夢喰い追放聖女は赤毛の天使と水蜜桃の恋をする 王国の未来? わたくしは存じ上げませんわ

杏樹まじゅ

文字の大きさ
上 下
1 / 6

【一.謁見の間にて】

しおりを挟む
「聖女フレデリカ・アッシュフィールド! オレルビア王国国王、アレックス・ウィンザックスの名において、お前を今日付で王室から追放する!」

 ざわつく謁見の間。
 大臣たちは突然の宣言に顔を見合わせて右往左往。
 伯爵夫人達は扇子で口を隠してひそひそ。
 冷や汗をだらだらとかく人。
 指をさして笑う人。
 大衆の面前で失礼にも指をさし叫ぶ新国王陛下のもと、みなの視線の温度はとても冷たく感じます。

 ……はあ。
 やっぱり、こうなるのね。

 それがわたくし、王室専属聖女「夢喰い」フレデリカの第一の感想です。
 初めからわかりきっていたこと。
 だから、驚かないしショックも受けません。
 初めからわかりきっていたこと。
 だから。

「お待ちください陛下!」

 わたくしの大切な妹、オフィーリアが声を上げても驚くことはありません。

「なんだい、オフィーリア」
「それはあんまりでございます!」

 可愛い可愛いわたくしの妹は、陛下の前に跪きました。

「血は繋がらないとはいえ私の姉は、この王室の呪いを解くため、幼い頃より尽力して参りました。その功績と努力を思えば、そのような仕打ちはあまりに非情。どうかお考え直しを!」
「……だめだ」

 けれど妹の必死の訴えも、もう彼の耳には入りません。

「君も、今の此度の戦禍のことは知っているだろう」
「ですが……」
「ああ、見目麗しいオフィーリア。僕は君に聖女をやって貰いたいと考えている」
「ええっ、私がっ?」

 本当に馬鹿なひと。
 誰のせいでこんなことになっていると思っているのでしょうか。
 まあ、妹は相変わらず可愛いのですけれど。

「そうだ、オフィーリア。戦禍を討ち払えなくなった姉君に変わって、君が聖女になるんだ」

 国王・アレックス陛下は立ち上がり、膝をつき、わたくしの妹の手にキスをしました。

 ぱちぱちぱちぱち。

 みな大きな拍手で陛下に賛同します。

「陛下……」

 オフィーリアは頬を赤らめて、こくりと頷きました。

「わかりましたわ、その任、命を賭して果たしてみせます!」

 聖女オフィーリア、ばんざい。
 聖女オフィーリア、ばんざい。

 拍手と歓声が満ちたこの謁見の間は、もはや必要としていません。
 能力を失い「黒髪になった」、元聖女のことなんて。
 悪夢を喰えなくなった、わたくしのことなんて。

 さようなら。
 わたくしの妹。
 さようなら。
 未来のオフィーリア王妃陛下。
 ないしょにしておきます。
 悪夢と災いのみなもとが、そこの未来の旦那様から始まっていることを。

 王国の未来?
 わたくしは存じ上げませんわ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

リゼと薬草図鑑

yu-kie
ファンタジー
緑の加護を持って生まれた少女リゼ。解析スキルを持つリゼは薬草研究のために図鑑を片手に薬草さがしのお散歩物語始まりの話。 一旦完結とします。

推しをやめた日

西園寺 亜裕太
恋愛
アイドルになった親友のさおちゃんをわたしは推していた。けれど、さおちゃんが売れていくにつれてわたしはさおちゃんとの距離を感じてしまう。輝く彼女の姿を見るのが辛くなってしまい、こっそりと推しをやめてしまった。そんなさおちゃんにはわたしに対して特別な感情があり……。 カクヨムでも連載しています。

婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~

華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。 突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。 襲撃を受ける元婚約者の領地。 ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!! そんな数奇な運命をたどる女性の物語。 いざ開幕!!

【 完 結 】言祝ぎの聖女

しずもり
ファンタジー
聖女ミーシェは断罪された。 『言祝ぎの聖女』の座を聖女ラヴィーナから不当に奪ったとして、聖女の資格を剥奪され国外追放の罰を受けたのだ。 だが、隣国との国境へ向かう馬車は、同乗していた聖騎士ウィルと共に崖から落ちた。 誤字脱字があると思います。見つけ次第、修正を入れています。 恋愛要素は完結までほぼありませんが、ハッピーエンド予定です。

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

婚約破棄されたので、教会で幸せをみつけます

ゆうゆう
恋愛
婚約破棄された私は教会に助けられ、そこで楽しく生活します。

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

嫌われ聖女は魔獣が跋扈する辺境伯領に押し付けられる

kae
恋愛
 魔獣の森と国境の境目の辺境領地の領主、シリウス・レングナーの元に、ある日結婚を断ったはずの聖女サラが、隣の領からやってきた。  これまでの縁談で紹介されたのは、魔獣から国家を守る事でもらえる報奨金だけが目当ての女ばかりだった。  ましてや長年仲が悪いザカリアス伯爵が紹介する女なんて、スパイに決まっている。  しかし豪華な馬車でやってきたのだろうという予想を裏切り、聖女サラは魔物の跋扈する領地を、ただ一人で歩いてきた様子。  「チッ。お前のようなヤツは、嫌いだ。見ていてイライラする」  追い出そうとするシリウスに、サラは必死になって頭を下げる「私をレングナー伯爵様のところで、兵士として雇っていただけないでしょうか!?」  ザカリアス領に戻れないと言うサラを仕方なく雇って一月ほどしたある日、シリウスは休暇のはずのサラが、たった一人で、肩で息をしながら魔獣の浄化をしている姿を見てしまう。

処理中です...