65 / 72
【拾】
【拾ノ陸】
しおりを挟む
「はい、私が持ってる分は全部見せたよ」
冬の空。ベルの……姉のオリジンのお屋敷。かんおけの横。
温度のない夕焼けの光が差し込む。
ベルベッチカは、ゆうの額から手を離した。
「まさか……お母さんが……満月のオリジン……?」
そうだね、と産みの母親は淡々と答えた。
「そんな……お母さんを助けるため、僕は……クラスメイト達を食べてきたのに」
「そこだ。問題は。……なぜ姉のオリジンは、村の崩壊をきみに行わせたのか」
ベルでもわからないことに、ゆうは途方に暮れた。ゆうは俯いた。
「僕は、お母さんを殺さないといけないの?」
涙を零しながら言ったゆうに、ベルは意外な言葉を告げた。
「好きにするといいよ」
ベルは、笑顔のまま、ふうっとため息をついた。
「私はもう、死んだ。細胞の欠片も残さないほどに」
ゆうは首を横に振った。そんな悲しいことを言ってほしくなかった。
「私の再生。それは夢と消えた。……だが、お母さんの救出。これは、姉のオリジンがお母さんだった、ということで、成功した……というか初めからその問題は存在しなかったと言える」
ベルは手を広げた。
「ここは、彼岸だ。あの世の入口だ。このまま、私とここで永久に存在することも可能だ」
愛するベルと永久にここで。……ゆうはつばを飲んだ。
「だがもし、マザーの隠していた最後の真実。それを知りたければ行くといい」
「でも、もうベルの体も僕の体も無いんでしょ? どうやって……」
「私を、今ここで食べるんだ」
ベルはにこにこしたまま、信じられないことを言う。
「おおかみにやったのと同じだよ。私を、残さず食べるんだ。そうすれば、私の全てが愛しいきみ。きみに宿る。力も、心も」
ゆうは恐る恐る、一番なってほしくないことを聞く。
「ベルとは、もう会えなくなるの?」
「完全に一体になるからね。愛しいきみが私を認識することは出来なくなるよ」
そんな……ゆうは下を向いた。いやだ。ベルに会えなくなるなんて。
「沙羅ちゃんが、姉のオリジンに囚われている。奪還に失敗した」
ハッとした。
『ゆうちゃん!』
自分を愛してくれる女の子の顔が浮かんだ。
「マザーの真実の他に、沙羅ちゃんを助けたければ……行くんだ、愛しいきみ」
ゆうは、ぎゅっと、こぶしを握りしめた。
「忘れない。ベルのこと。永遠に」
「そうさ。それでいい。私の愛しいゆうくん」
ベルは近づいて、ゆうの肩に腕を絡めた。
「私を食べて? 大好きな、大好きな、きみ」
そして、キスをした。何度も、何度も……舌を入れて。
(舌から、食べて。あの時みたいに)
ベルの心が直接伝わる。ゆうは新月の牙をだして、その舌を噛んだ。
ベルベッチカ・リリヰの舌の味は。
どんなものより優しくて。どんなものより、暖かかい……
……お母さんの、味だった。
冬の空。ベルの……姉のオリジンのお屋敷。かんおけの横。
温度のない夕焼けの光が差し込む。
ベルベッチカは、ゆうの額から手を離した。
「まさか……お母さんが……満月のオリジン……?」
そうだね、と産みの母親は淡々と答えた。
「そんな……お母さんを助けるため、僕は……クラスメイト達を食べてきたのに」
「そこだ。問題は。……なぜ姉のオリジンは、村の崩壊をきみに行わせたのか」
ベルでもわからないことに、ゆうは途方に暮れた。ゆうは俯いた。
「僕は、お母さんを殺さないといけないの?」
涙を零しながら言ったゆうに、ベルは意外な言葉を告げた。
「好きにするといいよ」
ベルは、笑顔のまま、ふうっとため息をついた。
「私はもう、死んだ。細胞の欠片も残さないほどに」
ゆうは首を横に振った。そんな悲しいことを言ってほしくなかった。
「私の再生。それは夢と消えた。……だが、お母さんの救出。これは、姉のオリジンがお母さんだった、ということで、成功した……というか初めからその問題は存在しなかったと言える」
ベルは手を広げた。
「ここは、彼岸だ。あの世の入口だ。このまま、私とここで永久に存在することも可能だ」
愛するベルと永久にここで。……ゆうはつばを飲んだ。
「だがもし、マザーの隠していた最後の真実。それを知りたければ行くといい」
「でも、もうベルの体も僕の体も無いんでしょ? どうやって……」
「私を、今ここで食べるんだ」
ベルはにこにこしたまま、信じられないことを言う。
「おおかみにやったのと同じだよ。私を、残さず食べるんだ。そうすれば、私の全てが愛しいきみ。きみに宿る。力も、心も」
ゆうは恐る恐る、一番なってほしくないことを聞く。
「ベルとは、もう会えなくなるの?」
「完全に一体になるからね。愛しいきみが私を認識することは出来なくなるよ」
そんな……ゆうは下を向いた。いやだ。ベルに会えなくなるなんて。
「沙羅ちゃんが、姉のオリジンに囚われている。奪還に失敗した」
ハッとした。
『ゆうちゃん!』
自分を愛してくれる女の子の顔が浮かんだ。
「マザーの真実の他に、沙羅ちゃんを助けたければ……行くんだ、愛しいきみ」
ゆうは、ぎゅっと、こぶしを握りしめた。
「忘れない。ベルのこと。永遠に」
「そうさ。それでいい。私の愛しいゆうくん」
ベルは近づいて、ゆうの肩に腕を絡めた。
「私を食べて? 大好きな、大好きな、きみ」
そして、キスをした。何度も、何度も……舌を入れて。
(舌から、食べて。あの時みたいに)
ベルの心が直接伝わる。ゆうは新月の牙をだして、その舌を噛んだ。
ベルベッチカ・リリヰの舌の味は。
どんなものより優しくて。どんなものより、暖かかい……
……お母さんの、味だった。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
ママが呼んでいる
杏樹まじゅ
ホラー
鐘が鳴る。夜が来る。──ママが彼らを呼んでいる。
京都の大学に通う九条マコト(くじょうまこと)と恋人の新田ヒナ(あらたひな)は或る日、所属するオカルトサークルの仲間と、島根にあるという小さな寒村、真理弥村(まりやむら)に向かう。隠れキリシタンの末裔が暮らすというその村には百年前まで、教会に人身御供を捧げていたという伝承があるのだった。その時、教会の鐘が大きな音を立てて鳴り響く。そして二人は目撃する。彼らを待ち受ける、村の「夜」の姿を──。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
赤い部屋
山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。
真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。
東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。
そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。
が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。
だが、「呪い」は実在した。
「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。
凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。
そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。
「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか?
誰がこの「呪い」を生み出したのか?
そして彼らはなぜ、呪われたのか?
徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。
その先にふたりが見たものは——。
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
無能な陰陽師
もちっぱち
ホラー
警視庁の詛呪対策本部に所属する無能な陰陽師と呼ばれる土御門迅はある仕事を任せられていた。
スマホ名前登録『鬼』の上司とともに
次々と起こる事件を解決していく物語
※とてもグロテスク表現入れております
お食事中や苦手な方はご遠慮ください
こちらの作品は、
実在する名前と人物とは
一切関係ありません
すべてフィクションとなっております。
※R指定※
表紙イラスト:名無死 様
本当にあった怖い話
邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。
完結としますが、体験談が追加され次第更新します。
LINEオプチャにて、体験談募集中✨
あなたの体験談、投稿してみませんか?
投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。
【邪神白猫】で検索してみてね🐱
↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください)
https://youtube.com/@yuachanRio
※登場する施設名や人物名などは全て架空です。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる