1 / 35
【茜坂病院前バス停にて】
しおりを挟む
茜坂病院前バス停にて。
僕は生まれて初めて恋に落ちた……
みーんみんみん。
みーんみんみん。
セミがけたたましく合唱する八王子市の山道。
車もほとんど通らない、峠へ伸びている一車線の道。
その表面はぼろぼろで、しわくちゃおばあちゃんの様なひび割れたアスファルトが覆っている。
割れたその隙間からは沢山の雑草が顔を覗かせて、呟く。
『こんにちは。ようこそ、私達の物語の舞台へ』
そんな日本中の皆に忘れられたような道の途中に、バス停がある。
血に塗れたようなサビだらけで、もう字も読み取り辛い。
だが確かに、「茜坂病院前」と書いてある。
裏手にある坂を登った所にある古い総合病院、「茜坂病院」にアクセスする為のバス停だ。
……
この物語の主人公、倉敷博巳は、そこに入院している。
十四歳。
都内在住の中学二年生だ。
そんな彼には、病院の皆には内緒の秘密がある。
毎日十一時三十分に、そのバス停でバスを待つことだ。
一人で待つのでは無い。
隣には、博巳の想い人がいる。
一つ年上の、逢沢瞳さんだ。
身長は、博巳よりちょっと高い百六十くらい。
清楚な黒髪はロングで背中の真ん中くらいまである。
瞳の色は茶色で澄んでいる。
痩せていて、肌は抜けるように白い。
胸は──残念ながら──ぺったんこで無い。
赤いノースリーブのワンピースを着ている。
頭には、白いリボンの付いた麦わら帽子。
小さな花のチャームが付いた白いお洒落なサンダルを履いている。
その体からはいつもユリのいい匂いがする。
いつもこの時間に、レースの付いた白い日傘を差して、古いアンティークみたいな旅行カバンを持って、バス停で立っている。
彼女が何処へ行きたいのか。
何を待っているのか。
博巳にはわからない。
何故なら、瞳さんはこちらから声を掛けないと博巳に気付かないからだ。
それどころか、毎回、会う度に博巳のことを忘れてしまう。
それでも、瞳さんは毎日この時間になると、バス停に現れる。
博巳は、それを知っていて、一緒に隣に並ぶ。
声をかけなければ気付かれることも無い。
毎日会っているのに覚えていてくれない。
それでもいい。
ずっとずっと、博巳は瞳さんのことが大好きなのだから。
文字通り、ずっと、ずっと。
終わらない入院生活。
毎日続くバス停の日々。
これは、そんな二人の不思議な愛の、物語である……
僕は生まれて初めて恋に落ちた……
みーんみんみん。
みーんみんみん。
セミがけたたましく合唱する八王子市の山道。
車もほとんど通らない、峠へ伸びている一車線の道。
その表面はぼろぼろで、しわくちゃおばあちゃんの様なひび割れたアスファルトが覆っている。
割れたその隙間からは沢山の雑草が顔を覗かせて、呟く。
『こんにちは。ようこそ、私達の物語の舞台へ』
そんな日本中の皆に忘れられたような道の途中に、バス停がある。
血に塗れたようなサビだらけで、もう字も読み取り辛い。
だが確かに、「茜坂病院前」と書いてある。
裏手にある坂を登った所にある古い総合病院、「茜坂病院」にアクセスする為のバス停だ。
……
この物語の主人公、倉敷博巳は、そこに入院している。
十四歳。
都内在住の中学二年生だ。
そんな彼には、病院の皆には内緒の秘密がある。
毎日十一時三十分に、そのバス停でバスを待つことだ。
一人で待つのでは無い。
隣には、博巳の想い人がいる。
一つ年上の、逢沢瞳さんだ。
身長は、博巳よりちょっと高い百六十くらい。
清楚な黒髪はロングで背中の真ん中くらいまである。
瞳の色は茶色で澄んでいる。
痩せていて、肌は抜けるように白い。
胸は──残念ながら──ぺったんこで無い。
赤いノースリーブのワンピースを着ている。
頭には、白いリボンの付いた麦わら帽子。
小さな花のチャームが付いた白いお洒落なサンダルを履いている。
その体からはいつもユリのいい匂いがする。
いつもこの時間に、レースの付いた白い日傘を差して、古いアンティークみたいな旅行カバンを持って、バス停で立っている。
彼女が何処へ行きたいのか。
何を待っているのか。
博巳にはわからない。
何故なら、瞳さんはこちらから声を掛けないと博巳に気付かないからだ。
それどころか、毎回、会う度に博巳のことを忘れてしまう。
それでも、瞳さんは毎日この時間になると、バス停に現れる。
博巳は、それを知っていて、一緒に隣に並ぶ。
声をかけなければ気付かれることも無い。
毎日会っているのに覚えていてくれない。
それでもいい。
ずっとずっと、博巳は瞳さんのことが大好きなのだから。
文字通り、ずっと、ずっと。
終わらない入院生活。
毎日続くバス停の日々。
これは、そんな二人の不思議な愛の、物語である……
10
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。


愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。


蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。

雨のち君
高翔星
恋愛
五月が終わろうとしている梅雨の時期。
これからの将来に対して不安と焦りが募る少年の前に
自称幽霊と名乗る少女が現れた。
雨は嫌いだった。
なのに
雨の日が待ち遠しくなっていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる