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番外編
免許を取りたい 2
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とはいえ、やはり免許取得を諦めさせたいキリヤは郁美の大学にお迎えにきていた。いつものベンチに郁美と舞が座っている。相変わらず、二人の間にはお菓子が広がっている。
「キリヤさん、こんにちわぁ」
「お疲れ~舞ちゃん、これこないだの」
今日は舞に手土産を持参していた。ハロウィンの時の約束の品だ。舞は目を見開いている。
「ちょ、本当ですか?嘘、」
「あの節は大変お世話になりました」
「えええぇ、本当に、本当ですか?ちょっと、中覗いていいですか?」
「どうぞどうぞ」
紙袋を渡すと、舞は隙間から中を確認して悲鳴をあげた。
「すごい!限定のやつ!!嘘、本当にもらっていいんですか!?」
「飽きたら売っちゃってね」
「絶対売りません!ずっと、憧れてたんです。どうしよいっくん、どうしよう!嬉しいぃ~ありがとうございます!」
舞は郁美の手を取って興奮している。郁美は舞の喜びように引いていた。
宝物です、と喜ぶ舞は大事そうに紙袋を抱きしめた。舞はあからさまなブランド品を持っていない。甘めの落ち着いた服装も靴も鞄も、たぶんブランド品ではない。一見何人かパパを抱えていそうだが、舞は見た目と違って真面目なのだろう。
「いえいえ。そういえば舞ちゃん、郁美から免許の話聞いた?」
舞はきょとんとして郁美に向き直る。どうやら聞いていないらしい。郁美はちょっと照れながら答えた。
「俺ね、免許とろうと思ってて」
「は?やめなよ。いっくんどんくさいじゃん。運転なんか無理だよ」
舞はばっさり切って捨てた。郁美は一気に不機嫌顔になる。
「ちょ、ひどくない?なんでそんなこと言うの?」
「ひどくないし。危ないのなんて普段見てればわかるじゃん。絶対いっくんの助手席乗りたくないし。そもそも試験合格しないよ。諦めな」
「でも」
「でもじゃないの。万が一免許取れても絶対路上出ないでね。誰か怪我させるよ。わかった?」
郁美が目を瞑って耳を塞いでそっぽを向いた。これ以上聞く気はないらしい。口を尖らせてちょっと涙目で、大変可愛らしい。
「こんな感じです?」
舞がキリヤを見上げて尋てきた。あれだけで的確に察してくれる舞に、キリヤは笑顔を向ける。
「ズバズバ言ってくれるから助かるわぁ」
「ちゃんと、駄目なものは駄目って言ったほうがいいですよ?」
「嫌われたくないし」
「もぅ。甘やかしすぎですぅ」
「俺の言うこと聞かないし」
「舐められてるじゃないですか」
「なに?なんか喋ってる?」
郁美が気づいてやっとこちらを向いた。これだけ言われれば郁美も免許を諦めるだろう。そろそろ帰って郁美をたくさん慰めてあげよう。そう思ったが、舞がスマホを操作し始めた。
「いいこと考えちゃったぁ~いっくん、美幸さんにも聞いてみよ?」
差し出したスマホの画面に美幸さんの文字が浮いていて、呼び出し音が聞こえる。郁美が切ろうとする前に、電話が繋がった。
『もしもし。どうしたの?』
「あ、美幸さん?いっくんから話があるそうです~」
スピーカーから美幸の声が流れてきた。郁美の顔から青ざめていく。
「ちょっと!美幸ちゃん、なんでもないから、」
「いっくんが免許取りたいそうで~す」
郁美が舞からスマホを奪おうとするが、それよりも早く舞が美幸に伝えてしまった。
『まぁ!だめよ郁美。免許なんて絶対に駄目。あなたがそんなことできると思えないわ』
郁美はびくっと体を揺らして姿勢を正す。まるで目の前に美幸がいるかのようだ。なんでお前の許可がいるんだとキリヤは苛立つ。
『運転なんて、させるものであって自分でするものじゃないの。わかる?』
なんと高慢な回答なのか。キリヤは舌を打ちたくなったが、なんとかこらえた。郁美はなぜかベンチに正座している。それを舞がニヤニヤ笑って眺めていた。
『郁美、聞いているの?絶対に駄目よ。わかった?』
「…はぃ」
「あざーっす美幸さん。いっくん、ちゃんと理解したみたいですぅ。また後で~」
舞が電話を切った。ベンチに膝で立ち、腕を組んで見下ろす舞と、泣きそうになって正座をしている郁美。ここまでやれとは言っていないが、舞は期待以上の働きを見せてくれた。郁美を今すぐにでも抱きしてあげたい。
「ずるい。美幸ちゃん出すなんて」
「これから美幸さんに会うから、いっくんがちゃんと免許諦めたって言っとくね。キリヤさん、お先に失礼します。本当にありがとうございましたぁ。いっくん、あんまりキリヤさんに迷惑かけちゃ駄目だよ?」
舞は郁美の肩をポンポン、と叩く。
「お菓子、ごちそうさまぁ」
舞は去っていった。郁美はしょんぼり項垂れている。
「免許、やめる。美幸ちゃんと、約束しちゃったし」
郁美の震える声が聞こえた。まさか泣いてるのかと思ったが涙目で耐えていた。写真を撮ったらぶちのめされるだろうか。
何はともあれ免許は諦めてくれたようだ。キリヤはほっと胸を撫で下ろす。
「帰ろっか。帰ってマ○カーやろ?」
「やんない」
せめてもの妥協案を提示してみたが、即答で断られてしまった。
END
「キリヤさん、こんにちわぁ」
「お疲れ~舞ちゃん、これこないだの」
今日は舞に手土産を持参していた。ハロウィンの時の約束の品だ。舞は目を見開いている。
「ちょ、本当ですか?嘘、」
「あの節は大変お世話になりました」
「えええぇ、本当に、本当ですか?ちょっと、中覗いていいですか?」
「どうぞどうぞ」
紙袋を渡すと、舞は隙間から中を確認して悲鳴をあげた。
「すごい!限定のやつ!!嘘、本当にもらっていいんですか!?」
「飽きたら売っちゃってね」
「絶対売りません!ずっと、憧れてたんです。どうしよいっくん、どうしよう!嬉しいぃ~ありがとうございます!」
舞は郁美の手を取って興奮している。郁美は舞の喜びように引いていた。
宝物です、と喜ぶ舞は大事そうに紙袋を抱きしめた。舞はあからさまなブランド品を持っていない。甘めの落ち着いた服装も靴も鞄も、たぶんブランド品ではない。一見何人かパパを抱えていそうだが、舞は見た目と違って真面目なのだろう。
「いえいえ。そういえば舞ちゃん、郁美から免許の話聞いた?」
舞はきょとんとして郁美に向き直る。どうやら聞いていないらしい。郁美はちょっと照れながら答えた。
「俺ね、免許とろうと思ってて」
「は?やめなよ。いっくんどんくさいじゃん。運転なんか無理だよ」
舞はばっさり切って捨てた。郁美は一気に不機嫌顔になる。
「ちょ、ひどくない?なんでそんなこと言うの?」
「ひどくないし。危ないのなんて普段見てればわかるじゃん。絶対いっくんの助手席乗りたくないし。そもそも試験合格しないよ。諦めな」
「でも」
「でもじゃないの。万が一免許取れても絶対路上出ないでね。誰か怪我させるよ。わかった?」
郁美が目を瞑って耳を塞いでそっぽを向いた。これ以上聞く気はないらしい。口を尖らせてちょっと涙目で、大変可愛らしい。
「こんな感じです?」
舞がキリヤを見上げて尋てきた。あれだけで的確に察してくれる舞に、キリヤは笑顔を向ける。
「ズバズバ言ってくれるから助かるわぁ」
「ちゃんと、駄目なものは駄目って言ったほうがいいですよ?」
「嫌われたくないし」
「もぅ。甘やかしすぎですぅ」
「俺の言うこと聞かないし」
「舐められてるじゃないですか」
「なに?なんか喋ってる?」
郁美が気づいてやっとこちらを向いた。これだけ言われれば郁美も免許を諦めるだろう。そろそろ帰って郁美をたくさん慰めてあげよう。そう思ったが、舞がスマホを操作し始めた。
「いいこと考えちゃったぁ~いっくん、美幸さんにも聞いてみよ?」
差し出したスマホの画面に美幸さんの文字が浮いていて、呼び出し音が聞こえる。郁美が切ろうとする前に、電話が繋がった。
『もしもし。どうしたの?』
「あ、美幸さん?いっくんから話があるそうです~」
スピーカーから美幸の声が流れてきた。郁美の顔から青ざめていく。
「ちょっと!美幸ちゃん、なんでもないから、」
「いっくんが免許取りたいそうで~す」
郁美が舞からスマホを奪おうとするが、それよりも早く舞が美幸に伝えてしまった。
『まぁ!だめよ郁美。免許なんて絶対に駄目。あなたがそんなことできると思えないわ』
郁美はびくっと体を揺らして姿勢を正す。まるで目の前に美幸がいるかのようだ。なんでお前の許可がいるんだとキリヤは苛立つ。
『運転なんて、させるものであって自分でするものじゃないの。わかる?』
なんと高慢な回答なのか。キリヤは舌を打ちたくなったが、なんとかこらえた。郁美はなぜかベンチに正座している。それを舞がニヤニヤ笑って眺めていた。
『郁美、聞いているの?絶対に駄目よ。わかった?』
「…はぃ」
「あざーっす美幸さん。いっくん、ちゃんと理解したみたいですぅ。また後で~」
舞が電話を切った。ベンチに膝で立ち、腕を組んで見下ろす舞と、泣きそうになって正座をしている郁美。ここまでやれとは言っていないが、舞は期待以上の働きを見せてくれた。郁美を今すぐにでも抱きしてあげたい。
「ずるい。美幸ちゃん出すなんて」
「これから美幸さんに会うから、いっくんがちゃんと免許諦めたって言っとくね。キリヤさん、お先に失礼します。本当にありがとうございましたぁ。いっくん、あんまりキリヤさんに迷惑かけちゃ駄目だよ?」
舞は郁美の肩をポンポン、と叩く。
「お菓子、ごちそうさまぁ」
舞は去っていった。郁美はしょんぼり項垂れている。
「免許、やめる。美幸ちゃんと、約束しちゃったし」
郁美の震える声が聞こえた。まさか泣いてるのかと思ったが涙目で耐えていた。写真を撮ったらぶちのめされるだろうか。
何はともあれ免許は諦めてくれたようだ。キリヤはほっと胸を撫で下ろす。
「帰ろっか。帰ってマ○カーやろ?」
「やんない」
せめてもの妥協案を提示してみたが、即答で断られてしまった。
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