれはよく見えた。

「今日の最後の質問です。おとうとさんが居なくなってしまったのは、いつですか」
「だから……なんども言ってるじゃない。命日は六月八日だって。どうしてなんどもなんどもそれ聞くの? ねえ、先生」
「……わかりました。六月八日なんですね? ……今日はここまでにしましょうか」

 かたかたかたかた。……たんっ。
 カウンセラーの先生は、そう言うとキーボードから手を離した。

「お疲れ様です。荒浜なぎささん」
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