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短編・番外編
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「あのね、これ」
(…………男?)
「男」
「うん。あのね、これね、僕、漫画、全部買っちゃってね、あの、アプリに、入ってる、だけどね、面白くてね、あんまり漫画、見たことなかったけど、あの、は、はまっちゃって。あのね、あの、超能力とか使って、た、戦うんだよ、格好いいの」
佳奈多に見せられた画面に表示されていたのは戦いのポーズを取っていると思われる男性のフィギュアだった。心の中で呟いた疑問は口から出ていた。佳奈多は興奮気味に懸命に、このキャラクターについて教えてくれた。超能力を使って戦う彼が攻撃を放っている瞬間らしい。だからキャラクターの周りがキラキラ輝いているそうだ。
可愛い巨乳や小さな少女を想像していたが違った。良かった。だがこれはこれで解せない。
「はふ…職場でね、女の子に、フィギュアとか、き、キモイって、言われちゃって…言うの、迷ってた。ひろくんも、フィギュアとか、嫌かな、って」
「ん?いや、そんなことは………うーん」
佳奈多に対して、なんて酷いことをいう女なのか。一体それは誰なのか。
しかし大翔も、このフィギュアを買うのはちょっと嫌だった。女性のキャラクターならまだしも、なぜ男のキャラクターなのか。いや、女性のキャラクターも嫌だ。しかし男性のキャラクターはもっと嫌だ。佳奈多はさっきこのキャラクターが格好いいと言っていた。男性のキャラクターに、だ。二次元だとかそういうことじゃない。佳奈多が大翔以外の男を、格好いいと言っている。由々しき事態だ。大翔は思わず唸ってしまった。
佳奈多の眉が、少ししょんぼりと下がってしまう。
「や、やっぱり、いや?」
「違うよ、そうじゃないんだけど、ひどいこと言う女の子だなって思って。どんな子?幾つ?なんて名前?」
「新しく入った、後輩の、女の子。じゅ、18、かな?名前、は……名前、言わないよ。秘密」
大翔はなんとか話を逸らしてその女性に話題を移す。佳奈多は一つ一つ思い出しながら教えてくれたが、途中でぷるぷると首を横に振って、後輩の名前は教えてくれなかった。大翔が何かすると思ったのかもしれない。新しく入った女性なんていくらでも調べられるのだが、そこは置いておいて、大翔は佳奈多を見た。一体どうしてそんなことを言われる状況になったのだろうか。
佳奈多は眉を下げたまま、困ったように笑う。
「すごく、懐いてくれて、仕事も、頑張ってくれて、たんだけど…あ、今もね、頑張って、くれてる、だけどね、ぼ、僕が、男の人と、暮らしてるって…女の人、苦手って、言ったら、ちょっと、不機嫌に、なっちゃって」
「うん」
「それでね、鬼嶋先輩と、ひ、フィギュア出たねって、話、してたら、き、キモイって、言われちゃって」
ふにゃっと笑うものの、佳奈多の笑顔はいつもの愛くるしいだけの笑顔ではなかった。きっと好きなものを否定されて傷ついたのだろう。佳奈多の悲しみが、大翔にも伝わってきた。
佳奈多を傷つけた小娘に腹が立つ。しかしそれ以上に、そんな話を聞いてしまっては、フィギュアを買わないでほしいなんて言えなくなってしまったことに大翔は苦悩した。
大翔の眉間に皺が寄る。佳奈多は慌てて大翔を見上げてきた。
「あ、でもね、鬼嶋先輩ね、キモイとか言うなって、お、怒ってくれてね。松本は、フィギュアをキモイ、なんて、言わないって、言ってくれて」
大翔は眉間の皺を、気合を入れて引き伸ばした。仏のごとし無表情で何度も佳奈多に頷いた。
キモイなんて思わない。佳奈多の好きなものを否定なんてもちろんしない。ショックは受けるけれども。
ただ、そのフィギュアは買ってほしくない。心が小さかろうが狭かろうがなんだっていい。大翔は嫉妬している。2次元だろうが、フィギュアだろうが、大翔以外の、別の男を格好いいと思ってほしくない。
その後輩の女性はきっと佳奈多に好意を抱いていたのだろう。それと鬼嶋もフォローしてくれたのだろう。増々購入を拒否できなくなってきた。どうしたら良いものか。
大翔は表情を崩さないように、佳奈多に問う。さっき、気になることを言っていた。
「かなちゃん。女の人、苦手なの?」
女性が苦手だなんて初耳だ。いったいいつから苦手だったのだろうか、気になった。それだけではない。少しでも話を反らしたい、少しでいいから結論を引き伸ばしたいという願望も多少ある。
佳奈多はくっと首を傾げてから、小さく頷いた。佳奈多は俯いてしまう。
(…………男?)
「男」
「うん。あのね、これね、僕、漫画、全部買っちゃってね、あの、アプリに、入ってる、だけどね、面白くてね、あんまり漫画、見たことなかったけど、あの、は、はまっちゃって。あのね、あの、超能力とか使って、た、戦うんだよ、格好いいの」
佳奈多に見せられた画面に表示されていたのは戦いのポーズを取っていると思われる男性のフィギュアだった。心の中で呟いた疑問は口から出ていた。佳奈多は興奮気味に懸命に、このキャラクターについて教えてくれた。超能力を使って戦う彼が攻撃を放っている瞬間らしい。だからキャラクターの周りがキラキラ輝いているそうだ。
可愛い巨乳や小さな少女を想像していたが違った。良かった。だがこれはこれで解せない。
「はふ…職場でね、女の子に、フィギュアとか、き、キモイって、言われちゃって…言うの、迷ってた。ひろくんも、フィギュアとか、嫌かな、って」
「ん?いや、そんなことは………うーん」
佳奈多に対して、なんて酷いことをいう女なのか。一体それは誰なのか。
しかし大翔も、このフィギュアを買うのはちょっと嫌だった。女性のキャラクターならまだしも、なぜ男のキャラクターなのか。いや、女性のキャラクターも嫌だ。しかし男性のキャラクターはもっと嫌だ。佳奈多はさっきこのキャラクターが格好いいと言っていた。男性のキャラクターに、だ。二次元だとかそういうことじゃない。佳奈多が大翔以外の男を、格好いいと言っている。由々しき事態だ。大翔は思わず唸ってしまった。
佳奈多の眉が、少ししょんぼりと下がってしまう。
「や、やっぱり、いや?」
「違うよ、そうじゃないんだけど、ひどいこと言う女の子だなって思って。どんな子?幾つ?なんて名前?」
「新しく入った、後輩の、女の子。じゅ、18、かな?名前、は……名前、言わないよ。秘密」
大翔はなんとか話を逸らしてその女性に話題を移す。佳奈多は一つ一つ思い出しながら教えてくれたが、途中でぷるぷると首を横に振って、後輩の名前は教えてくれなかった。大翔が何かすると思ったのかもしれない。新しく入った女性なんていくらでも調べられるのだが、そこは置いておいて、大翔は佳奈多を見た。一体どうしてそんなことを言われる状況になったのだろうか。
佳奈多は眉を下げたまま、困ったように笑う。
「すごく、懐いてくれて、仕事も、頑張ってくれて、たんだけど…あ、今もね、頑張って、くれてる、だけどね、ぼ、僕が、男の人と、暮らしてるって…女の人、苦手って、言ったら、ちょっと、不機嫌に、なっちゃって」
「うん」
「それでね、鬼嶋先輩と、ひ、フィギュア出たねって、話、してたら、き、キモイって、言われちゃって」
ふにゃっと笑うものの、佳奈多の笑顔はいつもの愛くるしいだけの笑顔ではなかった。きっと好きなものを否定されて傷ついたのだろう。佳奈多の悲しみが、大翔にも伝わってきた。
佳奈多を傷つけた小娘に腹が立つ。しかしそれ以上に、そんな話を聞いてしまっては、フィギュアを買わないでほしいなんて言えなくなってしまったことに大翔は苦悩した。
大翔の眉間に皺が寄る。佳奈多は慌てて大翔を見上げてきた。
「あ、でもね、鬼嶋先輩ね、キモイとか言うなって、お、怒ってくれてね。松本は、フィギュアをキモイ、なんて、言わないって、言ってくれて」
大翔は眉間の皺を、気合を入れて引き伸ばした。仏のごとし無表情で何度も佳奈多に頷いた。
キモイなんて思わない。佳奈多の好きなものを否定なんてもちろんしない。ショックは受けるけれども。
ただ、そのフィギュアは買ってほしくない。心が小さかろうが狭かろうがなんだっていい。大翔は嫉妬している。2次元だろうが、フィギュアだろうが、大翔以外の、別の男を格好いいと思ってほしくない。
その後輩の女性はきっと佳奈多に好意を抱いていたのだろう。それと鬼嶋もフォローしてくれたのだろう。増々購入を拒否できなくなってきた。どうしたら良いものか。
大翔は表情を崩さないように、佳奈多に問う。さっき、気になることを言っていた。
「かなちゃん。女の人、苦手なの?」
女性が苦手だなんて初耳だ。いったいいつから苦手だったのだろうか、気になった。それだけではない。少しでも話を反らしたい、少しでいいから結論を引き伸ばしたいという願望も多少ある。
佳奈多はくっと首を傾げてから、小さく頷いた。佳奈多は俯いてしまう。
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