45 / 72
【漆】
【漆ノ肆】
しおりを挟む
蒼太はゆうの家の前に着いた。呼んでみる……だれも返事をしない。呼び鈴は壊れているのか音はせず、すかすかと空振りしている。
『今日、お家に行けば会えると思いますよ』
居ないじゃんか。帰ろうと思って引き戸の前から立ち去ろうとして振り向いたしゅんかん。玄関の戸が、ほんの少し空いているのが見えた。
あれ。居るのかな……蒼太は、意を決した。
(父さんや母さんにしかられたって構わない。俺は……ゆうに会いたいんだ……)
からから、と、そーっと引き戸を開けた。そして呼んでみる。
「いるよ」
まさか、返事が帰ってくるとは思ってなかったから、心臓が爆発しそうになった。
「えっ、いんのっ? どこ?」
「二階の……僕の部屋」
目の前には階段がある。たしか電気はこの辺に……あったあった、ぱちり。けれど、電気が止まってるのか停電なのか、電気はつかず階段は暗いまま。でも、上の部屋は明るい。彼女の部屋はたしか、お日様がよく差す部屋だった。
いまいく、そういって蒼太はその子の部屋のふすまを開けた。
そこには、ずっとずっと好きだった女の子が、青いパジャマで座っていた。
「ゆう! 何してたんだよ、心配したよ」
ごめんね。なんだか悲しそうに、そう言って笑った。
床に付くくらい長い髪。クセのあるブロンドヘアは、お人形か人魚みたいだった。夕日の光だけの部屋でもわかる青い瞳。この瞳が、何より好きだった。蒼太はゆうの前に座った。
「なあ。悩んでること、あるなら言ってみ? 俺、そうだんのっからさ」
「悩み?」
「たとえば……その……髪の毛のこととかさ。翔かなんかに言われたんだろ、きっと。あいつデリカシー無さすぎだからさ。俺が」
「今日はね。君を待ってたんだ」
蒼太の話を遮って、ゆうは言った。蒼太は思わず聞き返すと、信じられないことを言った。
「僕、さ。ずっと、ずっと前から蒼太のこと、好きで」
そう言うと、ゆうはぷちぷちとパジャマのボタンを外した。……下には何も着てなかった。
蒼太は何が起きているのかわからない。
「お嫁さんに、してくれるんでしょ? いいよ、触って? ……お嫁さんに、して?」
大好きなゆうの、膨らみかけた胸を見て、蒼太は、身震いした。大好きな女の子が、目の前に。
そして、手を伸ばした。とても、美味しそうだった。
……
『いいよ、愛しいきみ。おおかみはきみの虜だ。あとはその拳銃で脳髄を飛ばすんだ』
ゆうは、半裸のまま右手に隠したコルトを、ヨダレを垂らすおおかみの喉に突きつけた。そして、人差し指をトリガーに掛けた、その時。
「……其ノ手ハ 食ワナイゾ……」
びくん、おおかみが固まる。ベルが脳内で叫んだ。
『まずい、オリジンだ!』
『今日、お家に行けば会えると思いますよ』
居ないじゃんか。帰ろうと思って引き戸の前から立ち去ろうとして振り向いたしゅんかん。玄関の戸が、ほんの少し空いているのが見えた。
あれ。居るのかな……蒼太は、意を決した。
(父さんや母さんにしかられたって構わない。俺は……ゆうに会いたいんだ……)
からから、と、そーっと引き戸を開けた。そして呼んでみる。
「いるよ」
まさか、返事が帰ってくるとは思ってなかったから、心臓が爆発しそうになった。
「えっ、いんのっ? どこ?」
「二階の……僕の部屋」
目の前には階段がある。たしか電気はこの辺に……あったあった、ぱちり。けれど、電気が止まってるのか停電なのか、電気はつかず階段は暗いまま。でも、上の部屋は明るい。彼女の部屋はたしか、お日様がよく差す部屋だった。
いまいく、そういって蒼太はその子の部屋のふすまを開けた。
そこには、ずっとずっと好きだった女の子が、青いパジャマで座っていた。
「ゆう! 何してたんだよ、心配したよ」
ごめんね。なんだか悲しそうに、そう言って笑った。
床に付くくらい長い髪。クセのあるブロンドヘアは、お人形か人魚みたいだった。夕日の光だけの部屋でもわかる青い瞳。この瞳が、何より好きだった。蒼太はゆうの前に座った。
「なあ。悩んでること、あるなら言ってみ? 俺、そうだんのっからさ」
「悩み?」
「たとえば……その……髪の毛のこととかさ。翔かなんかに言われたんだろ、きっと。あいつデリカシー無さすぎだからさ。俺が」
「今日はね。君を待ってたんだ」
蒼太の話を遮って、ゆうは言った。蒼太は思わず聞き返すと、信じられないことを言った。
「僕、さ。ずっと、ずっと前から蒼太のこと、好きで」
そう言うと、ゆうはぷちぷちとパジャマのボタンを外した。……下には何も着てなかった。
蒼太は何が起きているのかわからない。
「お嫁さんに、してくれるんでしょ? いいよ、触って? ……お嫁さんに、して?」
大好きなゆうの、膨らみかけた胸を見て、蒼太は、身震いした。大好きな女の子が、目の前に。
そして、手を伸ばした。とても、美味しそうだった。
……
『いいよ、愛しいきみ。おおかみはきみの虜だ。あとはその拳銃で脳髄を飛ばすんだ』
ゆうは、半裸のまま右手に隠したコルトを、ヨダレを垂らすおおかみの喉に突きつけた。そして、人差し指をトリガーに掛けた、その時。
「……其ノ手ハ 食ワナイゾ……」
びくん、おおかみが固まる。ベルが脳内で叫んだ。
『まずい、オリジンだ!』
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
熾ーおこりー
ようさん
ホラー
【第8回ホラー・ミステリー小説大賞参加予定作品(リライト)】
幕末一の剣客集団、新撰組。
疾風怒濤の時代、徳川幕府への忠誠を頑なに貫き時に鉄の掟の下同志の粛清も辞さない戦闘派治安組織として、倒幕派から庶民にまで恐れられた。
組織の転機となった初代局長・芹澤鴨暗殺事件を、原田左之助の視点で描く。
志と名誉のためなら死をも厭わず、やがて新政府軍との絶望的な戦争に飲み込まれていった彼らを蝕む闇とはーー
※史実をヒントにしたフィクション(心理ホラー)です
【登場人物】(ネタバレを含みます)
原田左之助(二三歳) 伊代松山藩出身で槍の名手。新撰組隊士(試衛館派)
芹澤鴨(三七歳) 新撰組筆頭局長。文武両道の北辰一刀流師範。刀を抜くまでもない戦闘の際には鉄製の軍扇を武器とする。水戸派のリーダー。
沖田総司(二一歳) 江戸出身。新撰組隊士の中では最年少だが剣の腕前は五本の指に入る(試衛館派)
山南敬助(二七歳) 仙台藩出身。土方と共に新撰組副長を務める。温厚な調整役(試衛館派)
土方歳三(二八歳)武州出身。新撰組副長。冷静沈着で自分にも他人にも厳しい。試衛館の弟子筆頭で一本気な男だが、策士の一面も(試衛館派)
近藤勇(二九歳) 新撰組局長。土方とは同郷。江戸に上り天然理心流の名門道場・試衛館を継ぐ。
井上源三郎(三四歳) 新撰組では一番年長の隊士。近藤とは先代の兄弟弟子にあたり、唯一の相談役でもある。
新見錦 芹沢の腹心。頭脳派で水戸派のブレインでもある
平山五郎 芹澤の腹心。直情的な男(水戸派)
平間(水戸派)
野口(水戸派)
(画像・速水御舟「炎舞」部分)
ママが呼んでいる
杏樹まじゅ
ホラー
鐘が鳴る。夜が来る。──ママが彼らを呼んでいる。
京都の大学に通う九条マコト(くじょうまこと)と恋人の新田ヒナ(あらたひな)は或る日、所属するオカルトサークルの仲間と、島根にあるという小さな寒村、真理弥村(まりやむら)に向かう。隠れキリシタンの末裔が暮らすというその村には百年前まで、教会に人身御供を捧げていたという伝承があるのだった。その時、教会の鐘が大きな音を立てて鳴り響く。そして二人は目撃する。彼らを待ち受ける、村の「夜」の姿を──。
終焉の教室
シロタカズキ
ホラー
30人の高校生が突如として閉じ込められた教室。
そこに響く無機質なアナウンス――「生き残りをかけたデスゲームを開始します」。
提示された“課題”をクリアしなければ、容赦なく“退場”となる。
最初の課題は「クラスメイトの中から裏切り者を見つけ出せ」。
しかし、誰もが疑心暗鬼に陥る中、タイムリミットが突如として加速。
そして、一人目の犠牲者が決まった――。
果たして、このデスゲームの真の目的は?
誰が裏切り者で、誰が生き残るのか?
友情と疑念、策略と裏切りが交錯する極限の心理戦が今、幕を開ける。

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
視える棺―この世とあの世の狭間で起こる12の奇譚
中岡 始
ホラー
この短編集に登場するのは、「気づいてしまった者たち」 である。
誰もいないはずの部屋に届く手紙。
鏡の中で先に笑う「もうひとりの自分」。
数え間違えたはずの足音。
夜のバスで揺れる「灰色の手」。
撮ったはずのない「3枚目の写真」。
どの話にも共通するのは、「この世に残るべきでない存在」 の気配。
それは時に、死者の残した痕跡であり、時に、境界を越えてしまった者の行き場のない魂でもある。
だが、"それ"に気づいた者は、もう後戻りができない。
見てはいけないものを見た者は、見られる側に回るのだから。
そして、最終話「最期のページ」。
読み進めることで、読者は気づくことになる。
なぜ、この短編集のタイトルが『視える棺』なのか。
なぜ、彼らは"見えてしまった"のか。
そして、最後のページに書かれていたのは——
「そして、彼が振り返った瞬間——」
その瞬間、あなたは気づくだろう。
この物語の本当の意味に。

りんこにあったちょっと怖い話☆
更科りんこ
ホラー
【おいしいスイーツ☆ときどきホラー】
ゆるゆる日常系ホラー小説☆彡
田舎の女子高生りんこと、友だちのれいちゃんが経験する、怖いような怖くないような、ちょっと怖いお話です。
あま~い日常の中に潜むピリリと怖い物語。
おいしいお茶とお菓子をいただきながら、のんびりとお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる