救済(BL、本編完結)

Oj

文字の大きさ
上 下
20 / 44

20

しおりを挟む
清は母の字を久しぶりに見た。自分の字が特別上手いとは思わないが、両親共に癖字というのか、特徴がある。息子の名前を適当に書く母親が嫌だった。いつも以上にのたうつ文字に、死の間際の恐怖が現れているのだろうか。やはり、両親のことを考えると感情がかき乱される。悲しむべきか、悔やむべきか、喜んでいいのか、わからない。清が権田を見ると、眉間に皺を寄せてひどく真剣な顔をしていた。
「間違い、ないですね」
「?…はい。間違い、ないっす」
「もう少し、遺書を、お借りします。必ず、お返ししますので」
なにかおかしなことを言っただろうか。権田の雰囲気が少し硬いものになった。硬い、というか、高揚しているというのか。権田は立ち上がった。
「気になることは、遠慮なくおっしゃって下さい。慌ただしくて、申し訳ない。毛布は必ず、お兄さんにお渡しします」
「お願いします」
権田と高輪は一礼して去っていった。入れ替わりにやってきた警察官に促され、清もまた、立ち上がった。





権田は扉をノックして部屋に入る。ベッドに座っていた少年は怯えた顔でこちらを見た。
「だ、だれ…ですか?」
「今回の事件を担当している刑事で」
「おかあさん、お、おとうさんも、どこ?どうして、ぼく、ここにいるの?ぼく、ようちえん、いかなきゃ、」
「…光希さん。貴方は今、何歳ですか?お名前、教えていただけますか。私は刑事です。警察手帳です」
「………ご、ご、さい…品川、光希、です」
権田は警察手帳を光希に広げて見せる。まじまじと手帳を眺めて、光希は手のひらを広げて権田に向けた。記憶が混濁してしまうという彼は今、5歳児になってしまっているようだ。『品川』は彼の旧姓で、今は清と同じ『鈴木』だ。
権田の隣には医師がいる。医師はきちんとした証言を引き出すのは難しいだろうと言っていた。権田はゆっくりと光希に近寄る。光希はベッドの端に寄って権田と距離を取った。あたりを見渡して震えている。
権田は話を聞くために昨日も会っている。5歳の彼の記憶の中に権田はいないようだ。
椅子に腰掛けた権田は持っていた毛布を差し出した。
「これを渡してほしいと、弟さんから頼まれました。見覚えはありますか?」
「ニャンニャン!僕の、ニャンニャンだ!弟…清が、くれたの?清、いるの?」
「清さんは今、別のところにいます。清さんを覚えていますか?」
「うん。清は、僕の弟。高校生で、バイクに乗れるの。僕、知らなかった」
「私に見覚えは、ないですか?」
「おじさん………おじさんは、ごんたん。刑事さん」
「ごんだです」
権田は昨日の光希を思い出した。権田の警察手帳をまじまじと見て首を傾げていた。
『ごんた?』
『ごんだです。刑事です』
光希は警察手帳を見ながら『ごんだ、ごんた、ごんたん』と呟いていた。まるで幼い子供のように邪気の無い少年だった。見た目も、年より遥かに幼く見える。こんな少年がなぜ自ら通報し、自首という言葉を使ったのか。一体何が起きたのか。
昨日、話を聞いて権田は言葉が出なかった。この少年が犯した罪も強要されていたことも、嘘であってほしいと思ってしまった。それが嘘が真実かを捜査で明らかにしていくのが権田の仕事だ。いつもフラットな視点で物事を見ることを心掛けている。しかし、幼い子供のような光希に、ダイベンシャと名乗る田町に対して怒りが湧いた。
権田は改めて光希に声をかける。
「昨日少しお話をしましたが、今日も話をさせてほしいんです。どうでしょうか」
「おはなし…?」
「光希さんと弟さんのお話には違いがあります。もう一度、お話を聞かせてほしいんです」
光希はさっと権田から目を逸らした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

旦那様と僕

三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。 縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。 本編完結済。 『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜

紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。 ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。 そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?

ザ・兄貴っ!

BL
俺の兄貴は自分のことを平凡だと思ってやがる。…が、俺は言い切れる!兄貴は… 平凡という皮を被った非凡であることを!! 実際、ぎゃぎゃあ五月蝿く喚く転校生に付き纏われてる兄貴は端から見れば、脇役になるのだろう…… が、実は違う。 顔も性格も容姿も運動能力も平凡並だと思い込んでいる兄貴… けど、その正体は――‥。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

処理中です...