隣人 (BL、完結)

Oj

文字の大きさ
上 下
21 / 29
番外編

煙草の話 1

しおりを挟む
「タバコを吸ってみたくて買ってみた」
「唐突。どうした、急に」
郁美はキリヤの自宅について早々、カバンから煙草を取り出した。100均で買ったライターと灰皿もセットでテーブルに置く。
「この前の映画の、格好いいなーって思って。ここで吸ってもいい?」
「いいけど。吸い方わかる?そんで今時紙タバコって。しかもマ◯ボロって。最高」
「火をつけて、すーって、吸う。それ以外あるの?」
「あー、うん。ないね。…待った。貸して、つけてあげるから。顔面炙りそうで怖いわ」
郁美は煙草のパッケージを開けて一本取り出して左手の人差し指と中指の間に挟む。右手でライターを握るが、火がつかない。どうつけるのか手元を覗き込んだらキリヤに奪われてしまった。
キリヤは煙草を咥えてライターに火をつける。軽く吸いながら炙るとジリジリと音を立てて煙草に火がついた。腔内に馴染み深い味が広がる。含んだ煙を空気とともに肺に送り込むと少しだけ視界が歪んだ。煙を吐き出して、キリヤは軽く灰を落として郁美に手渡す。
「あ~、久々。はい、どうぞ」
「うぇえ…なんで一回口に入れたの?超イヤなんだけど…」
「そうしないと火がつかな…待って、めっちゃ嫌そう。傷つくんだけど。あれね、ジュース飲む感じ?で、すーって。口離して息すっちゃ駄」
「…うっげぇほっうぇっがふっふげっ!がふっ!ふげっ!!」
「今、なんて………」
喉が焼けるような感覚に、郁美は口から煙を吐きながら咳き込んだ。煙から逃れたいのに口から出てくるせいで逃げられない。目にも滲みて、涙が出てきた。
キリヤは咳き込む郁美から煙草を取り上げて灰皿に置く。キリヤは肩を震わせた。郁美が咳き込んでいる姿は可哀想だが、笑いが堪えられない。一体何の鳴き声だったのだろうか。バレたら怒られそうなので声だけは必死に殺す。
「へふっ、えふっ…く、くるひぃ、目が、痛…痛ぃ…」
「んっ…最初はね、っ…仕方ないよ、むず…かしい、よね。んふっ」
「笑ってんじゃねーよ…けふっ!わかってるからな、さっきから、笑ってんの」
「ふはっ…だって、…ふげっ、つって…ばふっ。ごめんて、無理だわ、もう」
キリヤは郁美の背中を擦りながら腹を抱えて笑った。人が苦しんでいるのに笑うなんて、なんて嫌な男なのか。郁美は涙を拭ってキリヤを睨む。
「むかつく…もうそれ、あげる」
「苦し…ありがと。腹痛ぇ~」
郁美が火の付いた煙草を指さした。口を尖らせて、拗ねてしまったようだ。しかし、妙な鳴き声を上げて咽る郁美は可愛くておかしくてツボに入ってしまった。軽く吸えばいいものを、思いっきり吸い込んでむせたらしい。加減知らずで実に可愛い。
キリヤは笑いすぎて出てきた涙を拭って立ち上がり、キッチンの換気扇をつけてリビングの窓を少しだけ開けた。郁美の元に戻り、キリヤは煙草の灰を落として指に挟んで吸い上げる。郁美の方に煙が行かないように注意しながら吐き出した。
「キリヤって、煙草吸ってたの?いつ?」
「うん。二十歳になってすぐやめちゃったけどね。やっぱ紙巻きのタバコ、いいなぁ…どうせ吸うならタールとニコチンを肺にぶち込みたいよね」
「意味、わかんない…いつから吸ってたの?」
「そら二十歳よ」
「ん…ん~?やめたの二十歳になってすぐで、吸ったのも二十歳?…嘘じゃね?」
「二十歳です。法を守る男だから、俺は」
キリヤは煙を吐きながらキリッとした顔で答える。郁美は全く納得できなかった。これだけ手慣れた吸い方で二十歳になってからの喫煙は絶対に嘘だ。しかし嘘を突き通そうとするキリヤは認めないだろう。郁美は首を傾げつつ別のことを聞いてみる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

2人でいつまでも その2

むちむちボディ
BL
前作「2人でいつまでも」からの続きです。

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

処理中です...