3 / 6
【三.この国の呪い】
しおりを挟む
そこで今読んでいる皆様のため説明いたします。わたくし……
夢喰いの聖女フレデリカとは。
オレルビア王国のアッシュフィールドの一族に顕れる、睡眠状態にある人間に介入して、「記憶操作」をする能力。
その能力の及ぼす範囲と効果は絶大です。
普段は、王家に謁見に来た者の中で、懺悔を希望する者を王宮内にある教会のベッドに寝かせ、罪の意識の記憶をわたくし自身に移し替え、代わりに都合のいい記憶を植え付けたりする。
広く聖女の役割だと、王都を離れ田舎のこんな村にまでわたくしの名は広がっております。
オレルビア人の、特に王都の人間は、みな金髪碧眼。
アッシュフィールド家の人間も、例外ではありません。
産まれた時は。
けれどその能力を酷使し続けると、いずれ髪の輝きは失われ、その色は夜空の星々のそれにすら及ばないほどに光を失った漆黒に成り果てるのです。
光を一ミリも跳ね返さないその髪を見た過去のヒトは、それを魔女の印としました。
アッシュフィールドの夢喰い達は、その多くが魔女裁判によって命を落としていったのです。
国のため尽くし、そして使い捨てられるかのように十字架に掛けられていくのがわたくし達の運命でした。
先王陛下の代になって、ようやくその価値観を否定し、黒髪の夢喰いたちに生存権が保証されるようになりました。
母様が、それを泣いて喜んだのを覚えています。
髪が黒くなり始めていたころでした。
わたくしも、母様の再婚相手の連れ子だったオフィーリアも、はしゃぎ回りました。
母が、正気を失ってその喉元にナイフを突き立てたのは、その半年後。
髪はその先端まで、闇に染まっていました。
先王陛下は、悪魔に魂を売っていたのです。
彼が行っていたのは、隣国との貿易。
その商品は生きたニンゲン。
オレルビア王国には、少数民族が暮らしています。
彼らはみな赤毛で、オレルビア人より身体能力に優れていました。
奴隷として輸出するのには、ちょうど都合が良かったのです。
彼らは、目隠しをされ、舌を切られ、手脚には鎖を繋がれました。
そして先王陛下は母様に、奴隷密売に関わった全員の夢喰いを命じました。
すぐに母様は反対したけれど。
今度は、母と再婚した男に、母様の感情を取り去るように命じました。
アッシュフィールドの分家出身のその男は陛下のいいなり。
自身にその能力は無かったけれど、娘のオフィーリアに代行させたのです。
こうして母様は気が狂うまで夢を喰いつづけ、そして命を絶ちました。
オフィーリアの能力は、母様やわたくしより優れていました。
けれど、それもすぐに限界を迎えるようになりました。
天使のように可愛い妹は、あっという間に光を失いかけた。
わたくしはいやでした。
大好きな、大好きなわたくしの妹。
わたくしは見たくなかったのです。
黒く染まった妹など。
だから。
妹の全てを吸い取りました。
悪夢に繋がる記憶全てを。
一晩で髪は真っ黒になりました。
わたくしは、黒髪の呪われたフレデリカとして、悪夢を喰い続けました。
そしてある時、先王陛下は亡くなったのです。
けれど跡を継いだアレックス新国王陛下も大臣も、先王陛下が既に記憶を全て抜き去った後。
奴隷のことも、わたくしの黒髪の理由も、何もかも忘れておいででした。
奴隷の貿易が破綻したことにより、周辺国から武力侵攻を受けるようにもなりました。
もともとが民を奴隷にして売るほどに国力のない、弱小国家。
あっという間に国土の殆どを失いました。
撤退、戦線放棄の知らせばかり寄越されるそんなある日、新国王陛下の前に呼び出されたのが、このお話のはじまりだったというわけなのです。
夢喰いの聖女フレデリカとは。
オレルビア王国のアッシュフィールドの一族に顕れる、睡眠状態にある人間に介入して、「記憶操作」をする能力。
その能力の及ぼす範囲と効果は絶大です。
普段は、王家に謁見に来た者の中で、懺悔を希望する者を王宮内にある教会のベッドに寝かせ、罪の意識の記憶をわたくし自身に移し替え、代わりに都合のいい記憶を植え付けたりする。
広く聖女の役割だと、王都を離れ田舎のこんな村にまでわたくしの名は広がっております。
オレルビア人の、特に王都の人間は、みな金髪碧眼。
アッシュフィールド家の人間も、例外ではありません。
産まれた時は。
けれどその能力を酷使し続けると、いずれ髪の輝きは失われ、その色は夜空の星々のそれにすら及ばないほどに光を失った漆黒に成り果てるのです。
光を一ミリも跳ね返さないその髪を見た過去のヒトは、それを魔女の印としました。
アッシュフィールドの夢喰い達は、その多くが魔女裁判によって命を落としていったのです。
国のため尽くし、そして使い捨てられるかのように十字架に掛けられていくのがわたくし達の運命でした。
先王陛下の代になって、ようやくその価値観を否定し、黒髪の夢喰いたちに生存権が保証されるようになりました。
母様が、それを泣いて喜んだのを覚えています。
髪が黒くなり始めていたころでした。
わたくしも、母様の再婚相手の連れ子だったオフィーリアも、はしゃぎ回りました。
母が、正気を失ってその喉元にナイフを突き立てたのは、その半年後。
髪はその先端まで、闇に染まっていました。
先王陛下は、悪魔に魂を売っていたのです。
彼が行っていたのは、隣国との貿易。
その商品は生きたニンゲン。
オレルビア王国には、少数民族が暮らしています。
彼らはみな赤毛で、オレルビア人より身体能力に優れていました。
奴隷として輸出するのには、ちょうど都合が良かったのです。
彼らは、目隠しをされ、舌を切られ、手脚には鎖を繋がれました。
そして先王陛下は母様に、奴隷密売に関わった全員の夢喰いを命じました。
すぐに母様は反対したけれど。
今度は、母と再婚した男に、母様の感情を取り去るように命じました。
アッシュフィールドの分家出身のその男は陛下のいいなり。
自身にその能力は無かったけれど、娘のオフィーリアに代行させたのです。
こうして母様は気が狂うまで夢を喰いつづけ、そして命を絶ちました。
オフィーリアの能力は、母様やわたくしより優れていました。
けれど、それもすぐに限界を迎えるようになりました。
天使のように可愛い妹は、あっという間に光を失いかけた。
わたくしはいやでした。
大好きな、大好きなわたくしの妹。
わたくしは見たくなかったのです。
黒く染まった妹など。
だから。
妹の全てを吸い取りました。
悪夢に繋がる記憶全てを。
一晩で髪は真っ黒になりました。
わたくしは、黒髪の呪われたフレデリカとして、悪夢を喰い続けました。
そしてある時、先王陛下は亡くなったのです。
けれど跡を継いだアレックス新国王陛下も大臣も、先王陛下が既に記憶を全て抜き去った後。
奴隷のことも、わたくしの黒髪の理由も、何もかも忘れておいででした。
奴隷の貿易が破綻したことにより、周辺国から武力侵攻を受けるようにもなりました。
もともとが民を奴隷にして売るほどに国力のない、弱小国家。
あっという間に国土の殆どを失いました。
撤退、戦線放棄の知らせばかり寄越されるそんなある日、新国王陛下の前に呼び出されたのが、このお話のはじまりだったというわけなのです。
20
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…
三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった!
次の話(グレイ視点)にて完結になります。
お読みいただきありがとうございました。
絞首刑まっしぐらの『醜い悪役令嬢』が『美しい聖女』と呼ばれるようになるまでの24時間
夕景あき
ファンタジー
ガリガリに痩せて肌も髪もボロボロの『醜い悪役令嬢』と呼ばれたオリビアは、ある日婚約者であるトムス王子と義妹のアイラの会話を聞いてしまう。義妹はオリビアが放火犯だとトムス王子に訴え、トムス王子はそれを信じオリビアを明日の卒業パーティーで断罪して婚約破棄するという。
卒業パーティーまで、残り時間は24時間!!
果たしてオリビアは放火犯の冤罪で断罪され絞首刑となる運命から、逃れることが出来るのか!?
神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>
ラララキヲ
ファンタジー
フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。
それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。
彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。
そしてフライアルド聖国の歴史は動く。
『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……
神「プンスコ(`3´)」
!!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!!
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇ちょっと【恋愛】もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
愚者による愚行と愚策の結果……《完結》
アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。
それが転落の始まり……ではなかった。
本当の愚者は誰だったのか。
誰を相手にしていたのか。
後悔は……してもし足りない。
全13話
☆他社でも公開します
婚約破棄されたから復讐したけど夕焼けが綺麗だから帰ります!!
青空一夏
恋愛
王に婚約破棄されたエラは従姉妹のダイアナが王の隣に寄り添っているのにショックをうけて意識がなくなる。
前世の記憶を取り戻したアフターエラは今までの復讐をサクッとしていく。
ざまぁ、コメディー、転生もの。
【完結】どうやら魔森に捨てられていた忌子は聖女だったようです
山葵
ファンタジー
昔、双子は不吉と言われ後に産まれた者は捨てられたり、殺されたり、こっそりと里子に出されていた。
今は、その考えも消えつつある。
けれど貴族の中には昔の迷信に捕らわれ、未だに双子は家系を滅ぼす忌子と信じる者もいる。
今年、ダーウィン侯爵家に双子が産まれた。
ダーウィン侯爵家は迷信を信じ、後から産まれたばかりの子を馭者に指示し魔森へと捨てた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる