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「当然です。いきなり、たくさんの話をして…申し訳なかった。最初に伝えるべきでした」
刑事は頭を下げた。両親が死んだのは刑事のせいではない。この刑事は始めから何かを言い淀んでいた。きっと両親のことをどう伝えるか、タイミングを計っていたのではないかと思う。
「私には、君が、とても誠実な人間に見える。きっとご両親が君を、誠実に育てたんだろう」
清は首を横に振る。
「俺のこと、殴って蹴って、クソみたいな親でした。子供ん時、貧乏で、生きてくのがしんどかった。一応、捨てないでいてもらいましたけど…ご存知だと思いますけど、親父は昔、詐欺で捕まってます。詳しくは知らねぇけど、母親もたぶん、碌なことしてきてない」
話す声が震えた。あんな親でも一応ここまで捨てずに育ててくれた。いっそ捨てられたほうがマシだったかもしれない。ああはなりたくないと思って育ってきた。クソみたいな親だった。何度も死んでくれと思った。実際、死んでしまった。清は机に肘をついて頭を抱えた。
「…すんません。5分、下さい。話、聞かせて下さい。親の、話…俺も、ちゃんと、聞きたい。話したい」
「…わかった。辛い思いをさせて、本当に…すまない」
ぎしり、と権田の椅子が音を立てて動く気配がしたた。たぶん清に頭を下げている。親の死の話を、いつするべきかタイミングを計っていたようなこの刑事を信用できると清は思った。今まで周りに、こんな大人はいなかった。聴取をする刑事がこの人で良かったと、清は思う。光希のためにも正直に、きちんと事件に関わる話をしておきたい。清はぐっと顔を上げた。
「すんません。もう、大丈夫です。続き、お願いします」
刑事は清の目を数秒じっと見て、力強く頷いた。
「………わかりました。こちらこそ、お願いします」
清も頷き返す。権田は2、3回喉を鳴らして唸ったあと、口を開く。
「君の、ご両親は、お仕事はされてなかったということですね」
「俺も、高校入ってからはあんまり家にいなかったんで確実じゃないですけど…中学の、光希が来る少し前から、両親とも家にいました。飯はコンビニか冷凍のモン温めるだけだったのは昔から変わらなくて、生活にあんまり変化はなかったです。だから、また仕事辞めたのかってくらいにしか、考えてなかった…アイツら、光希の親の金に、手ぇつけて…」
「そこはまだ、捜査段階です。金の流れはこれから掴めると思います。ご両親は光希さんを保護することで手当を別にもらっていたのかもしれない…ただ、保険金がダイベンシャに流れていたのは間違いない。そしてその金は組への上納金、収益の一つだった。お兄さんのお父さん以外にも、保険金の流れのおかしい亡くなった信者がいる。そちらも組に、金が流れているらしい。あの宗教団体は、背後にそういう組織がいた。その上、その金をダイベンシャは自分で使い込んでいた。組に回さずに、自分で。組の方とも揉めていたようです。あの村もあの宗教も、自分が作りあげたのだ、と。ダイベンシャと、背後ある組に関しては警察に任せていただきたい。ただ今後、貴方とお兄さんの身を守るためにも、この事実を知っていてもらったほうが良いと判断して、話をさせてもらっています」
清はゴクリと唾を飲んだ。今後のことを、考えていなかった。光希の代わりに罪を償うことしか考えていなかった。この先自分達はどうなるのか。刑務所や病院から出られても、報復されるのではないか。
清は思わず俯いた。両親の死と、宗教のこととその背後にある組のこと。一気に情報が頭に入って、処理しきれなくなってきている。黙り込んだ清に、権田が口を開いた。
刑事は頭を下げた。両親が死んだのは刑事のせいではない。この刑事は始めから何かを言い淀んでいた。きっと両親のことをどう伝えるか、タイミングを計っていたのではないかと思う。
「私には、君が、とても誠実な人間に見える。きっとご両親が君を、誠実に育てたんだろう」
清は首を横に振る。
「俺のこと、殴って蹴って、クソみたいな親でした。子供ん時、貧乏で、生きてくのがしんどかった。一応、捨てないでいてもらいましたけど…ご存知だと思いますけど、親父は昔、詐欺で捕まってます。詳しくは知らねぇけど、母親もたぶん、碌なことしてきてない」
話す声が震えた。あんな親でも一応ここまで捨てずに育ててくれた。いっそ捨てられたほうがマシだったかもしれない。ああはなりたくないと思って育ってきた。クソみたいな親だった。何度も死んでくれと思った。実際、死んでしまった。清は机に肘をついて頭を抱えた。
「…すんません。5分、下さい。話、聞かせて下さい。親の、話…俺も、ちゃんと、聞きたい。話したい」
「…わかった。辛い思いをさせて、本当に…すまない」
ぎしり、と権田の椅子が音を立てて動く気配がしたた。たぶん清に頭を下げている。親の死の話を、いつするべきかタイミングを計っていたようなこの刑事を信用できると清は思った。今まで周りに、こんな大人はいなかった。聴取をする刑事がこの人で良かったと、清は思う。光希のためにも正直に、きちんと事件に関わる話をしておきたい。清はぐっと顔を上げた。
「すんません。もう、大丈夫です。続き、お願いします」
刑事は清の目を数秒じっと見て、力強く頷いた。
「………わかりました。こちらこそ、お願いします」
清も頷き返す。権田は2、3回喉を鳴らして唸ったあと、口を開く。
「君の、ご両親は、お仕事はされてなかったということですね」
「俺も、高校入ってからはあんまり家にいなかったんで確実じゃないですけど…中学の、光希が来る少し前から、両親とも家にいました。飯はコンビニか冷凍のモン温めるだけだったのは昔から変わらなくて、生活にあんまり変化はなかったです。だから、また仕事辞めたのかってくらいにしか、考えてなかった…アイツら、光希の親の金に、手ぇつけて…」
「そこはまだ、捜査段階です。金の流れはこれから掴めると思います。ご両親は光希さんを保護することで手当を別にもらっていたのかもしれない…ただ、保険金がダイベンシャに流れていたのは間違いない。そしてその金は組への上納金、収益の一つだった。お兄さんのお父さん以外にも、保険金の流れのおかしい亡くなった信者がいる。そちらも組に、金が流れているらしい。あの宗教団体は、背後にそういう組織がいた。その上、その金をダイベンシャは自分で使い込んでいた。組に回さずに、自分で。組の方とも揉めていたようです。あの村もあの宗教も、自分が作りあげたのだ、と。ダイベンシャと、背後ある組に関しては警察に任せていただきたい。ただ今後、貴方とお兄さんの身を守るためにも、この事実を知っていてもらったほうが良いと判断して、話をさせてもらっています」
清はゴクリと唾を飲んだ。今後のことを、考えていなかった。光希の代わりに罪を償うことしか考えていなかった。この先自分達はどうなるのか。刑務所や病院から出られても、報復されるのではないか。
清は思わず俯いた。両親の死と、宗教のこととその背後にある組のこと。一気に情報が頭に入って、処理しきれなくなってきている。黙り込んだ清に、権田が口を開いた。
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