救済(BL、本編完結)

Oj

文字の大きさ
上 下
12 / 44

12

しおりを挟む
どっちも俺がやりましたって言ってる、と、高輪は言った。光希は『清がダイベンシャを殺し、犯されていた』と思いこんでいた。そのはずだ。なぜ光希が、自分の犯行だと警察に伝えたのか。
もしかしたら、光希は清を庇おうとしているのかもしれない。
「鈴木清さん。我々は事件の捜査をしています。真実を明らかにするためです。嘘があっては真実にたどり着けない。その嘘が罪になる場合もある。嘘は貴方だけでなく、お兄さんを追い詰めることにもなってしまいます」
間髪入れずに権田の抑揚のない声が清の脳を揺さぶった。
どう取り繕うべきか。
光希のために何をどう話すべきか。
散々考えた。罪を全て自分が被るために、全部自分がやったのだと貫くつもりだった。もしかしたらそれが、光希に余計な罪を与えてしまうことになるかもしれない。
「我々もね、ある程度調べ上げてます。既にね、色々と。辻褄が合わない、おかしいと思うところが、出てきてるんですよ。正直に、話して下さい」
高輪が権田の後ろで頭を下げた。
清は目線を上げて権田を見た。
「…もう一度、お話を伺います。よろしいでしょうか」
「はい」
清は覚悟を決めて頷いた。権田が口を開く前に、清は座ったまま頭を下げた。ゴツッと机に額をぶつけた音が、清の頭の中に響いた。
「喋ります。全部、正直に。ただ、光希の話は、頷いてやって下さい。否定しないでやって下さい。お願いします」
「………わかりました」
権田は逡巡していたが、承諾してくれた。顔を上げた清は戸惑いの表情を浮かべる権田と目が合ったが、すぐに権田の顔からは表情が無くなった。意味がわからないだろうと思う。ただ清は、警察に対して光希が壊れてしまわないように扱ってほしかった。光希の話の齟齬を否定して本来の記憶を取り戻したら、光希は壊れてしまうかもしれない。確信はないが清は、なんとなくそんな気がしていた。
清は始めからもう一度話をした。ダイベンシャに虐待をされていて、ダイベンシャを殴ったのは光希だと伝えた。それ以外は変わらない。埋めて隠そうと提案したのも実際死体を埋めたのも清で、逃げようと提案して実行したのも清だ。
部屋に入る直前に物音がして、ダイベンシャが血を流して倒れていた。光希は手に像を抱えていた。その像は、血の付いたシーツに包んでダイベンシャと一緒に埋めた。光希を守ろうと嘘をついたことを、清はもう一度謝罪した。
「ダイベンシャに虐待をされていたのはお兄さんの光希さんで、間違いないですね?」
「やられたのはたぶん、あの日だけじゃないと思います。なんであの日殴ったのか、わかんねぇっすけど…あいつ…光希は、なんて言ったんですか。光希は今、どうしてますか」
権田はじっと清を見ていた。強い瞳を負けじと清も見つめ返す。光希は警察に何をどう話したのか。光希の中で、どう話が変わってしまったのか。
権田は頷いて、口を開く。
「光希さんは、全て自分の犯行だと言っていました。ダイベンシャと呼ばれる男を殴ったことも、埋めたのも、逃げようと提案したことも。それから、あの男から今まで何をされてきたのかも、話してくれています」
清は眉をしかめた。光希はいつものように記憶を作り替えていた。そのはずだ。
「あいつ、俺がヤられて、殺したと思ってる。そのはずなんです。時々、あいつ、記憶がおかしくなるんです。嘘のつもりは、多分、なくて」
「はい。そのことについても、ご本人から伺っています」
清は驚いて固まってしまった。光希が記憶を作り替えているのは、無意識の行動だと思っていた。自覚なく、結果的に嘘をついてしまっているのだと思っていた。意識的な行動だったのだろうか。
清が戸惑っていると、権田は目線を落としてテーブルを見ていた。何かを思い出すような権田に、清は黙って言葉を待った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕の部下がかわいくて仕方ない

まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

目標、それは

mahiro
BL
画面には、大好きな彼が今日も輝いている。それだけで幸せな気分になれるものだ。 今日も今日とて彼が歌っている曲を聴きながら大学に向かえば、友人から彼のライブがあるから一緒に行かないかと誘われ……?

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

処理中です...