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番外編
煙草の話 1
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「タバコを吸ってみたくて買ってみた」
「唐突。どうした、急に」
郁美はキリヤの自宅について早々、カバンから煙草を取り出した。100均で買ったライターと灰皿もセットでテーブルに置く。
「この前の映画の、格好いいなーって思って。ここで吸ってもいい?」
「いいけど。吸い方わかる?そんで今時紙タバコって。しかもマ◯ボロって。最高」
「火をつけて、すーって、吸う。それ以外あるの?」
「あー、うん。ないね。…待った。貸して、つけてあげるから。顔面炙りそうで怖いわ」
郁美は煙草のパッケージを開けて一本取り出して左手の人差し指と中指の間に挟む。右手でライターを握るが、火がつかない。どうつけるのか手元を覗き込んだらキリヤに奪われてしまった。
キリヤは煙草を咥えてライターに火をつける。軽く吸いながら炙るとジリジリと音を立てて煙草に火がついた。腔内に馴染み深い味が広がる。含んだ煙を空気とともに肺に送り込むと少しだけ視界が歪んだ。煙を吐き出して、キリヤは軽く灰を落として郁美に手渡す。
「あ~、久々。はい、どうぞ」
「うぇえ…なんで一回口に入れたの?超イヤなんだけど…」
「そうしないと火がつかな…待って、めっちゃ嫌そう。傷つくんだけど。あれね、ジュース飲む感じ?で、すーって。口離して息すっちゃ駄」
「…うっげぇほっうぇっがふっふげっ!がふっ!ふげっ!!」
「今、なんて………」
喉が焼けるような感覚に、郁美は口から煙を吐きながら咳き込んだ。煙から逃れたいのに口から出てくるせいで逃げられない。目にも滲みて、涙が出てきた。
キリヤは咳き込む郁美から煙草を取り上げて灰皿に置く。キリヤは肩を震わせた。郁美が咳き込んでいる姿は可哀想だが、笑いが堪えられない。一体何の鳴き声だったのだろうか。バレたら怒られそうなので声だけは必死に殺す。
「へふっ、えふっ…く、くるひぃ、目が、痛…痛ぃ…」
「んっ…最初はね、っ…仕方ないよ、むず…かしい、よね。んふっ」
「笑ってんじゃねーよ…けふっ!わかってるからな、さっきから、笑ってんの」
「ふはっ…だって、…ふげっ、つって…ばふっ。ごめんて、無理だわ、もう」
キリヤは郁美の背中を擦りながら腹を抱えて笑った。人が苦しんでいるのに笑うなんて、なんて嫌な男なのか。郁美は涙を拭ってキリヤを睨む。
「むかつく…もうそれ、あげる」
「苦し…ありがと。腹痛ぇ~」
郁美が火の付いた煙草を指さした。口を尖らせて、拗ねてしまったようだ。しかし、妙な鳴き声を上げて咽る郁美は可愛くておかしくてツボに入ってしまった。軽く吸えばいいものを、思いっきり吸い込んでむせたらしい。加減知らずで実に可愛い。
キリヤは笑いすぎて出てきた涙を拭って立ち上がり、キッチンの換気扇をつけてリビングの窓を少しだけ開けた。郁美の元に戻り、キリヤは煙草の灰を落として指に挟んで吸い上げる。郁美の方に煙が行かないように注意しながら吐き出した。
「キリヤって、煙草吸ってたの?いつ?」
「うん。二十歳になってすぐやめちゃったけどね。やっぱ紙巻きのタバコ、いいなぁ…どうせ吸うならタールとニコチンを肺にぶち込みたいよね」
「意味、わかんない…いつから吸ってたの?」
「そら二十歳よ」
「ん…ん~?やめたの二十歳になってすぐで、吸ったのも二十歳?…嘘じゃね?」
「二十歳です。法を守る男だから、俺は」
キリヤは煙を吐きながらキリッとした顔で答える。郁美は全く納得できなかった。これだけ手慣れた吸い方で二十歳になってからの喫煙は絶対に嘘だ。しかし嘘を突き通そうとするキリヤは認めないだろう。郁美は首を傾げつつ別のことを聞いてみる。
「唐突。どうした、急に」
郁美はキリヤの自宅について早々、カバンから煙草を取り出した。100均で買ったライターと灰皿もセットでテーブルに置く。
「この前の映画の、格好いいなーって思って。ここで吸ってもいい?」
「いいけど。吸い方わかる?そんで今時紙タバコって。しかもマ◯ボロって。最高」
「火をつけて、すーって、吸う。それ以外あるの?」
「あー、うん。ないね。…待った。貸して、つけてあげるから。顔面炙りそうで怖いわ」
郁美は煙草のパッケージを開けて一本取り出して左手の人差し指と中指の間に挟む。右手でライターを握るが、火がつかない。どうつけるのか手元を覗き込んだらキリヤに奪われてしまった。
キリヤは煙草を咥えてライターに火をつける。軽く吸いながら炙るとジリジリと音を立てて煙草に火がついた。腔内に馴染み深い味が広がる。含んだ煙を空気とともに肺に送り込むと少しだけ視界が歪んだ。煙を吐き出して、キリヤは軽く灰を落として郁美に手渡す。
「あ~、久々。はい、どうぞ」
「うぇえ…なんで一回口に入れたの?超イヤなんだけど…」
「そうしないと火がつかな…待って、めっちゃ嫌そう。傷つくんだけど。あれね、ジュース飲む感じ?で、すーって。口離して息すっちゃ駄」
「…うっげぇほっうぇっがふっふげっ!がふっ!ふげっ!!」
「今、なんて………」
喉が焼けるような感覚に、郁美は口から煙を吐きながら咳き込んだ。煙から逃れたいのに口から出てくるせいで逃げられない。目にも滲みて、涙が出てきた。
キリヤは咳き込む郁美から煙草を取り上げて灰皿に置く。キリヤは肩を震わせた。郁美が咳き込んでいる姿は可哀想だが、笑いが堪えられない。一体何の鳴き声だったのだろうか。バレたら怒られそうなので声だけは必死に殺す。
「へふっ、えふっ…く、くるひぃ、目が、痛…痛ぃ…」
「んっ…最初はね、っ…仕方ないよ、むず…かしい、よね。んふっ」
「笑ってんじゃねーよ…けふっ!わかってるからな、さっきから、笑ってんの」
「ふはっ…だって、…ふげっ、つって…ばふっ。ごめんて、無理だわ、もう」
キリヤは郁美の背中を擦りながら腹を抱えて笑った。人が苦しんでいるのに笑うなんて、なんて嫌な男なのか。郁美は涙を拭ってキリヤを睨む。
「むかつく…もうそれ、あげる」
「苦し…ありがと。腹痛ぇ~」
郁美が火の付いた煙草を指さした。口を尖らせて、拗ねてしまったようだ。しかし、妙な鳴き声を上げて咽る郁美は可愛くておかしくてツボに入ってしまった。軽く吸えばいいものを、思いっきり吸い込んでむせたらしい。加減知らずで実に可愛い。
キリヤは笑いすぎて出てきた涙を拭って立ち上がり、キッチンの換気扇をつけてリビングの窓を少しだけ開けた。郁美の元に戻り、キリヤは煙草の灰を落として指に挟んで吸い上げる。郁美の方に煙が行かないように注意しながら吐き出した。
「キリヤって、煙草吸ってたの?いつ?」
「うん。二十歳になってすぐやめちゃったけどね。やっぱ紙巻きのタバコ、いいなぁ…どうせ吸うならタールとニコチンを肺にぶち込みたいよね」
「意味、わかんない…いつから吸ってたの?」
「そら二十歳よ」
「ん…ん~?やめたの二十歳になってすぐで、吸ったのも二十歳?…嘘じゃね?」
「二十歳です。法を守る男だから、俺は」
キリヤは煙を吐きながらキリッとした顔で答える。郁美は全く納得できなかった。これだけ手慣れた吸い方で二十歳になってからの喫煙は絶対に嘘だ。しかし嘘を突き通そうとするキリヤは認めないだろう。郁美は首を傾げつつ別のことを聞いてみる。
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