救済(BL、本編完結)

Oj

文字の大きさ
上 下
18 / 44

18

しおりを挟む
「当然です。いきなり、たくさんの話をして…申し訳なかった。最初に伝えるべきでした」
刑事は頭を下げた。両親が死んだのは刑事のせいではない。この刑事は始めから何かを言い淀んでいた。きっと両親のことをどう伝えるか、タイミングを計っていたのではないかと思う。
「私には、君が、とても誠実な人間に見える。きっとご両親が君を、誠実に育てたんだろう」
清は首を横に振る。
「俺のこと、殴って蹴って、クソみたいな親でした。子供ん時、貧乏で、生きてくのがしんどかった。一応、捨てないでいてもらいましたけど…ご存知だと思いますけど、親父は昔、詐欺で捕まってます。詳しくは知らねぇけど、母親もたぶん、碌なことしてきてない」
話す声が震えた。あんな親でも一応ここまで捨てずに育ててくれた。いっそ捨てられたほうがマシだったかもしれない。ああはなりたくないと思って育ってきた。クソみたいな親だった。何度も死んでくれと思った。実際、死んでしまった。清は机に肘をついて頭を抱えた。
「…すんません。5分、下さい。話、聞かせて下さい。親の、話…俺も、ちゃんと、聞きたい。話したい」
「…わかった。辛い思いをさせて、本当に…すまない」
ぎしり、と権田の椅子が音を立てて動く気配がしたた。たぶん清に頭を下げている。親の死の話を、いつするべきかタイミングを計っていたようなこの刑事を信用できると清は思った。今まで周りに、こんな大人はいなかった。聴取をする刑事がこの人で良かったと、清は思う。光希のためにも正直に、きちんと事件に関わる話をしておきたい。清はぐっと顔を上げた。
「すんません。もう、大丈夫です。続き、お願いします」
刑事は清の目を数秒じっと見て、力強く頷いた。
「………わかりました。こちらこそ、お願いします」
清も頷き返す。権田は2、3回喉を鳴らして唸ったあと、口を開く。
「君の、ご両親は、お仕事はされてなかったということですね」
「俺も、高校入ってからはあんまり家にいなかったんで確実じゃないですけど…中学の、光希が来る少し前から、両親とも家にいました。飯はコンビニか冷凍のモン温めるだけだったのは昔から変わらなくて、生活にあんまり変化はなかったです。だから、また仕事辞めたのかってくらいにしか、考えてなかった…アイツら、光希の親の金に、手ぇつけて…」
「そこはまだ、捜査段階です。金の流れはこれから掴めると思います。ご両親は光希さんを保護することで手当を別にもらっていたのかもしれない…ただ、保険金がダイベンシャに流れていたのは間違いない。そしてその金は組への上納金、収益の一つだった。お兄さんのお父さん以外にも、保険金の流れのおかしい亡くなった信者がいる。そちらも組に、金が流れているらしい。あの宗教団体は、背後にそういう組織がいた。その上、その金をダイベンシャは自分で使い込んでいた。組に回さずに、自分で。組の方とも揉めていたようです。あの村もあの宗教も、自分が作りあげたのだ、と。ダイベンシャと、背後ある組に関しては警察に任せていただきたい。ただ今後、貴方とお兄さんの身を守るためにも、この事実を知っていてもらったほうが良いと判断して、話をさせてもらっています」
清はゴクリと唾を飲んだ。今後のことを、考えていなかった。光希の代わりに罪を償うことしか考えていなかった。この先自分達はどうなるのか。刑務所や病院から出られても、報復されるのではないか。
清は思わず俯いた。両親の死と、宗教のこととその背後にある組のこと。一気に情報が頭に入って、処理しきれなくなってきている。黙り込んだ清に、権田が口を開いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕の部下がかわいくて仕方ない

まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

目標、それは

mahiro
BL
画面には、大好きな彼が今日も輝いている。それだけで幸せな気分になれるものだ。 今日も今日とて彼が歌っている曲を聴きながら大学に向かえば、友人から彼のライブがあるから一緒に行かないかと誘われ……?

No.1

destiney
BL
人物 受け 有間 啓 22歳 大学生 トラウマ持ち 美人 攻め 砂多 黎良 20歳 大学生 スパダリ 包容力

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

処理中です...