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番外編
ハッピーハロウィン 完
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舞が両手を郁美に向けてヒラヒラさせている。舞は学生の制服のようなワンピースをきていた。舞が似ていると言われているアイドルの服にそっくりだ。はたして郁美の格好と、合わせになっているのだろうか。
「キリヤさん、いっくんたらクソビッチなギャル服なんですよ~どう思います?この下品っぷり。私は清純なワンピースでまとめてみました~似合いますぅ?」
舞の衣装はコートの下に着込んでいたものだ。仮装といえばそうだが、ちょっと頑張ったおしゃれ服だ。舞は郁美を引き立て役にして、自分の仮装をキリヤに見せたかったようだ。
「まいやん最悪。どこが合わさってんの、これ」
「ビッチと清純で真逆の合わせ~可愛いじゃん、ギャルいくちゃみ」
「ギャル、いく…なんて?…もう着替えるから」
「だめだよぉいくちゃみ~、みんなに見てもらお?」
「やだよ、離し…キリヤ?」
郁美はさっさと着替えて帰ろうと思ったが、手を引かれて立ち止まった。舞かと思ったら、引き止めたのはキリヤだった。郁美の腕を握ったままキリヤは動かない。そういえばさっきから一言も喋っていない。
「なんか固まってない?生きてる?」
「キリヤさんどうしたんですか?」
さすがに舞も不安になったのかキリヤを覗き込む。舞が顔をしかめた。
「あれ、これもしかして。いっくんがぶっ刺さってます?」
キリヤが突然郁美の両肩を掴んだ。
「ヒィッ!」
いきなり動いたキリヤに、郁美は悲鳴を上げる。
「やばい。刺さりすぎて吠えるとこだったわ」
「キリヤさん、いっくんギャルですよ?雑仮装だし。…まさか」
「AVはギャル物選ぶくらいギャル好き。やばい。めちゃくちゃ可愛い」
「そっちかー!正解はギャルだったか!」
舞が頭を抱えてのけぞった。いくら好きな相手でも、好みのAVジャンルなど知りたくなかっただろう。
「でも、すっぴんですよ?ギャルメイクしてないですよ?」
「全っ然いい。郁美の肩出しニットワンピくっそ可愛い。ギャルの肩出しがちなとこ再現度高くて最高」
力説されて、郁美は初めてこれがワンピースで、肩を出すものなのだと知った。だから肩がだるだるなのかーと、どうでもいい知識が増えた。
「舞ちゃん、このまま郁美連れて帰るね」
「えっ?待っ…タダじゃだめです!今度車に乗せてほしいです!」
舞はキリヤに交換条件を出した。こんな変態に、舞はまだ食い下がっている。ギャルAVの男なのに、なぜこんなにモテるのか。その前に人を交換条件に使わないでもらいたい、と郁美は思った。
「✕✕✕のバッグとどっちがいい?」
「っ!ひどい、そんなの………バッグ選ぶに決まってるじゃないですかぁっ!って、いいんですか!?」
「買うたる買うたる。いい仕事してくれたわ、まじで。今度郁美に持たせるから。またね」
舞とキリヤの攻防はあっさり決着した。キリヤは郁美を横抱きに抱えて歩き出す。
「ちょっ、お姫様抱っこ!いっくんズル…」
「財布もつけとくね」
「お疲れ様でした!キリヤさんが喜んでくれて、本望ですぅ。いっくん、また月曜日ね~」
舞は大きく手を振っていた。郁美はなんだか知らないバッグと財布で売られてしまった。舞の姿が小さくなっていく。このまま外に出たら、誰かに見られてしまう。
「ちょ、着替え…待ってよキリヤ、止まって」
「やだ無理」
こんな姿が見られたら、妖精ちゃん改めギャルちゃんなどと呼ばれかねない。それだけは断固阻止したい郁美は必死に抵抗した。
「見られたくなかったら顔隠してしがみついとけば?」
キリヤは足を止めない。郁美は慌ててキリヤの胸に顔を押し付けた。カツラも使って隙間なく顔を晒さないよう隠す。こんな姿がバレたら、恥ずかしすぎてもう大学に来れない。郁美は息を止めて存在を消した。
しばらくして電子音が聞こえた。聞き慣れた、キリヤの車の解錠音だ。やっとここまできた。助手席に押し込まれて、郁美は全身の力を抜いた。シートベルトも締められて、郁美はされるがまま脱力して放心していた。すぐに車が走り出す。
しばらくして、外の景色が見慣れない場所だと気づく。どこか確認する前に、車は駐車場に入っていった。ホテルだった。
「待って。なんでホテル?」
「家まで我慢できないもん」
郁美はまた抱えられてしまった。抵抗しても降ろしてもらえず、受付を通って部屋に向かってしまう。文句を言いたかったがベッドに投げ出されて口を閉ざした。キリヤの目が、普段以上にギラついている。郁美は怖気づいて後ずさった。カツラをむしり取る。
「ま、待って、ほら、ギャルじゃないから、落ち着いて、良く見て」
「見まくってるけど」
あっという間に距離を詰められてしまった。その上パンツごと下半身の衣服を剥ぎ取られて、なんとも心もとない格好にさせらてしまった。
今郁美の身を守るものは肩出しニットワンピしかない。
「えっろ」
「やだ、今日なんか、…怖い、」
ベッドボードまで追い詰められて、郁美は本当に怖くなった。身を守ろうと、なるべく小さく丸くなって体を隠す。
キリヤは一瞬止まって、大きなため息を吐き出した。
「その格好でその中身でついてるとか。俺の性癖ズタボロだわぁ」
「し、知らんし。女装ギャルAV見てる時点でもう大分壊れてるわ。ほんと、あっち行って」
「女装?」
キリヤが首を傾げる。郁美も首を傾げて聞き返す。
「だって、男が好きなんでしょ?」
「男は郁美が初めてだけど?」
「えっ?」
「え?」
郁美は思い違いをしていたらしい。キリヤの恋愛対象は男性だと思っていた。しかし本当は違ったようだ。
「じゃあ、ほんとは、女の人が好きなの?でも、男同士のやり方手慣れてたのは」
「後ろは女の子にもあるし、前は自分についてるから。でも付き合う前の話ね?今は郁美一筋だから」
キリヤは今まで女性と色々な経験をしてきたらしい。過去のことをどうこう言う気はないが、あまりにも暮らしてきた世界が違いすぎる。しかし、ならばなぜ自分とこんなことをしているのか。
「まいやんに、男好きって嘘ついちゃった」
「男『が』好きね。男っつーか郁美が好きなんだけど。それは訂正しといてまじで」
郁美の頭にカツラが被せられた。眼の前の金色の糸が分けられていく。
「金髪可愛い~でもさ、彼氏に黙ってこんな格好しちゃ駄目じゃない?」
「だから、まいやんが着ろって」
「着る前に俺を呼ぶとかできたでしょ。ということで、お仕置きタイムで~す」
なんだか不穏な空気が流れ始めた。と思ったら時はすでに遅かった。
その日郁美は地獄を見た。
後日、舞と郁美が大学にて。
「キリヤね、男じゃなくて俺が好きなんだって」
「は?ノロケかよ」
「違う違う、訂正しといてって言われたから」
「そーゆーのいらないんだけど」
「…」
ハッピーハロウィン
END
「キリヤさん、いっくんたらクソビッチなギャル服なんですよ~どう思います?この下品っぷり。私は清純なワンピースでまとめてみました~似合いますぅ?」
舞の衣装はコートの下に着込んでいたものだ。仮装といえばそうだが、ちょっと頑張ったおしゃれ服だ。舞は郁美を引き立て役にして、自分の仮装をキリヤに見せたかったようだ。
「まいやん最悪。どこが合わさってんの、これ」
「ビッチと清純で真逆の合わせ~可愛いじゃん、ギャルいくちゃみ」
「ギャル、いく…なんて?…もう着替えるから」
「だめだよぉいくちゃみ~、みんなに見てもらお?」
「やだよ、離し…キリヤ?」
郁美はさっさと着替えて帰ろうと思ったが、手を引かれて立ち止まった。舞かと思ったら、引き止めたのはキリヤだった。郁美の腕を握ったままキリヤは動かない。そういえばさっきから一言も喋っていない。
「なんか固まってない?生きてる?」
「キリヤさんどうしたんですか?」
さすがに舞も不安になったのかキリヤを覗き込む。舞が顔をしかめた。
「あれ、これもしかして。いっくんがぶっ刺さってます?」
キリヤが突然郁美の両肩を掴んだ。
「ヒィッ!」
いきなり動いたキリヤに、郁美は悲鳴を上げる。
「やばい。刺さりすぎて吠えるとこだったわ」
「キリヤさん、いっくんギャルですよ?雑仮装だし。…まさか」
「AVはギャル物選ぶくらいギャル好き。やばい。めちゃくちゃ可愛い」
「そっちかー!正解はギャルだったか!」
舞が頭を抱えてのけぞった。いくら好きな相手でも、好みのAVジャンルなど知りたくなかっただろう。
「でも、すっぴんですよ?ギャルメイクしてないですよ?」
「全っ然いい。郁美の肩出しニットワンピくっそ可愛い。ギャルの肩出しがちなとこ再現度高くて最高」
力説されて、郁美は初めてこれがワンピースで、肩を出すものなのだと知った。だから肩がだるだるなのかーと、どうでもいい知識が増えた。
「舞ちゃん、このまま郁美連れて帰るね」
「えっ?待っ…タダじゃだめです!今度車に乗せてほしいです!」
舞はキリヤに交換条件を出した。こんな変態に、舞はまだ食い下がっている。ギャルAVの男なのに、なぜこんなにモテるのか。その前に人を交換条件に使わないでもらいたい、と郁美は思った。
「✕✕✕のバッグとどっちがいい?」
「っ!ひどい、そんなの………バッグ選ぶに決まってるじゃないですかぁっ!って、いいんですか!?」
「買うたる買うたる。いい仕事してくれたわ、まじで。今度郁美に持たせるから。またね」
舞とキリヤの攻防はあっさり決着した。キリヤは郁美を横抱きに抱えて歩き出す。
「ちょっ、お姫様抱っこ!いっくんズル…」
「財布もつけとくね」
「お疲れ様でした!キリヤさんが喜んでくれて、本望ですぅ。いっくん、また月曜日ね~」
舞は大きく手を振っていた。郁美はなんだか知らないバッグと財布で売られてしまった。舞の姿が小さくなっていく。このまま外に出たら、誰かに見られてしまう。
「ちょ、着替え…待ってよキリヤ、止まって」
「やだ無理」
こんな姿が見られたら、妖精ちゃん改めギャルちゃんなどと呼ばれかねない。それだけは断固阻止したい郁美は必死に抵抗した。
「見られたくなかったら顔隠してしがみついとけば?」
キリヤは足を止めない。郁美は慌ててキリヤの胸に顔を押し付けた。カツラも使って隙間なく顔を晒さないよう隠す。こんな姿がバレたら、恥ずかしすぎてもう大学に来れない。郁美は息を止めて存在を消した。
しばらくして電子音が聞こえた。聞き慣れた、キリヤの車の解錠音だ。やっとここまできた。助手席に押し込まれて、郁美は全身の力を抜いた。シートベルトも締められて、郁美はされるがまま脱力して放心していた。すぐに車が走り出す。
しばらくして、外の景色が見慣れない場所だと気づく。どこか確認する前に、車は駐車場に入っていった。ホテルだった。
「待って。なんでホテル?」
「家まで我慢できないもん」
郁美はまた抱えられてしまった。抵抗しても降ろしてもらえず、受付を通って部屋に向かってしまう。文句を言いたかったがベッドに投げ出されて口を閉ざした。キリヤの目が、普段以上にギラついている。郁美は怖気づいて後ずさった。カツラをむしり取る。
「ま、待って、ほら、ギャルじゃないから、落ち着いて、良く見て」
「見まくってるけど」
あっという間に距離を詰められてしまった。その上パンツごと下半身の衣服を剥ぎ取られて、なんとも心もとない格好にさせらてしまった。
今郁美の身を守るものは肩出しニットワンピしかない。
「えっろ」
「やだ、今日なんか、…怖い、」
ベッドボードまで追い詰められて、郁美は本当に怖くなった。身を守ろうと、なるべく小さく丸くなって体を隠す。
キリヤは一瞬止まって、大きなため息を吐き出した。
「その格好でその中身でついてるとか。俺の性癖ズタボロだわぁ」
「し、知らんし。女装ギャルAV見てる時点でもう大分壊れてるわ。ほんと、あっち行って」
「女装?」
キリヤが首を傾げる。郁美も首を傾げて聞き返す。
「だって、男が好きなんでしょ?」
「男は郁美が初めてだけど?」
「えっ?」
「え?」
郁美は思い違いをしていたらしい。キリヤの恋愛対象は男性だと思っていた。しかし本当は違ったようだ。
「じゃあ、ほんとは、女の人が好きなの?でも、男同士のやり方手慣れてたのは」
「後ろは女の子にもあるし、前は自分についてるから。でも付き合う前の話ね?今は郁美一筋だから」
キリヤは今まで女性と色々な経験をしてきたらしい。過去のことをどうこう言う気はないが、あまりにも暮らしてきた世界が違いすぎる。しかし、ならばなぜ自分とこんなことをしているのか。
「まいやんに、男好きって嘘ついちゃった」
「男『が』好きね。男っつーか郁美が好きなんだけど。それは訂正しといてまじで」
郁美の頭にカツラが被せられた。眼の前の金色の糸が分けられていく。
「金髪可愛い~でもさ、彼氏に黙ってこんな格好しちゃ駄目じゃない?」
「だから、まいやんが着ろって」
「着る前に俺を呼ぶとかできたでしょ。ということで、お仕置きタイムで~す」
なんだか不穏な空気が流れ始めた。と思ったら時はすでに遅かった。
その日郁美は地獄を見た。
後日、舞と郁美が大学にて。
「キリヤね、男じゃなくて俺が好きなんだって」
「は?ノロケかよ」
「違う違う、訂正しといてって言われたから」
「そーゆーのいらないんだけど」
「…」
ハッピーハロウィン
END
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