黒い春 本編完結 (BL)

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短編・番外編

フィギュアの話 1

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二人暮らしを始めて数週間。甘くて幸せしかない日々の中、大翔は佳奈多に相談を持ちかけられた。
「あ、あのね…お、ぉ、お話、したいことが、あって…」
「うん」
ソファに並んで腰掛けていたが、佳奈多は大翔の方を向いてソファの上で正座になった。大翔も体を佳奈多に向ける。
佳奈多は正座をした膝の上に握った両手を置いて、何度も視線を大翔に合わせたり外したりしている。俯いた時はもくもくと口を動かしていて、大翔は佳奈多の言葉をじっと待った。佳奈多がもくもくと口を動かす時は、何か言いづらいことを言いたい時だ。どんな話だろうかと思いつつ、頬を染めて、時々太ももをすり合わせる仕草に、いやらしい話かと大翔はちょっと期待してしまう。
「僕、あ、あの、ふぃ、ふぃっ、ひぎ、あ、を、あの、う、うぅっ」
「大丈夫だよ、ゆっくりでいいよ」
大翔は握りしめて震えている佳奈多の両手を包む。佳奈多は何度も頷いた。
佳奈多はきちんと自分の中で整理をしてから話をしてくれる。言いづらいことは特に、ゆっくり時間をかけて何度も言葉を訂正しながら伝えてくれる。
佳奈多の言葉を待つこの時間、実は時々とても緊張する。あまり良い話ではない時があるからだ。佳奈多の雰囲気から悪い話ではないような気がするが、今日は果たしてどちらだろうか。いやらしい話だろうか。きっといやらしい話だ。
佳奈多がちらりと大翔を見上げた。
「ぅ、う…僕、ほ、欲しい、ものが、あっ、て」
「うん」
「か、買いた、くて、あの………ひ、ふぃ…フィギュア、なんだ、けど」
「…うん?いいよ…?」
佳奈多はぱっと顔を輝かせた。大きな瞳がより大きく開いて、涙が数粒零れた。そんなに大きく見開いて、目玉がこぼれてしまわないだろうか。大翔は佳奈多の涙を拭った。佳奈多は照れながら嬉しそうに笑う。緊張のあまり涙が出てしまったようだ。
一瞬、フィギュアとはスケートのことだろうかと考えて大翔は即座に考えを否定した。人形のことだろう。相談を持ちかけてくるということは、高額だったり希少だったり、何かしら手に入れ辛い理由があるのだろう。佳奈多が欲しいものならどんな手を使っても手に入れるし、購入する。佳奈多喜んでくれるならどんなことでもする。
しかし大翔はちょっと落ち込んでしまった。エッチな話じゃなかった。頬を染める佳奈多に、高校生の頃はしなかったような行為に興味を持って実践したくなってしまったのではないかと期待したが、そうではなかった。
エッチな話じゃなかったことももちろんだが、興味を持ったのがフィギュアだというのも気持ちが重くなった原因だ。
あまり漫画やアニメに興味のない大翔も知っている。可愛らしい女の子が水着や際どい格好をしている人形の存在を。それを佳奈多は欲しがっている。
大翔は女性に興味がない。というより、佳奈多以外の全てに興味がない。佳奈多と離れてた大学時代と社会に出てから男女様々な人に出会ったが、恋愛感情を抱く相手はいなかった。佳奈多以上の人間なんていなかった。
しかし佳奈多はわからない。大翔は佳奈多しか愛せないが、佳奈多は様々な人と出会う上で、同性はともかく異性に興味を持ったかもしれない。小学生の頃からほぼ同性しかいない環境だった上に高校生の頃は大翔と付き合っていた。佳奈多に大翔以外の人間を近づけさせなかった。
佳奈多がもし女性の方が良いと思ってしまったら。
佳奈多から「大きいおっぱいが好き♡」なんて言われたら立ち直れない。そんな佳奈多も可愛いけれど。また佳奈多がいなくなってしまったあの頃のようになってしまうだろう。
「よ、良かった。聞くの、き、緊張、した」
もっと鍛えて雄っぱいを作るべきか本気で考えていたら、佳奈多がふにゃっと笑った。大好きな愛くるしい笑顔だ。大翔は感情を極力表に出さないように佳奈多に問う。
「ちなみに、どんなのが欲しいの?」
感情を出さないように気をつけたが、声が少し震えてしまった。巨乳な女性のフィギュアならともかく、小さな少女のフィギュアを求めていたらかなりショックだ。大翔と真逆過ぎる。佳奈多の好みに寄せていくことができない。フィギュアと大翔を比較して、大翔は嫌われてしまうかもしれない。
頬を染めて高揚しているらしい佳奈多は急いでスマホを操作している。そんな一つ一つの仕草が可愛らしい。大翔の大好きな佳奈多だ。嫌われたらもう本当に生きていけない。
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