黒い春 本編完結 (BL)

Oj

文字の大きさ
上 下
130 / 152
短編・番外編

フィギュアの話 1

しおりを挟む
二人暮らしを始めて数週間。甘くて幸せしかない日々の中、大翔は佳奈多に相談を持ちかけられた。
「あ、あのね…お、ぉ、お話、したいことが、あって…」
「うん」
ソファに並んで腰掛けていたが、佳奈多は大翔の方を向いてソファの上で正座になった。大翔も体を佳奈多に向ける。
佳奈多は正座をした膝の上に握った両手を置いて、何度も視線を大翔に合わせたり外したりしている。俯いた時はもくもくと口を動かしていて、大翔は佳奈多の言葉をじっと待った。佳奈多がもくもくと口を動かす時は、何か言いづらいことを言いたい時だ。どんな話だろうかと思いつつ、頬を染めて、時々太ももをすり合わせる仕草に、いやらしい話かと大翔はちょっと期待してしまう。
「僕、あ、あの、ふぃ、ふぃっ、ひぎ、あ、を、あの、う、うぅっ」
「大丈夫だよ、ゆっくりでいいよ」
大翔は握りしめて震えている佳奈多の両手を包む。佳奈多は何度も頷いた。
佳奈多はきちんと自分の中で整理をしてから話をしてくれる。言いづらいことは特に、ゆっくり時間をかけて何度も言葉を訂正しながら伝えてくれる。
佳奈多の言葉を待つこの時間、実は時々とても緊張する。あまり良い話ではない時があるからだ。佳奈多の雰囲気から悪い話ではないような気がするが、今日は果たしてどちらだろうか。いやらしい話だろうか。きっといやらしい話だ。
佳奈多がちらりと大翔を見上げた。
「ぅ、う…僕、ほ、欲しい、ものが、あっ、て」
「うん」
「か、買いた、くて、あの………ひ、ふぃ…フィギュア、なんだ、けど」
「…うん?いいよ…?」
佳奈多はぱっと顔を輝かせた。大きな瞳がより大きく開いて、涙が数粒零れた。そんなに大きく見開いて、目玉がこぼれてしまわないだろうか。大翔は佳奈多の涙を拭った。佳奈多は照れながら嬉しそうに笑う。緊張のあまり涙が出てしまったようだ。
一瞬、フィギュアとはスケートのことだろうかと考えて大翔は即座に考えを否定した。人形のことだろう。相談を持ちかけてくるということは、高額だったり希少だったり、何かしら手に入れ辛い理由があるのだろう。佳奈多が欲しいものならどんな手を使っても手に入れるし、購入する。佳奈多喜んでくれるならどんなことでもする。
しかし大翔はちょっと落ち込んでしまった。エッチな話じゃなかった。頬を染める佳奈多に、高校生の頃はしなかったような行為に興味を持って実践したくなってしまったのではないかと期待したが、そうではなかった。
エッチな話じゃなかったことももちろんだが、興味を持ったのがフィギュアだというのも気持ちが重くなった原因だ。
あまり漫画やアニメに興味のない大翔も知っている。可愛らしい女の子が水着や際どい格好をしている人形の存在を。それを佳奈多は欲しがっている。
大翔は女性に興味がない。というより、佳奈多以外の全てに興味がない。佳奈多と離れてた大学時代と社会に出てから男女様々な人に出会ったが、恋愛感情を抱く相手はいなかった。佳奈多以上の人間なんていなかった。
しかし佳奈多はわからない。大翔は佳奈多しか愛せないが、佳奈多は様々な人と出会う上で、同性はともかく異性に興味を持ったかもしれない。小学生の頃からほぼ同性しかいない環境だった上に高校生の頃は大翔と付き合っていた。佳奈多に大翔以外の人間を近づけさせなかった。
佳奈多がもし女性の方が良いと思ってしまったら。
佳奈多から「大きいおっぱいが好き♡」なんて言われたら立ち直れない。そんな佳奈多も可愛いけれど。また佳奈多がいなくなってしまったあの頃のようになってしまうだろう。
「よ、良かった。聞くの、き、緊張、した」
もっと鍛えて雄っぱいを作るべきか本気で考えていたら、佳奈多がふにゃっと笑った。大好きな愛くるしい笑顔だ。大翔は感情を極力表に出さないように佳奈多に問う。
「ちなみに、どんなのが欲しいの?」
感情を出さないように気をつけたが、声が少し震えてしまった。巨乳な女性のフィギュアならともかく、小さな少女のフィギュアを求めていたらかなりショックだ。大翔と真逆過ぎる。佳奈多の好みに寄せていくことができない。フィギュアと大翔を比較して、大翔は嫌われてしまうかもしれない。
頬を染めて高揚しているらしい佳奈多は急いでスマホを操作している。そんな一つ一つの仕草が可愛らしい。大翔の大好きな佳奈多だ。嫌われたらもう本当に生きていけない。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

泣き虫な俺と泣かせたいお前

ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。 アパートも隣同士で同じ大学に通っている。 直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。 そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

琥珀いろの夏 〜偽装レンアイはじめました〜

桐山アリヲ
BL
 大学2年生の玉根千年は、同じ高校出身の葛西麟太郎に3年越しの片想いをしている。麟太郎は筋金入りの女好き。同性の自分に望みはないと、千年は、半ばあきらめの境地で小説家の深山悟との関係を深めていく。そんなある日、麟太郎から「女よけのために恋人のふりをしてほしい」と頼まれた千年は、断りきれず、周囲をあざむく日々を送る羽目に。不満を募らせた千年は、初めて麟太郎と大喧嘩してしまい、それをきっかけに、2人の関係は思わぬ方向へ転がりはじめる。

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

旦那様と僕・番外編

三冬月マヨ
BL
『旦那様と僕』の番外編。 基本的にぽかぽか。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

処理中です...