ベルベッチカ・リリヰの舌の味 おおかみ村と不思議な転校生の真実

杏樹まじゅ

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【陸】

【陸ノ弐】

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 いつもの帽子を目深に被って、いつもの不機嫌そうな目をして、美玲の大好きな青い瞳をして。
 大好きなゆーくんが、そこに立っていた。
「ゆーくん! 学校来ないで……どったの? ……あ! チェーンソー・ヤイバ!」
 心配そうに見る美玲に、紙袋を渡してきたゆーくんはにっこりと笑った。でもどこか、表情が暗い……ように見える?
「入って入って! 感想聞かせてよ!」
 でも、大好きなひとが来てくれてはしゃいだ美玲は、上機嫌に手招きした。
「……わかった……うん……弾は持ってる……大丈夫……」
「……ゆーくん?」
「ああ、ごめん、今行く」
 階段をとんとんと登って、突き当たり正面が美玲の部屋だ。デザイナーのお母さんが作ってくれた「みれいの部屋」というネームプレートがかかっている。白いバラのモチーフがとってもおしゃれなそれは、五歳のときこの家が建ってからずっとこの部屋と美玲を見てきてくれた。
 入って、と美玲は自室のドアを開けた。
 美玲の部屋はチェーンソー・ヤイバグッズとセラプリのグッズで溢れている。壁にはポスターにカレンダー。カレンダーは月が変わる事に破いて、それをポスターにして、壁に貼る。だから壁も天井も、ポスターで埋め尽くされている。お父さんに組み立ててもらったラックにも、ヤイバやミネ、敵の親玉ドクター・デルタのフィギュアがぎっしり。ゆーくんをこの部屋に入れたのは初めてだ。
 さあ、美玲には大博打だ。愛しい男の子に、自分のアイデンティティを認めてもらう為の。そして、ゆーくんは……引いたりしてない……ように見える。
(……よしっ! まずは第一関門突破! まあ、ボクと仲良くなるには、こんなところでつまづいてほしくないもんねー)
 それから……次は、話すのだ。チェーンソー・ヤイバのことを、たくさん。たくさん。……そしてその次は言うのだ。今日こそ言うのだ。……好きです、と。
 ミネだって、ヤイバの戦友で幼なじみのセイバーに、告白していた。美玲だって……

 それから、二時間が経った。気がつくと美玲は、ずーっと、しゃべっていた。その事に気づいたのは、夕方五時の愛のチャイムが聞こえてきたから。
 ゆーくんは、ずっとにこにこしたまま。
(しまった! ボクったら、いつもこうなんだ。大好きなものの話になるといつもこうで……)
「楽しいね」
 あれ。いつもみたいにため息をつかない。
「美玲のチェーンソー・ヤイバのお話」
 本当にいいのだろうか。てっきり大失敗かと思っていたから、ゆーくんの笑顔は予想外だった。
「そ、そかな……えへへ……うん、大好きなんだ」
「僕も好きだったよ。美玲のお話が」
(……? だった? ってなんだろ?)
 ゆーくんはいつもの不機嫌な顔じゃない。とてもにこにこ、笑っている。
(ま、まあ、この際、細かいことは気にしない。今こそ言うんだ。今こそ……)
 ん? 目の前にゆーくんの顔がある。じいっと、美玲を見つめている。
(あれ? 近い、顔、近いよお……これって……これって。キス……ってやつ……?)
「んー」
 美玲は目をつぶった。
(ああ、ボクのファーストキス……まさか、今日なんて……思わなかったよお……でも……ああ、幸せだなあ。……幸せだなあ)

 ぴたり、と何か冷たい棒みたいなのが、おでこに当たった。
「ごめん、美玲」
「なあに?」
 がぅんっ。
 美玲が目を開けるのと、愛しい愛しいゆーくんが拳銃の引き金を引くのは、ほとんど同時だった。
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