60 / 72
【拾】
【拾ノ壱】
しおりを挟む
新月の始祖、ベルベッチカ・リリヰは敗れた。
「大丈夫かい? 沙羅ちゃん」
五年生の教室。沙羅ちゃんは、生気のない目をしたまま、ベルベッチカの後ろに立っている。その前で、ベルベッチカ・リリヰは身体を起こす。自身の下半身を見る。
胴体は横一文字に切断され、下半身とは五十センチほど離れていた。
二頭の──蒼太と航の──おおかみは倒した。
あゆみ先生も首を落とし滅した。
勝った、はずだった。何年も十数年続いた因縁に、ケリをつけたはずだった。
しかし。目の前に、オリジンがもう一人いる。
くっ。まさかこんなことが。ベルベッチカは頭の中で悪態をついた。突然の乱入に対応できないまま、一閃をもろに受けてしまったのだ。切り札の拳銃は、二メートル程後方に落ちている。とても届かないし、銀の弾丸は使ってしまった。
「……ベルベッチカ……」
それでも、負けない。負ける訳にはいかない。ばきんっ、と新月の爪を解放した。
(脚が無くったって! この爪さえあればっ)
しかし、つぎの瞬間。マザーは爪を縦に振るった。それは凄まじい衝撃波となり、ベルベッチカは守るべき少女の目の前で跡形もなくばらばらにされた。
……
「きみ、愛しいきみ」
冬の夕方。芯まで冷える、薄明かりの空の下。ゆうはあのお屋敷のあの部屋の、かんおけの横に座っている。いつの間に、いつから座っていたのかはわからない。けれどたしかに今、ここにいる。
そして、自分を呼ぶ声に初めて気がついた。
「ベル……?」
ゆうは立ち上がった。
「良かった。きみの細胞は、私の中でまだ残ってくれていたんだね」
ゆうは愛しい母なる少女の名前を呼び、探した。
ここにいる、との声に振り返ると、愛しい愛しいベルベッチカが立っている。笑って……いるように見える。
「ねえ、僕はどうなったの?」
「しばらく身体を借りていてね。戦っていたんだ。けれど……オリジンに、負けた」
ベルは寂しげに言った。ゆうは下を向いた。
「そっか……僕たち、死ぬの?」
ベルベッチカは歩み寄り、ゆうの顔を覗いて首を横に振った。
「ここにずっといることも出来るし、戦いを挑むことも出来る」
ゆうもベルを見た。
「でもベル、君で勝てない相手に、僕なんかじゃ勝てないよ」
「ふふふ。大丈夫。勝算はまだあるよ」
そういうと、ベルはゆうのおでこに触った。
「奴に接触してね。記憶を覗けたんだ。オリジンの真の姿と、奥に何か秘めていることがわかった」
「オリジンの真の姿?」
ゆうはベルを見た……やさしく、微笑んだままだ。
「今から、それを君にたくす。そして、決めるんだ。このままここに留まるか。この村を縛り続けた呪いと愛を滅するか」
そう言うとベルの手が暖かくなった。と同時に、知らない景色が洪水のように流れ込んできた。
ぷつり、とゆうの意識は切れた。
「大丈夫かい? 沙羅ちゃん」
五年生の教室。沙羅ちゃんは、生気のない目をしたまま、ベルベッチカの後ろに立っている。その前で、ベルベッチカ・リリヰは身体を起こす。自身の下半身を見る。
胴体は横一文字に切断され、下半身とは五十センチほど離れていた。
二頭の──蒼太と航の──おおかみは倒した。
あゆみ先生も首を落とし滅した。
勝った、はずだった。何年も十数年続いた因縁に、ケリをつけたはずだった。
しかし。目の前に、オリジンがもう一人いる。
くっ。まさかこんなことが。ベルベッチカは頭の中で悪態をついた。突然の乱入に対応できないまま、一閃をもろに受けてしまったのだ。切り札の拳銃は、二メートル程後方に落ちている。とても届かないし、銀の弾丸は使ってしまった。
「……ベルベッチカ……」
それでも、負けない。負ける訳にはいかない。ばきんっ、と新月の爪を解放した。
(脚が無くったって! この爪さえあればっ)
しかし、つぎの瞬間。マザーは爪を縦に振るった。それは凄まじい衝撃波となり、ベルベッチカは守るべき少女の目の前で跡形もなくばらばらにされた。
……
「きみ、愛しいきみ」
冬の夕方。芯まで冷える、薄明かりの空の下。ゆうはあのお屋敷のあの部屋の、かんおけの横に座っている。いつの間に、いつから座っていたのかはわからない。けれどたしかに今、ここにいる。
そして、自分を呼ぶ声に初めて気がついた。
「ベル……?」
ゆうは立ち上がった。
「良かった。きみの細胞は、私の中でまだ残ってくれていたんだね」
ゆうは愛しい母なる少女の名前を呼び、探した。
ここにいる、との声に振り返ると、愛しい愛しいベルベッチカが立っている。笑って……いるように見える。
「ねえ、僕はどうなったの?」
「しばらく身体を借りていてね。戦っていたんだ。けれど……オリジンに、負けた」
ベルは寂しげに言った。ゆうは下を向いた。
「そっか……僕たち、死ぬの?」
ベルベッチカは歩み寄り、ゆうの顔を覗いて首を横に振った。
「ここにずっといることも出来るし、戦いを挑むことも出来る」
ゆうもベルを見た。
「でもベル、君で勝てない相手に、僕なんかじゃ勝てないよ」
「ふふふ。大丈夫。勝算はまだあるよ」
そういうと、ベルはゆうのおでこに触った。
「奴に接触してね。記憶を覗けたんだ。オリジンの真の姿と、奥に何か秘めていることがわかった」
「オリジンの真の姿?」
ゆうはベルを見た……やさしく、微笑んだままだ。
「今から、それを君にたくす。そして、決めるんだ。このままここに留まるか。この村を縛り続けた呪いと愛を滅するか」
そう言うとベルの手が暖かくなった。と同時に、知らない景色が洪水のように流れ込んできた。
ぷつり、とゆうの意識は切れた。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説



ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
アポリアの林
千年砂漠
ホラー
中学三年生の久住晴彦は学校でのイジメに耐えかねて家出し、プロフィール完全未公開の小説家の羽崎薫に保護された。
しかし羽崎の家で一ヶ月過した後家に戻った晴彦は重大な事件を起こしてしまう。
晴彦の事件を捜査する井川達夫と小宮俊介は、晴彦を保護した羽崎に滞在中の晴彦の話を聞きに行くが、特に不審な点はない。が、羽崎の家のある林の中で赤いワンピースの少女を見た小宮は、少女に示唆され夢で晴彦が事件を起こすまでの日々の追体験をするようになる。
羽崎の態度に引っかかる物を感じた井川は、晴彦のクラスメートで人の意識や感情が見える共感覚の持ち主の原田詩織の助けを得て小宮と共に、羽崎と少女の謎の解明へと乗り出す。
奇怪未解世界
五月 病
ホラー
突如大勢の人間が消えるという事件が起きた。
学内にいた人間の中で唯一生存した女子高生そよぎは自身に降りかかる怪異を退け、消えた友人たちを取り戻すために「怪人アンサー」に助けを求める。
奇妙な契約関係になった怪人アンサーとそよぎは学校の人間が消えた理由を見つけ出すため夕刻から深夜にかけて調査を進めていく。
その過程で様々な怪異に遭遇していくことになっていくが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる