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「光希はどうした?」
久しぶりに祖父と会話をした。清は変だ、と思った。
「入院した。また症状が悪化したらしい」
「入院!?あれか、記憶の、なんちゃら言う…大丈夫か?光希は、いつ帰ってくるんだ?」
「期間はわからない。荷物持ってまた行ってく…」
「俺も行く。連れて行け」
祖父はでかける準備を始めた。娘夫婦のしでかしたことに、罪悪感を感じている。果たしてそれだけだろうか。清は祖父の腕を取る。嫌な予感がした。確定させたくないと思っていた。
「じいちゃん。光希に、なんかしたか?」
振り返った祖父は目を見開いて清を見ていた。清の背中を何かが這い上がっていく。祖父は焦っているように見えた。
「なんかって、なんだ…なにを、したと…」
「………悪い、じいちゃん。光希のとこ、連れていけねぇ」
「どうしてだ?心配なんだ、光希が。心配して、何がおかしい。俺も連れていけ!」
叫ぶ祖父を清は睨みつけた。祖父はぐっと押し黙った。
祖父と光希の間に何かがあった。それがなにかはわからないが、良くないことであることは間違いない。それが光希の症状を悪化させた。
何故もっと早く気付けなかったのだろう。
祖父はことあるごとに光希に声をかけていた。清が家にいる時、光希はずっと清の傍にいた。畑に行こうだのお菓子を食べようだのと声をかけてくる祖父に、光希はいつも清を引き連れて行った。
家に来たばかりのころ、光希は声をかけてくる祖父に元気に返事をして駆けていった。光希を気にかけている祖父に、清はありがたいと思っていた。清を無視してないものとして扱う祖父だが、光希には優しかった。
まさかその優しさに、罪悪感以外の物が含まれているなんて思いもしなかった。思いたくなかった。自分には冷たくても、光希には良い祖父であると、信じていたかった。
振り払うように、清はバイクに向かった。
清はバイクを飛ばして病院に急いだ。病院についた清は看護師に荷物を渡す。医師と話がしたいと伝える前に診察室に案内された。中には光希の主治医がいた。
「すみません。少し、光希さんのことでお話が…」
「爺さんが、光希に手ぇだしてかもしんないです。そのせいで、悪化したかもしれない」
医師はゴクリと唾を飲んだ。青くなる医師が不思議だったが、清は今自分がどんな顔をしているのだろうかと他人事のように考えた。清は顔が整っていると褒められることが多いが、黙っていると怖いと言われる。体格の良さも相まって威圧的に見えるらしい。
清よりも遥かに小さく優しそうな医師から見たら今の清は怖いかもしれない。清は床に視線を落として息を吐いた。俯いて、医師の握られた両手が視界に入った。医師の拳は震えていた。
「み、光希さんは…診察で、興奮状態になってしまいました。もしかしたら、また、虐待を…その、性的な、暴力を、あの…受けているのではないかと。眠っている間、診察を、させていただきました」
清は思わず顔を上げた。医師はびくんと両肩を震わせる。
「あっ、あの、形跡は、なかったです。その、後ろの、使われた、形跡は…」
睨みつけたつもりはなかったが、後ろを使うという表現に不快感があらわになってしまった。医師は悪くない。しかし今、清の気は荒れ切っている。
光希と祖父の家に暮らすようになって、光希と清は同じ寝室で寝起きしていたが、そういうことはしていない。戯れに口づけをしたり体を触り合うことはあったが、深く繋がることはしなかった。祖父が別室にいる環境で、お互いに自制していた。
「す、すみません、勝手に、その、診察を、あの、見て、しまって…私は、男性が、好きなのですが、あの、大丈夫です。私は、その、そちらに興奮する方じゃ、ありませんので」
医師は最後、早口で捲し立てた。清は驚いた。この医師はどさくさに紛れて何を告白しているのだろうか。
久しぶりに祖父と会話をした。清は変だ、と思った。
「入院した。また症状が悪化したらしい」
「入院!?あれか、記憶の、なんちゃら言う…大丈夫か?光希は、いつ帰ってくるんだ?」
「期間はわからない。荷物持ってまた行ってく…」
「俺も行く。連れて行け」
祖父はでかける準備を始めた。娘夫婦のしでかしたことに、罪悪感を感じている。果たしてそれだけだろうか。清は祖父の腕を取る。嫌な予感がした。確定させたくないと思っていた。
「じいちゃん。光希に、なんかしたか?」
振り返った祖父は目を見開いて清を見ていた。清の背中を何かが這い上がっていく。祖父は焦っているように見えた。
「なんかって、なんだ…なにを、したと…」
「………悪い、じいちゃん。光希のとこ、連れていけねぇ」
「どうしてだ?心配なんだ、光希が。心配して、何がおかしい。俺も連れていけ!」
叫ぶ祖父を清は睨みつけた。祖父はぐっと押し黙った。
祖父と光希の間に何かがあった。それがなにかはわからないが、良くないことであることは間違いない。それが光希の症状を悪化させた。
何故もっと早く気付けなかったのだろう。
祖父はことあるごとに光希に声をかけていた。清が家にいる時、光希はずっと清の傍にいた。畑に行こうだのお菓子を食べようだのと声をかけてくる祖父に、光希はいつも清を引き連れて行った。
家に来たばかりのころ、光希は声をかけてくる祖父に元気に返事をして駆けていった。光希を気にかけている祖父に、清はありがたいと思っていた。清を無視してないものとして扱う祖父だが、光希には優しかった。
まさかその優しさに、罪悪感以外の物が含まれているなんて思いもしなかった。思いたくなかった。自分には冷たくても、光希には良い祖父であると、信じていたかった。
振り払うように、清はバイクに向かった。
清はバイクを飛ばして病院に急いだ。病院についた清は看護師に荷物を渡す。医師と話がしたいと伝える前に診察室に案内された。中には光希の主治医がいた。
「すみません。少し、光希さんのことでお話が…」
「爺さんが、光希に手ぇだしてかもしんないです。そのせいで、悪化したかもしれない」
医師はゴクリと唾を飲んだ。青くなる医師が不思議だったが、清は今自分がどんな顔をしているのだろうかと他人事のように考えた。清は顔が整っていると褒められることが多いが、黙っていると怖いと言われる。体格の良さも相まって威圧的に見えるらしい。
清よりも遥かに小さく優しそうな医師から見たら今の清は怖いかもしれない。清は床に視線を落として息を吐いた。俯いて、医師の握られた両手が視界に入った。医師の拳は震えていた。
「み、光希さんは…診察で、興奮状態になってしまいました。もしかしたら、また、虐待を…その、性的な、暴力を、あの…受けているのではないかと。眠っている間、診察を、させていただきました」
清は思わず顔を上げた。医師はびくんと両肩を震わせる。
「あっ、あの、形跡は、なかったです。その、後ろの、使われた、形跡は…」
睨みつけたつもりはなかったが、後ろを使うという表現に不快感があらわになってしまった。医師は悪くない。しかし今、清の気は荒れ切っている。
光希と祖父の家に暮らすようになって、光希と清は同じ寝室で寝起きしていたが、そういうことはしていない。戯れに口づけをしたり体を触り合うことはあったが、深く繋がることはしなかった。祖父が別室にいる環境で、お互いに自制していた。
「す、すみません、勝手に、その、診察を、あの、見て、しまって…私は、男性が、好きなのですが、あの、大丈夫です。私は、その、そちらに興奮する方じゃ、ありませんので」
医師は最後、早口で捲し立てた。清は驚いた。この医師はどさくさに紛れて何を告白しているのだろうか。
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